⑮部屋のお姉ちゃん
がたたん。
玄関の扉が閉まる毎夜の音がする。靴を脱いで階段一段一段かけて上り詰める。壁に挟まれた廊下を曲がって離れた部屋に的を絞ろうとする。
そんなお姉ちゃんを、扉を開けた階段の頂上で待ち構える。
「あっ
青みがかるパステルの肩かけ鞄を指先で支えるお姉ちゃんが顔を見上げて言う。同じ土台に足を踏み置いた時、空いた方のお姉ちゃんの腕を掴んだ。
「ねぇお姉ちゃん。部屋来てくれない?」
言いながら半ば無理矢理案内してお姉ちゃんを私の部屋に連れ込む。「何何、珍しい潔」戸惑うお姉ちゃんがか細い敷居を股がるのを確認すると、後ろ手で室内をかっちり蓋した。導かれたお姉ちゃんは外行きの服のまま、落ち着き先を求めて私のベッドに座る。
お姉ちゃんは大学に進学して急にアルバイトを始めた。働き場所は、新しく開店した駅前のお酢屋さんだそう。休日平日問わず、お姉ちゃんはそのバイトで付きっきりのように時間を捧げてる。
私がお姉ちゃんとベッドの木枠の間に入ると、「どうしたの?何の話?」バイト帰りのお姉ちゃんが優しげに見る。
お姉ちゃんが労働に熱意を注ぐようになった訳は訊いたことがない。お姉ちゃんの学校生活については往々にして詳しく知らない。お姉ちゃんが家に居るだけで潤沢だと私は考えるから。実際お姉ちゃんが高校生の頃まではそれで良かった。だけどお姉ちゃんはバイトやサークル活動で帰りの遅い、典型通りの大学生に展開してしまった。偶に売れ残りのお酢土産を貰って帰ってくれるのは嬉しいけど、出来るならお姉ちゃんには何処にも行って欲しくない。昔の、今よりもっと家に居てくれたお姉ちゃんが恋しい。
「寂しかったよぅ」
久しく入っていなかったはずの私の部屋を見廻して油断したお姉ちゃんの膝に、冷え切った手を配偶させる。フレアスカートの織りを押してそのままじっとしてみる。この服を着たお姉ちゃんを見るのは初めてだ。
「潔どうしちゃったの?」
普段外に出さない気持ちをストレートに表した甲斐あって、お姉ちゃんがこっちにまじまじと伺う。逆に私はお姉ちゃんに乗せた手をもじもじさせる。ここだ、とタイミングを図って滅多にない素直を発揮する。
「偶にはお姉ちゃんに甘えたい……」
最近帰り遅いから、付け加えて言う。姉妹ながら面と向かうのはひょっとすると一年以上振り。並べた足に私が迫ってる体勢は例に見ないと思うけど。
「いいけど……こうしてればいい?」
お姉ちゃんが真下でうろちょろする手を見遣りつつ困った風に苦笑う。鞄も横に添えてゆたゆたスプリングに傾く様子は、疲れているけど妹には悟らせまいという気遣いだと分かった。だから私は「しばらくこのまま一緒に居て」と口にしてお姉ちゃんの太ももをさらさらする。整体師のお務めには非ず触りたいから触ってるだけなんだけど、避ける素振りもないから手は止めない。お姉ちゃんの足、温かい。次第に、足を満たすだけでは満足できなくなる。
「お姉ちゃん、動かないでね」
言うと布団を巻き添えにしながらふかふかとお姉ちゃんを中心に四分円を描いて回り込み、後ろの正面に移った。お姉ちゃんの真後ろ取ったり。
「何何、肩揉んでくれるの潔」
ちらり頭を揺らすお姉ちゃんの期待にそれもありかな、と過ぎるけれど私の思いつきは余儀ない。つまりやりたいことはベッドの上で別途にある。お姉ちゃんの背中を首からお尻まで眺めて、心を決めた。
「んっ」「!?」
そっとお姉ちゃんのウエストに巻きついた。腕をお腹の前に組んで、顔を身体に突っ込む。カーディガンがふわふわして、その奥にある素肌の温度が伝わってくる。埋めたせいで真っ暗、仄かにベージュが塞がり、その分お姉ちゃんに集中した気分になれる。
