その先には、皓々と光を放ち宙に浮く大きな魔法の玉があった。まばゆい光に誰もが目をくらませている。

「この世界では力が全てだというなら、私は今、全ての力を光の玉に注ぎます。私はどうしても塔の魔女にならなくちゃいけない。私を止めたいなら、ローラ。あなたも全力で向かってきて。本気で勝負をしましょうよ」

 モニカは腹の底から声を出した。

 ローラはそれまでの緩んだ表情を消し、奥歯を噛んでモニカを睨んでいた。

「私はいつだって本気」

 眉間に刻まれた皺は、ローラの美しさをかき消していく。

「モニカ、あなたにはそう見えてはいなかったかもしれないけど」

 数歩下がって体勢を整え、ローラもモニカに杖を向ける。

「自分だけが必死だと思っているのなら大違いよ、モニカ。私にだって人生がかかってる。それにね、私はあなたみたいに小さな頃から丁寧に魔女の候補生として育てられたのとは違う。十三歳よ……。私が訓練を受け始めたのは十三歳。あなたみたいに長い間そればかりやって来た人間には負けたくないの。ここに辿り着くまで五年。これが長かったのか短かったのかはわからないけど、少なくともあなたよりはずっと効率的に力を身につけたと思ってる。最年少で塔の魔女になって見返してやるのよ。始めるのが遅すぎだと私をからかってきた世間に。そして、そんな私を必死に庇ってくれる両親を馬鹿にする周囲にね!」

 ローラの力が徐々に高まっていく。モニカに対抗し、杖先に炎を集めていく。

 巨大化していく炎の玉は、モニカの光の玉と大きさを競った。どちらかが大きくなれば相手もそれ以上の大きさに、それを見てまた片方が更に玉を大きくする。繰り返した挙げ句、二つの玉は結界ギリギリにまで達し、その熱が外に漏れて周囲がざわつき始めた。

「二人とも止めなさい! 『命に関わるような魔法は使わない』約束ですよ!」

 試験官の一人が結界の外から注意喚起するが、モニカもローラも魔法を止めない。

 それどころか、そんな弱い結界がいけないのだと試験官を完全無視した。

「本物の塔の魔女なら……、どうするかしら」

 ローラが呟く。

「ねぇ、どうすると思う? モニカ。やっぱりこのまま魔法を打って、二人のどちらが生き残るか確認するかしら。それとも、どちらかが互いの魔法を打ち消して平和的に力を示すよう勧めるかしら」

「さぁ、どうでしょう」

 モニカは真剣な眼差しで首を傾げた。

「塔の魔女は絶対的な力を持たなくちゃならない。慈悲深く、且つ最強であり続けなければならないと聞きます。結界を張り魔物の侵入から世界を守り、同時にありとあらゆることに目配せしなければならないと。言うなれば、こんなことでくたばるようなら塔の魔女なんかにはなれないと私は思うのですよ。だからこそ、私はこの光の玉を放つ。私はあなたを打ち負かさなければ、塔の魔女にはなれないのですから」

「なるほどね。残念だけど同感よ。けど、競り勝とうと負けようと、このままでは負傷しかねないのも事実。でもだからと言って、私はモニカの加護なんて受けたくない。……賭けをしましょう」

「……賭け?」

 顔を引きつらせ震えた声で言うローラに、モニカは首を傾げて返事する。

「試験官の言葉なんか無視して、本気でやり合ったらどちらが勝つか。勝った方が、相手を服従させる。恨みっこなしよ」

「いいわ」

 二人は互いの目を見合った。

 立場は違えど追い詰められた者同士、目指すものは一つだけ。

 譲ろうだなんて気持ちは更々ない。モニカもローラも、自分の確固たる居場所を求めているのだ。

 二つの魔法が激しくぶつかり合った。バチバチと火花が散り、熱風が巻き起こった。

 モニカは自身に回復と加護の魔法をかけて対処した。ローラは防御力と攻撃力の両方を上昇させる魔法をかけた。

 睨み合いは長く続いた。

 二人とも一歩も譲らない。ギリギリのところで均衡を保ったまま、二つの力は弾けることも押されることもなくぶつかり続けた。

 集中力が切れたら負け。

 わかっていたからこそ、二人とも必死に睨み続ける。

均衡が崩れるのは些細なこと。

 カツンと石畳によく響くブーツの音が二人の耳に届いたとき、どちらともなく緊張の糸がプツンと切れた。暴走した力が互いに直撃し、二人はそれぞれ真逆の方向に弾き飛ばされる。

 二人がほぼ同時に石畳に身体を打ち付けられた頃、その人物は彼女らのそうした場面を目撃した。そうして、パンパンと注目を集めるよう高い位置で手を叩いた。

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