第9話 リン、本戦に挑む

 ネットをはさんで向かい合ったリンと矢島ダイナマイトはたった1学年の違いとは思われない圧倒的なボリュームの差があった。

 矢島は最初っからナメきっていた。

 リンのサービスで始まった試合は、リンのスピードのないスライスサーブを矢島がぶっ叩きいきなり得点し、リンには1ポイントも与えずブレークした。

 テニスってのはサービス側が圧倒的に有利で、特にも男子のトップレベルどうしの戦いはサーブ権のある方がゲームを取り続け、いかにブレークするかが勝負の分かれ目だったりする。


 でも中学生ぐらいならそんなに圧倒的だというほどではなくゲームを作る主導権を握れるから有利だぞぐらいかな。あくまでもオレの主観だけどさ。


 それにしても矢島のパワーの前にリンのやつはあまりに無力。自分のサービスゲームで1ポイントも取れないとなると、もう勝ち目がないなあ。

 2ゲーム目はコートを変えてここから2ゲームずつコートチェンジする。 

 リンの表情は予選の時よりもずっと落ち着いていた。腹を決めたみたいだ。

 矢島のパワーが乗ったファーストサービスには触れることも出来ないリンだったが、ちょっとコースが甘い所に来たり、セカンドサービスなら拾ってちゃんと相手コートに打ち返す事が出来た。

 でも3球目でバチンと決められるから2ゲーム続けて1ポイントも奪えなかった。


 リンのサービスはスピードはないけど、柔らかい手首を生かして多彩な回転をかけることが出来る。次のサービスゲームはリンなりに知恵を絞って工夫して、コースを丁寧に狙い回転を複雑につけながら攻めた。

 矢島の強烈なパワーの前には何をしても効果が無い感じがしたけど、それでも諦めず攻め続けた。

 矢島のミスも増えてきた。ネットにかけたりオーバーしたり、微妙にスポットを外されるからボールの勢いも本来のものじゃない。

 このゲームは3ポイントも取れた、つまりデュースに持ち込んだと言うこと。大健闘もいいとこだ

 次の矢島のサービスゲームでは、リンがベースラインよりかなり下がって構えた。スピードに対応するためだろうけど、ここまで下がったんじゃ左右に散らされると辛いし、仮に返せても次で確実に決められる。

 でもリンは矢島がサーブを打った瞬間、と言うよりラケットにボールが当たる直前に反応しているみたいにコースをよんで動いた。

 矢島にしてみれば、リンを睨みコースを決め、リンから目線を切ってボールを叩き、ボールの方向を確認したらそこに相手が瞬間移動しているような感覚におそわれると思うよ。


 リンの両手打ちから勢いのあるボールやスピードを殺したネットギリギリのレシーブが次々戻って来ると矢島も平静ではいられない。

 このゲームもデュースの末やっと矢島がキープした。

 次のゲームから互角の戦いにも見えた。パワーの矢島と素晴らしいラケット使いをするリンのタッチと敏捷性がナイスゲームを作った。

 ナメきっていた態度から目付きが変わり集中し始めた矢島からは結局1ゲームも取れなかったけど、かなり焦らせたのは間違いない。

 

 戦いを終えたリンに見ていた全員が健闘を讃える拍手を送った。

 戻ってきたリンに部員からの大喝采が待っていた。

 オレは

「ファーストサービスへの反応速度がハンパなかったけど、あれってなにかクセを見つけたの?」

そう聞いたら

「やっぱり萩原先輩には敵わないや。あの人トスアップするときコースによってちょっとだけ左手の使い方が違うみたいなんです。あまり早く動き過ぎるとバレて直されるからギリギリまでがまんしていたけど、やっぱり先輩にはバレちゃってたかぁ」

っと笑うリンに恐怖した。たった1ゲーム、5~6球相手のサービスを見ただけで、俺ですら何年間も試合してきても気付かない小さなクセを見つけただと~??

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デイジーの恋 美葉 @Bondsy

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