④覚醒したなっちゃん

日が傾いてきた頃。

わたしは先輩といつもの帰宅路を行く。

先輩と一緒に帰る帰り道は、格別だよっ。

「なっちゃん楽しそう。そんなに私と帰るの嬉しい?」

「えぇ、めっちゃ楽しいですっ。この時間が一日の中で一番幸せなんです!先輩が居るだけで学校も苦じゃありませんよ!先輩のおかげで今のわたしがあると言っても過言じゃありません!」

「あららそんなこと言ってくれるのはなっちゃんだけだわ。」

「えっへーそうですかぁ?」

「良い子のなっちゃんには、むぎゅー、してあげるっ。」

「本当ですかっ?」「えいっ」

「って、先輩本当に来たぁ!う、うわっすっごく良い匂い!しかも柔らかい!何これ天国?もふもふしてむはむはなんですけど!先輩のふくよかさが顔に包まれてやわわやわわわ。あふふ、気持ち良すぎ心地良すぎですよ先輩。サービスし過ぎじゃないですかぁ先輩ぃ。先輩ぃはぁぁ。先輩が一人、先輩が二人、先輩が三人、へへ、へへへへへへ」

「よーしよし、なっちゃんよしよし。なっちゃんも可愛いわぁ。」

「先輩ぃ先輩ぃ先輩ぃ先輩ぃ先輩ぃ先輩ぃ先輩ぃ」

「…………はい、ここまで。なっちゃん、そろそろ歩きましょ?日が暮れちゃうわ。」

「先輩ぃ先輩ぃ……もう終わりですかぁ、先輩ぅ。」

「ずきゅんっ。も、もうなっちゃんたら、いつになく甘えん坊なんだから。じゃああと少しだけ、ね……?」

「えっへー、やったぁ。」

えへぶえへへぶらへへへぼほほほへほほさばばばばへにゃほらりん

「なっちゃん危ない!!!」

「ぇ?」

先輩が離れた。

何、何ですか。

後ろを向いたら猛スピードのバイクが突っ込んでででででででででででででぷつん。



(わたしが)消えた。(わたしは)何処だ?(わたしは)何処にイる?(わたしが)イない。(わたしが)何処にもイない。(わたしの)身体がない。(わたしの)思考がない。(わたしの)世界がない。(わたしの)イデアがない。(わたしの)レゾンデートルがない。(わたしが)イたはずの(わたしの)場所に(わたしが)イなくなっている。じゃあ(わたしは)今何処にイる?(わたしが)今イる場所は定義できる?そもそも(わたしが)イるのは場所なのか?(わたしが)イた場所との違いはどう違うのか違わないのか。

(わたしは)誰だ?(わたしは)一匹のヒトだ。(わたしという)一個体だ。(わたしは)少なくとも目の前の「あなた」とは違う。そこの「あなた」と(わたし)には決定的な違いがある。

そう「あなたは」イる。「あなたは」そこにイる。だけど「あなたが」イる場所に(わたしは)イない。(わたしが)イないことと「あなたが」イることはイることという確かな軸で違っている。(わたしが)消えていることとは違ってイることは(わたしの)認識にある。(わたしから)見てもイることはイる。

「あなたは」どうしてそこにイられる?「あなた」と(わたし)の違いは確実だけれど何故違いはイる?「あなたは」誰かと主に(わたしと)違うことがイるのか?実際「あなたは」どうしてか(わたしと)同じになれないらしい。ならば「あなたが」すること考えることが(わたしと)等しくなるよう「あなたは」尽力すべきではないか?そうすれば(わたしは)この「あなたとの」差異に苦悩せずに済むのに。「あなたは」存在を控えるのがよいと(わたしは)思う。

