第3話 マリカ様にねらわれている

 毒で倒れた剣先生に群がる獣を避け、アヤとミキが今日も殺人ピエロにも似た無垢な笑顔で―――――

           幾多の地獄をくぐり抜けていく


汚れを具現化した心身を包むのは―――

                    ガラクタで補強した制服


高ぶる呼吸を乱さないように


    血に濡れたセーラーカラーは翻さないように


       ゆっくりと忍び寄るのが、ここでのたしなみ


死立しりつ、世紀末女学園。ここは悪魔の巣窟。





「アヤお姉様、どうにか逃げきれたようですわ」


「そうだねミキ。でも油断ならないよ、ここに安全場所などないのだから」


 教室から逃げ延びたアヤ達を高所から見下ろす人影が高らかに笑った


「オホホホ!その通りですわ!」


「「誰!?」」


 その人影はアヤ達の呼びかけに応えるように飛び降りた


「とう!」


 アヤはその人物の着地地点を予測し――――


「チャキンッ、ジュゥ・・・・・」


 ―――――素早く火炎瓶にライターで火をつけて投げた


「ふん!」


 「ブウゥンッ!」


      「え、ちょっと待っッて!?」


 飛び降りた謎の人物は火炎瓶に気付いたがどうする事も出来ずに、そのまま地面に向かって落ちていく


「トスッ・・・・」


 しかし幸運な事に投げられた火炎瓶は割れずに地面を転がった


「ほっ・・・」


 飛び降りた人物はほっと胸をなでおろし安堵した。そう・・・・


「あ」


 その転がった火炎瓶を自ら踏み潰してしまうまでは


「バリッッ、ブオオオォォォ!」


「きゃああああああ!」


 割れた火炎瓶から炎が噴き出し、飛び降りて来た人物は炎の中に消えた。その光景を見たアヤが冷たい目で呟いた


「何も言わずおしとやかに不意打ちすればこんな事にならなかったのに。はしたない」


 ミキも追撃に放とうとした手造りボウガンをしまって悪態をつく


「まったく、慎みを持って振る舞ってほしいですわよねアヤお姉様。食前酒で酔いつぶれてしまわれるなんて。しかしお姉様が火炎瓶を投げ損ねるなんてめずらしいですわよね、それとも狙って?」


 アヤが照れ臭そうに引きつった笑顔で答えた


「いやぁ、僕としたことがとっさに投げた時に肩を痛めてしまって。はははは…痛っ!」


「それはいけませんわ!すぐにお薬を貼りますから肩をお出しになって」


「ごめんねミキ」


 ミキはアヤの強靭でありながら柔肌と見間違う透き通った肌にサロンパスを貼った。貼られたさいにアヤが甘い声をもらす


「あっ…」


「お姉様わたくしに肩を触れられて感じてらっしゃるの?」


「湿布薬が冷たくて、声が出ちゃった」


「次は耐えてくださいね。念のためもう一枚貼りますから♡」


「まって、医薬品は貴重だから大切に使わないと…」


「えい☆」


 ミキはサロンパスを再び貼った


「ピタッ・・・」


「ああんっ♡」


 甘い声を上げるアヤを見てミキは満足したかのように笑顔でアヤに服を着せた。アヤはむくれてミキに言った


「もう、意地悪だねミキは」


「ふふ、さあ行きますわよアヤお姉様!あの襲撃者のフランスパンの様なドリルの焼ける臭いに誘われて別の襲撃者が来ますわ」


「そうだね、早くこの場を離れようか。その後にお仕置きねミキ」


「嫌ですわアヤお姉様、先ほどの事は不可抗力ですよ♪」




 こうして、また一人―――

             名の知れぬ戦士が倒れた


 無力ではしたない者を気にも留めない非情な世界


 無力なこの作品の作者にはせめて―――

         タイトルに彼女の名前を入れる事ぐらいしかできなかった

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