第一八話 おカネは足りないけれど、弾正さんには期待できそうだ。
■天文一〇年(一五四一年)八月 甲斐国
領民たちに『ほうとう』を施すためのおカネを貰いに、領内の目ぼしいお寺や神社を回ってみよう。基準は、当然おカネを持っていそうなお寺や神社だな。建物が大きめでしっかりとメンテナンスされているところと考えればいいだろう。
寺社からカネ集め隊のメンバーとなったのは、モミアゲヒョーブ爺(飯富
カネ集め隊の先頭を行くおれの背後から、鬼に金棒、なんて言葉が聞こえた気がするけれど空耳だろうね。おれの持っているのは、指揮棒だしな。
略奪しない保証を与える代わりにおカネを貰うという
ええと、ノブレス・オブリージュってのに反するぞ。普段は偉そうにしてるけれど、偉い人は自国のためには身体張って守るぜって感じのやつだ。筋が通らない行動はまずいが、まだまだカネは必要だ。何とかやってみよう。
甲府の寺社はなにかしら付き合いがある場合が多いから、甲府以外の目ぼしい寺社に声を掛けてみた。だが、殆どの寺社の反応が、言葉には出さないけれど、何しに来たんだ、早く行ってくれ、なんだ。また禁制かよ、と思ったのだろうね。
これではいけない。ずっと同じようなことをしていると、きっと手痛いツケを払う羽目になるはずだ。今までとは方針を変えないとな。
「領民に施しをするための麦を買うカネが足りないのだ。ぜひともぜひとも協力願いたい。うむっ!」
これで文句はないだろう。
嫌々なのは見え見えなのだけれど、断ると禁制を出してくると思ったのだろうね。この作戦は割とうまくいった。一通り目ぼしい寺社を回った結果、目標には少々足りないけれど、とりあえず寺社からのカネ集めはミッション完了ということにしよう。
来年の信濃諏訪郡(長野県)出兵までは、このような貧乏生活が続くと思うと、少々気が滅入ってしまうのだが、気を取り直せるような嬉しい待ち人が甲府にやってきた。矢沢源之助(頼綱)さんと真田弾正(幸隆)さんの兄弟だ。
真田弾正さんは二八歳、矢沢源之助さんは二三歳だ。源之助さんは頼れるアニキと言う感じなんだが、弾正さんは、笑っていても目は笑っていないという、まさに曲者という感じだな。曲者弾正と心の中で呼ぶことにしよう。
味方にすればとても心強いし、曲者弾正さんには、諏訪攻めでは大活躍してほしいな。
「おそらく、諏訪大社は歴史もありますし、分家なども数多くありましょう。一枚岩ではありますまい。ふふふ」
『ふふふ』と目の笑っていない笑いが気になるけれど、こういう言葉を待っていたよ。おれの周りは、気のいいヤツらなんだが、愉快な脳筋たちばかりだから、弾正さんは知将謀将という感じでとても嬉しいし頼もしいことこのうえないぞ。
どうやら、弾正さんと源之助さんが、武田家に早々と来てくれた決め手だったのは、実力次第で家老にも取り立てる、という部分だったらしい。
希望どおりにどんどん働いて、手柄を立ててください。本当にお願いします。
「弾正、確かにうまい手だな。では、透破衆を調べにやろうか?」
「こんなこともあろうかと、既にあづま衆を潜り込ませてありますよ。ふふふ」
なんだよ、この用意周到さは。めちゃくちゃ有能だぞ。少し肩の荷が降りたような気がするよ。あづま衆というのを訊ねてみたら、真田の本領近くの
「さすがだぜ! 弾正」
「左様ですな。およそ一月あれば、諏訪の弱みも掴めるでしょう。ふふふ」
すごいな、あづま衆。あづま衆もすごいが、弾正さんがすごいのだろうね。きっと、このあづま衆が将来は真田忍者・真田忍軍などと呼ばれることになるのだろう。
テレビで観た『
正体を隠して行動している忍びのはずなのに『何で武田晴信の弟が知ってるんだ!』って余計なトラブルになるかもしれないからね。
おれが未来の知識を持っていることは極秘事項だ。これはさすがにアニキにも教えられないな。
しかし、弾正さんとあづま衆のおかげで、諏訪郡攻略の実現味がぐっと高まってきたぞ。諏訪郡を入手できたら、それほど大きな土地ではないけれど米作が期待できるし、交通の要所だしな。
取らぬ狸の皮算用とはいうけれど、諏訪狸の皮にとても期待が膨らんできたぞ。
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