「ちょ、潔」
あぁ、お姉ちゃんの匂いだ。 綿菓子みたいに甘くてリラックスする匂い。外の空気を浴びても中味は変わらないで居てくれるお姉ちゃん。余計な虫も何も連れ立っていない証拠も裏付ける。ずっとこのお姉ちゃん成分を嗅いでいたい。美味しい。空気が美味しいなぁ。
何も言わずくっついてる私に、お姉ちゃんはこちらを振り返ろうと上半身をくねらせるけど、そうはさせない。むぎゅうと抱きしめてお姉ちゃんを逃がさない。お姉ちゃんの欠けた毎日で溜まっていたフラストレーションに仕返しする時は今だ。ここまで近付いて初めて気付いたお姉ちゃんの身体付き、それを奥の奥まで抱きしめ尽くす。姉妹として新鮮な心地が虚しかった心に沁みていく。
むぎゅーの時間が経つにつれ気持ちが燃えていったら、お姉ちゃんが「ギブギブギブ」呻き出したのでやむなくストップ。今度は後ろから足の付け根を支えてお姉ちゃんの横顔を見る。「ちょっと苦しいよぅ……手加減お願いします」私が思ってるよりも締め付けられていたせいか、妙にかしこまって言うお姉ちゃん。そんなお姉ちゃんがちょっと面白くて、可愛い。片目の瞑る顔がぱちくり大きい目とギャップを作って、こんなに可愛い女の人と血が繋がってると意識すると奇跡みたいに思えてくる。何でこれまで、手を出さずに居られたんだろう。
お腹をさすって復調を目指している最中、襟元でふわっと曲がる髪へ興味が出る。堪らず息を吹きかけた。お姉ちゃんは気付いていない。なら、と思い満を持して、食べちゃいたいくらい惹かれるお姉ちゃんの耳の中に吐息を吹き込んだ。「おわっ」びくっと猫だったら総毛立ってるような反応でお姉ちゃんが頭をそらす。けど下半身は抑えてるから離しやしない。お姉ちゃん可愛いなぁ。今まで侮ってたお姉ちゃんの魅力に、色んな欲がぽぽぽんと芽生えてしまう。横から不意を突いてキスしたりもしたい。想像したら高まってきた。乗せた手も汗ばんじゃう。
もう行くとこまで行こう。お姉ちゃんが深呼吸するのを見計らってその手をゆっくり伸ばす。近いというのもあるけれど、横から眺めると目立つある部分。一段と強い欲を感じて我慢ならない。デリケートであるのは確かだから、暴れて逃げないように慎重に。隙だらけに揺れるそこへ照準当てて。
さっ、と手を被せた。
お姉ちゃんのおっぱいが手の中に。
「にゃ、潔?」
整えかけた呼吸を崩して、お姉ちゃんが跳ねた。突然胸に来た私の手に驚いてる。そんなお姉ちゃんの小さい抵抗は気にせず、その胸を柔らかく包む。てかお姉ちゃんの胸、すっごく柔らかい。大きいのは見た目で知ってたけどカーディガンを挟んでも分かるくらい、すごい。敢えて言うなら冷凍しないで置いといた雪見大福の皮みたいでとにかく良い。そりゃ自前のはあるけどお姉ちゃんの方が豊かだし、揉み比べたら結果が示すと思うけど。だけどこの体勢が、何と言うか最高。後ろから触ってるから恥ずかしさも致死量には至らない上、斜めから覗くお姉ちゃんの赤面がやばい。意欲をそそる。口をぱかぱかしてて何この可愛さ。きゅんきゅん、いやぎゅんぎゅんするんだけど。
溢れるお姉ちゃん欲をおっぱいに溶かしてる内に、お姉ちゃんは口を押さえ始めた。ぱかぱかに気付いたから、ではないだろうけど何にせよ掻き立てるものがある。にやにや。どうよお姉ちゃん。私は気持ちいいけどお姉ちゃんもそうなの?声が出るまで、色々弄っちゃうから。
お姉ちゃんの胸全体を覆ってた手を一旦離す。そしたら一瞬解放されたお姉ちゃんは「え?え?」とこっちを向いて涙ぐみながら見つめてきた。「むぐぅっ」可愛過ぎて思わず反り返った。一秒だけ壁とお姉ちゃんの素晴らしさについて談義してすぐまたお姉ちゃんの上半身に腕を回した。
