第2話

 変われ、俺。


 俺はようやく厨二病を抜け出した男だ。まあ成長、いや自覚。現実では突然異世界の扉が開いたりしないのだ。


 いつもの自販機の前にスーツ姿のお姉さんがいる。なにやら悩んでいる様子。



「やっぱり苦い」


「大人でも苦いんだ」



 お姉さんは苦笑いをする。なにをそんなに悩んでコーヒーを買ったんだろう?


 考えていると頭にジュースが当たる。多分、さっきのお姉さんに見られた。それがとてつもなく嫌だった。彼女はどう思ったんだろう、こんな俺を。



「ねえ!」


「ついに、見つけたんだね」



 お姉さんが河原に来たことにも驚いたが、自分の言った言葉にも驚いた。なに言ってんだ俺、気持ち悪い。



「ねえお姉さん、あれだろ?異世界から来たんだろ?俺をそっちに連れて行ってくれよ。ここに来るまでも何回か車にぶち当たろうと思ったんだけど。迎えが来てるってことは俺、もうどっかで死んで、実はもう転生してるんだろ?スーツ着てコーヒー飲んでいかにもな感じなのに苦いなんて言って。この世界の人じゃないんだろ?」



 早口で作り話をする。いや半分は本当かも。



「スーツ着てコーヒー飲んでるからって、ブラックはやっぱり苦いよ」


「そーかよ、ねえ俺を連れてってよ」


「どこに?うちの家に?それに車に当たる、って何?死にたいの?」


「生き返りたいの、一回死んで別の世界で」


「バカでしょ、あんたいくつよ?ていうか全然喋るじゃん」


「喋んないよ、学校じゃ」


「なんで?」


「なんでも。話すやついないし」


「ねえ、趣味とかないの?」


「軽い!慰める気あんの?」


「ないよ。うちも学校で喋んなくていじめられたけど、今も頑固になっちゃってると思うけど」



 お姉さんはそこで少し微笑んだ。



「私は楽しくやってるよ、好きなこと見つけたからね」


「ねえ、それって何?」


「教えない。自分で探してよ、さっきあんたを見つけたみたいに」


「教えろよ、そこは」


「靴づれになっても見つけてあげたんだから」


「あ、本当に靴づれしてる」



 ばんそーこをあげた。ラインしようって言ったらものすごく驚かれた。



 それからそれから


 朝起きてブラックを飲んで、学校に行って、休憩時間に小説を書いて、帰宅してスマホいじって小説を書いて。



「うーむ、こんなもんかな」



『あんたの小説面白かった、あの空に飛んでくところなんて、すごいよかった!』


『抽象的だな。誤字とかなかった?』


『〇〇のセリフの前の地の文…』




 それからあのお姉さんと小説の感想や評価の言い合いをするようになった。実はすごい嬉しいけど、言わない。言えない。


『じゃ、体に気をつけて』


『ありがとうね』

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