10. 王宮にて
王宮にて
翌日、モナは王宮へ呼び出された。モナが案内役に導かれ王宮の一室に入ると、そこにはアリーもいた。アリーもまた呼び出されていたのだった。
「うちのお父様やお母様は全てを知ってたみたいなのよ」
開口一番、モナはアリーに言った。スフラブと王子の霊をめぐるこの計画――それは王宮から直々にモナの両親の元へ、話がいっていたのだった。昨夜、このことを聞かされ、モナはいささか立腹していた。
「おまえんとこの両親はスフラブにとって保護者のようなものだから……一言言っておく必要があると思ったんだろ」
「でもねえ。私たちには全く知らされなかったわけで」
「それはたしかにあんまり面白くないけど」
モナとアリーにこの計画が知らされなかった理由は、昨夜ターヒルが語っていた。二人が反対するだろうから、ということだった。そして、確かに反対するだろう、とモナは思った。だから……仕方のないことだったのかもしれないが。
王宮のその一室は、小ぢんまりとした私的な客間、といった風の部屋であった。公的に大々的に賓客をもてなすというよりも、親しく大切な友人をそっと温かくもてなすために造られた部屋、という雰囲気があった。流麗な植物模様の絨毯に、モナとアリーは二人並んで座っていた。
「で、もうスフラブは大丈夫なわけだろ?」
明るく、アリーが言った。そうなのだった。スフラブが目を覚まし、健康にも差し障りなく、そのためもう帰ってよいということになったのだった。そして、その迎えとしてモナやアリーが王宮に呼ばれたのだった。
スフラブの名前が出たところで、丁度それを聞いていたかのように、本人が戸口に姿を現した。モナとアリーは立ち上がり、駆けるようにスフラブの元に行った。
もう身体はいいの? とか、幽霊ってどんな感じだったんだ? とか、恐ろしくなかった? とか、矢継ぎ早に様々な質問がモナとアリーの口から出た。スフラブは面食らい、とりあえず、これだけは言った。「うん、大丈夫。心配しなくても、僕はぴんぴんしてるよ」
モナとアリーはスフラブを連れて部屋の中に入ると、彼を二人の真中に置いて座らせた。モナはなんだかくすぐったいような気持ちでスフラブを見た。本人の言葉通り健康そうなのが嬉しかったし、また、このような大役を果たしたスフラブが誇らしくもあった。
「よかったわ。無事で」
心から、モナが言った。スフラブがモナを見て、すまなそうな顔をした。
「あの……申し訳ありません。隠し事をしていて。今回のことはモナ様にもアリーにも言うな、って言われてて、それで……」
「いいのよ。それはわけあってのことだったんだから。それに私も怒ったりしてごめんなさい」
モナが言い、それに対しスフラブが「いえ、そんな……」と口ごもるように答え、それらを横で見ていたアリーが「おまえたち、喧嘩してたんだ?」などと言った。
さらにアリーはにやにや笑うと、
「いやー、でも大変だったんだぞ、昨日は。モナはなんだかんだとえらく騒ぐし、おれはそれに付き合わなくちゃだし、……って、えっと」
睨み付けるモナの瞳に出会って、アリーは慌てて口を閉ざした。そして、速やかに話題を変えた。
「でもすごいよな! よく考えてみたら、いやよく考えてみなくても恐ろしいことじゃん! 幽霊と対峙なんてなー。どんな感じだったんだ?」
「えっと……。なんていったらいいか……」
「怖くなかったの?」
モナの質問に、スフラブは少し首をかしげた。
「怖い……といえば、怖かったのかもしれません。でも、なんていえばいいのか……。僕は一度、図書館で謎の少年に会ってるんです。あの少年は怖くなかった。もし、王子があの少年ならば、やっぱり怖くないんじゃないかと思って……。そして、やっぱり王子はあの少年だったんです。それで、怖いというよりも、あの少年は寂しそうで……僕と仲良くなりたいんじゃないか、って思ったんです。あっ、こんなことはおこがましいですが……」
「ううん、そうは思わないけど」
「僕と似てるな、と思ったんです。僕たちは似たもの同士だな、って。向こうもきっとそう思ってました。……ああやっぱりおこがましいですね。僕と王子様が似たもの同士、だなんて」
スフラブは照れるように苦笑した。モナは、スフラブが東の国の王子ではないかと疑っていたことを思い出し、そのせいか、王子とスフラブが似ていると言われても、さほど違和感はないように思えた。
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