(わたしが)考えて「あなたが」考えていないものがイる。(わたしの)考えと「あなたの」それは常習的に反している。「あなたが」見えていない(わたしの)世界に「あなたが」イるのは「あなたが」相応しいくないと(わたしが)思うから「あなたは」正しくイるべきだ。(わたしは)いつも「あなたの」話すような言葉を(わたしが)言うことは「あなたと」違って(わたしに)ない。(わたしが)頭で考えることは「あなたには」できないし「あなたには」できるはずもない「あなたは」そうだから(わたしが)抱く(わたしの)心に(わたしが)宿す(わたしの)イデオロギーは「あなたの」存在の程度を顕著に(わたしに)示す。「あなたが」心で造り上げる「あなたの」口から出る言葉は(わたしの)心を波立たせ(わたしに)備わるボーダーラインを(わたしに)断らず(わたしが)イることを「あなたは」知らず(わたしが)爛れた覚醒に吹く。「あなたは」いつだって言の葉の銃を撃ち続けているのだろうが(わたしが)自身と「あなたが」静まる現象に(わたしが)身を任せて「あなたの」射程距離から(わたしは)離れようとするのだけど「あなたが」省みずに(わたしの)脳に「わたしが」移ると(わたしと)映れば(わたしが)消えるのを繰り返して永遠に認知されない。(わたしが)着る「あなたへの」心象は「あなたが」狭い料簡で(わたしを)見誤って「あなたは」訂正しない「あなたが」言い捨てる無知の無知に繋がって決して離れない。更に悪いことに「あなたは」決まり切ったように「あなたは」表面的な論理を「あなたは」組んで「あなたは」あたかも「あなたは」正極の側だと「あなたは」陶然の表情で「あなたは」生きたまま「あなたは」言うけれど「あなたは」理想に「あなたが」生きていけないだけだから(わたしが)関わるのは(わたしにとって)時間の無駄でしかない。「あなたが」声を高くして「考えて話さないあなたが」ひゃひゃと「恐らく考えることを知らないあなたが」相槌を発砲する「チューリップに喩えられる態度のあなたの」姿を(わたしが)目に入れてしまえば(わたしの)外側にある間延びした領域が「あなたの」発声を棘として受け止めることで(わたしが)穎敏に変化する。(わたしが)過激の琴線を「あなたに」伸ばしたところで「あなたの」花塗れの頭の中は(わたしと)一体一でないのを狙って(わたしが)喋らないことを良いことに「あなたの」無意味な雑音が(わたしに)ぐるぐるとぐぢゃぐぢゃと(わたしの)中身が(わたしの)心で(わたしが)沸騰して(わたしは)安定しない。(今までのわたしが)経験してきた「あなたへの」日常の思い出によって(わたしが)パラダイム内で(わたしたる)由縁を炸裂するイメージは(わたしの)中で音もなくただ静謐に「あなたの」残酷を夢描く。「あなたは」言語も行為も全て何処かのものだから「あなたは」自分の特性だとか迂闊にも思っているのかもしれないけど「あなたが」自己周辺と絡みついて抱き合って朗らかに枠内の同調を求める時点で「あなたは」存在価値のない通行人で(わたしにとっては)それ以下の動物のはずだ。その事実があるのに「あなたの」中途半端に共通した発音が(わたしの)耳に介入してきて(わたしの)イたはずの場所に潜り込んできて「あなたは」素知らぬ振りして「あなたが」自由に(わたしの)気持ちも(わたしの)状態も(わたしの)足踏みも「あなたは」理解しないし「あなたが」する気配もないし「あなたの主義には」どうせできないだろう。(わたしが)視線を下げてその程度に思う言動を「あなたは」何となくとか一定だからとかいう浅さで眩しく見上げる様が(わたしに)見捨てたい合理と処分したい道理を与える。(わたしが)失くせば「あなたは」失くすから(わたしは)自己が比較的定着するけど「あなたを」失くすということは「あなたに」関心があったことになってしまい「あなたを」失くすことに心残りが調和して(わたしが)納得に欠ける部分もあるがやはり「あなたを」失くしたい。若しくは「あなたが」失くせ。「あなたが」今までの行動履歴に「あなたから」疑念を見出して「あなたに」負荷を寄せて(わたしが)これ以上「あなたの」声を聞く前に「あなたが」自主的に「あなたを」失くそう。「あなたは」失くす気にもなれない顔で「あなたの」失くし損ないの台詞を(わたしに)言うならば「あなたに」目掛けて「あなたが」失くすという選択肢を(わたしが)プレゼントして「あなたを」消極的に沈滞させて「あなたは」最終的にイなくなる。「あなたが」イ続けるなら(わたしが)イなくさせ「あなたが」イなくなるなら(わたしは)安心する。「あなたが」片隅で捲し立てれば(わたしが)失くしたい(わたしの)強く上下する(わたしに)回顧する「あなたの」性質を(わたしが)捻じ曲げて矯正する余地もなく「あなたを」瞬間的に「あなたを」失くす。(わたしが)失くす「あなたを」失くす。「あなたを」失くす(わたしが)失くす。(わたしが)失くす「あなたを」失くす「あなたが」失くなる「あなたを」失くす。「あなたを」失くして「あなたの」空っぽな「あなたの」観念を(わたしが)改稿して「あなたの」頭皮の「あなたの」蓋を(わたしが)オープンして「あなたの」麹味噌を(わたしが)ミキサーで(わたしが)掻き混ぜて「あなたの」イった顔面に(わたしが)スプーンで掬ったそれを添えて(わたしが)彩りを考えて「あなたの」額から「あなたの」神経を(わたしが)短冊のように「あなたの」前髪に(わたしが)供えてあげよう。(わたしの)記憶が二度と(わたしに)発芽しないよう(わたしが)ちゃんとお願いして「あなたの」体に(わたしが)飾り付けをして「あなたは」生前すら失き者にされて「あなたは」元から徒爾と変わらない来由を(わたしが)確認して(わたしは)平常に還る。だから「あなたは」早く(わたしの)意志を「あなたが」汲め。高々「あなたには」見えないだろうけど。

(わたしは)そんな「あなたとは」違う。



0.0000000000000001秒の走馬灯を通過して。

バイクが脇を抜けた。

意識が、戻った。


先輩が駆け寄ってくる。

「なっちゃん大丈夫!?」

「……あ、あはは…………大丈夫ですよ、先輩。」

そんな、あなたが心配することないですって。

死ぬことくらい大したことないじゃないですか。

死ぬくらい。

あーんど。

「わたしはもうわたしを取り戻しましたから。」

「?」

「それじゃさよなら、先輩。」

「え、ちょっ」

手を伸ばす先輩を無視して家を目指す。


さぁ、自分本位に生きるぞっ。

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