人差し指を立てた手で、鷲掴みより繊細に、つつーっと胸をなぞる。触れるか触れないかもどかしくなるよう狙って動かす。胸だけでなく脇腹やおへその辺りも、息吹きを交えながら行き渡らせる。そうして指先が上手くお姉ちゃんのツボに入ると、お姉ちゃんの身体がびくんとする。その度にはぁあぁと嬉しい蒸気を漏らすお姉ちゃんが愛らしくて、もっと気持ち良くさせたくなる。
胸の周りを周回して攻めどころを探す。何処だろ何処だろお姉ちゃんのポイントは。まさに手探りだなぁと思いつつぐるぐる渦潮みたいに動かしていった時、お姉ちゃんの身体が今まで以上に激しく跳ねた。後ろから見るに、ここはおっぱいの先っちょ付近。つまりあれ。あれをこうしたら「!!!」お姉ちゃんが悶える。必死に声を抑えて、抑えきれない声が聞こえる。察してたけどお姉ちゃんってやっぱり敏感肌なんだ。何処まで行っても可愛いお姉ちゃん。もっと可愛く悶えてもらおうと、お姉ちゃんのあれをじりじり撫でる。あれをこうされたお姉ちゃんは足もじたばたさせる。音に釣られて撫でながら下を見ると、マットレスをぎゅっと握るお姉ちゃんの右手があった。頑張って堪えてるのが分かるその光景に、欲求が進化した。
腕を再び引っ張って、ベッドとお尻に食い込んだ上着の中へ手を入れる。間の邪魔な布は省いて直接お姉ちゃんの生身に触れた。お姉ちゃんは最早驚くということはなくひたすら耐え忍んでる。お腹をそろおそろおと上っていった先、お姉ちゃんの生おっぱいに到達した。軽いタッチだけで、もちっとしてて天使のおっぱいみたいだ。おっぱいっていっぱい言うのは失敗かもしれない、ってことが霞むくらい癒しの触り心地。服の上からとは比にならないくらい柔らかくて、ふっくらしてて、何にも増して生温かい。これが母性、というか姉性かぁ。思いながらお姉ちゃんの肌に意識を吸われてしまう。外からでは見えないお姉ちゃんの裸をこの手で調べる。えいっと肩に頭を預けて、積極的に服の裏地を這い、中身をまさぐる。鎖骨にかかるネックレスをちゃりちゃり鳴らして弄る。
そして一糸まとわぬお姉ちゃんのあれをこれした。
濃密な瞬間を超え、お姉ちゃんの蒸気機関車のような顔がふにゃんと微睡む。文字通り肩の力が抜けて私の胸へリクライニングする。真っ直ぐ広げた足が髪の間から見えた。服から外に復帰させた私は、何処を向いてる訳でもないお姉ちゃんの腰に再度腕を組んでみる。
「今日は一緒に寝ない……?」
私が提案すると、ぼーっと乱れた服も直さないお姉ちゃんがはっとして、真っ赤な顔でこくっと頷く。
「で、でもちょっと待ってて荷物戻してお風呂入ってくるからっ」
すると珍しく慌てた話し方で告げ、千鳥足でお姉ちゃんが部屋を出ていった。まぁ何もかも珍しいのオンパレードだけど。
一人残った私は、ベッドに染みた残り香を嗅いでお姉ちゃんを待つ。お姉ちゃんの形を何回も再現して、はぁとかむひゅーとか喘ぐ。夢みたいなシチュエーションだったなぁ。夢はまだ続くけれど。
そうだ、いいこと思いついた。お姉ちゃんが帰るまでの間、部屋をそれっぽくしておこう。
リモコンを手に取り、電気を豆電球に切り換える。白かった部屋が紫色に変わる。
暗がりとなったついでに、服も脱いだ。脱衣した上下はベッドの隣に隠して、興奮しながら布団に包まる。
既に入浴した私は、お姉ちゃんのお風呂上がりを待つだけ。
お姉ちゃんが戻ってきたら、楽しみだなぁ。
《八月編》百合短編集 いろいろ @goose_ban
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