第一七話 どんどんおカネを稼ごう(あるところから貰おう)
■天文一〇年(一五四一年)八月 甲斐国 躑躅ヶ崎館
領民にほうとうを施すためには、小麦を小麦粉にしなくてはならない。粉にするための
これは、後で売ればいいし、それこそ武田家で使用している臼を貸し出したっていい。
今年のように臨時的な使用ならば構わないが、理想をいえば、村に一つ水車動力の製粉場があればとても都合がいい。
小麦や蕎麦など、本来は甲斐で栽培するには適しているのに、これまでに栽培が盛んになっていないのは、美味しく食べる技術がなかった面もあるだろうな。
水車を利用した製粉はどこかで開発済みなのだろうか。甲州
今回のほうとう作戦のときには、本当はダシに鰹節を利用しようとしていたんだ。平成の鰹節とは違うようだけれど、海沿いの今川義元のお膝元の駿河(静岡県)で手に入れられるようだ。さすがに、炊き出しのような今回には高価で利用はできないけれど、美味しいダシが作れるか、少量手に入れてもらうようにしてみたよ。
煮干にしても鰯が原料だからこれも海沿いで作られるもの。味噌の原料になるだけでなく、そのもの自体が必需品である塩も海沿いで作られるものだ。
湊があれば交易もできるはずだ。
とにかく、海に面していないというのが、これほどまでに大変だとは思わなかったよ。海を手に入れられないと、国として限界が来てしまう。
いまは、
「駿河のお姉さまとお義兄さま(今川義元)は息災かなあ」
などと、脳天気なセリフでのほほんとしているアニキであるが、史実では義元が桶狭間の戦いで討ち死にした後に弱体化した今川家の駿河に同盟を破って攻め込んでいるほど、海は喉から手が出るほどほしい。
とはいえ、現状は友好国である強かな駿河のマロ義兄との『塩の道』を閉ざすわけにはいかない。
甲斐一国ですら、維持できるかどうかという貧乏国なのだから。
そうだ。マロから、親父信虎の養育費の請求が来ていたな。そのまま支払うのも何やら癪だし、駿府は賑わっているという情報は届いているから、豊かといっていいだろう。逆にカネを送ってもらうことはできないか? うむ。閃いたぞ。
「『駿河の義兄(今川義元)様から、武田家代替わりの祝いが来ていませんが、
マロは、『このままだと京の公家の三条家に、非常識だと思われる』と勝手に考えて、急いで大量のカネを送ってくれることもあるかもね。
うん。おれも義姉の綾さんが言ったような気がしただけだから、嘘は書いていないぞ。おれの空耳を手紙に書いただけだ。問題は全くないし、唐で常識かどうかは知らん。空耳だからな。
「これを、駿河の今川
通信担当の透破さんに文を渡す。これから駿河まで走って行って届けてくれるんだ。ありがとうね。
この代替わりお祝い寄越せ作戦はまだ使えそうな気がするぞ。黒川金山の頭領田辺新左からも、官途名許可の朱印状を持っていくときに使おう。
商人源右衛門からの情報で閃いたことがある。寺社もきっとそこそこはカネを持っているはずだ。しかし、いくらなんでもそれほどの付き合いのあるわけでない寺社から、いきなり代替わりのお祝いを寄越せは無理な話だよな。
「なあ、たろさ。国中の寺社から金を取る名目はないか?」
「うーん。禁制でも出してみるかい?」
よくあるのは、敵地に攻め込んだ際に、略奪する代わりに、禁制を出すパターンなのだけれど、自領の寺社に禁制を出すこともあるのが、なんとも戦国時代らしいところで、まるでヤクザさんのようだな。
普通に考えると、自領に敵国軍が攻め入ったら追い払うのが国主の責務だと思うけれどね。
ともあれ、国内の寺社に禁制を出すと同時に、代替わりのお祝い寄越せ作戦を実行しよう。
うむ。誰を連れて行こうかな。まずは、モミアゲヒョーブ爺(飯富
念のためにデブビゼン爺(甘利備前守虎泰)も連れて行くと賑やかで楽しいかもしれないね。
別に敵を攻めるわけではないから、兵はそれほどは連れて行かないで構わないけれど、山賊や夜盗に襲われたら恐いよね。まだまだ治安の悪い場所も多いから。
特急で作ってもらった五尺六寸(一六八センチ)の指揮棒も持って行くことにしようっと。
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