第七話 人材確保は大変だし、最初からできるヤツなんかいない。

 ■天文一〇年(一五四一年)七月 甲斐国 躑躅ヶ崎館つつじがさきやかた


 重臣に大見得切った以上、気合入れて食糧の確保をしないといけないよな。とはいっても、まず、おれには頼りになる部下がいないのが問題。


 とりあえず、信濃小県ちいさがた(長野県上田市)の矢沢頼綱さん、矢沢源之助さんだな。この人はおれの記憶でも、真田弾正(幸隆)さんの弟のはずだ。きっと、テレビで観た草刈さんにタメ口きける一族長老風のお爺ちゃんのはず。弾正さんの息子が昌幸さんイコール草刈さんで、その叔父さんだから辻褄あうね。

 矢沢源之助さんは、アニキから呼び出してもらうことにした。お兄さんの真田弾正さんもどうせだったら、一緒に来てほしいのだけれども、今は上野(群馬県)にいるらしいので、後回しだな。


 矢沢源之助さんが来るまでぼーっとしているのもなんだし、食糧確保を考えよう。とりあえずは救荒作物で甲斐で栽培できるはず、と書いてあった蕎麦、ジャガイモ、カボチャだな。

 ただし、ジャガイモとカボチャについては、確か南蛮貿易で手に入れるはずだから、今はきっと無理だろう。となると、蕎麦が第一優先だな。そば切りにしなくても、蕎麦がきや蕎麦餅にできるはずだし、兵糧丸という、行軍食にも使える気がしたぞ。


 とはいえ、蕎麦を栽培しようにもまずは種を仕入れないとな。


「なあ、たろさ。蕎麦を栽培しようと思うんだ」

「ふーん、蕎麦か。うまく栽培できるのかなあ」


 へなちょこアニキはしゃっきりしない返事だな。

 蕎麦を知らないか、読書の邪魔をするなか、おれはいまトンボを観てるんだよ、のどれかだな。当てにならないことこのうえないな。

 とにかく人がほしい。でも、人がいない。そういう時は、アウトソーシングってやつだ。


「たろさ、最近売り込みに来た商人っていないか?」

「坂田さん、って商人が来たようだけど、よくわからないな」

「あー。じゃあ、坂田さん、呼んでくれ」

「うん。わかった。呼んでみるよ。確か西のほうからきた人だ。でも、じろさ、苛めてはいけないよ」


 軍議で重臣を前にして啖呵たんかを切ったのが、アニキにとっては強烈だったらしく、どうもおれが怖い人ということになっているようだ。

 本当は違うのだけれども、もうおれは北風と太陽の『北風』でいいや。その方がアニキも本質的にやりやすいだろう。


 最近売り込みに来た人をオーダーしたのは、今の甲府の商人とあまり関わってない方が、新しいことをやりやすいし、きっと頑張ってくれると思ったから。

 それに、これから商人から税金をうまく取ろうと思っていて、手伝いをさせたいからだ。今までは、軍資金が足りなくなったりした時に、臨時で徴収していたみたいだからね。

 むちゃくちゃアバウトだよなあ。


 誰しも武田領内では税金は定期的に払うものだ、って形にしないとな。平成の時だって、大きな会社などは法人税を払っているはずだし、小さな商店などでも青色申告がなんだと言っているから、これまた税金は払っている。

 江戸時代でも、農民以外は払う税金はあまりなかった、って書いてあったはずだ。

 仕組はこれから考えないといけないけれど、みんなから定期的に税金取ります、という方針でいこう。


 お金といえば武蔵(東京都・埼玉県)に近い黒川というところに金山があって、金堀衆という人たちが金を掘っていて、金が上納されてくるのだけれど、どのようなシステムなのかが把握できていないから、呼んで確認しないといけないな。

 いずれにしても、金山からの金は臨時収入で、特別な出費の際に使うように、別枠で考えていたほうがいいだろう。いつ枯渇するかわからないしね。


 とりあえず、人材については矢沢源之助さんとその伝手でお兄さんの真田弾正さんに来てもらいたい。あとは、商人の坂田さんルートで探してもらうのがいいだろうね。

 ほしい人材をゲーム脳で考えれば、それこそ、滝川一益さんや、秀吉さんも気になる。

 滝川さんは、おれと同じ年のはずだが、現在は、甲賀(滋賀県)あたりで六角氏と関係が強いだろう。忍者かどうだかはわからない。もしかしたら、浪人してるかもしれないけれどね。


 いずれにしても、滝川さんに来てほしいと思って、使いをやって接触したり、手紙を送ったとしよう。

 貰ったほうとすれば『何で甲斐の田舎大名の弟がおれのこと知っているんだよ!?』って驚いてむちゃくちゃ警戒するはずだ。六角氏に仕えているのなら下手すると内通を疑われるから無視するだろうね。せめて知り合いの知り合いぐらいの伝手がないと無理だろ。浪人していたとしても、従弟の池田恒興の伝手を頼って信長に仕官するのが自然な流れだろう。あまり期待はできないな。


 現在、幼児の秀吉くんをさらってきたとしても、史実の秀吉並みの活躍ができるはずがない。秀吉は、三十回ぐらい職を変えたっていうし、農民出身なので、今川家配下の仕官した松下家できっと苛められただろう。そういった苦境を乗り越えたからこそ、人心掌握が得意になって実力を発揮できたんだと思う。


 チートなんて、あり得ない。素質はあったとしても氏より育ちというだろう。環境によって、素質に実力が伴って、他人よりずば抜けた能力を発揮できるようになっただけだろ。傑出した人材ってだけだ。


 家康だってそうだ。人質暮らしをしたり、我が武田家との戦いにボロ負けして、脱糞しながら泣いて逃げたから、我慢強くなったり、悔しさで実力を上げたんだと思うよ。


 だから、今は『トンボだあ。夏だねえ』などと暢気に庭を散歩しているへなちょこアニキも、これから一緒に甲斐を何とかしているうちに、実力がついてきて、世に知られる大名になるはずだ。

 いや、本当に頼みますよ。お兄さん。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る