③魔法カード:無限ver.

ある朝起きると、学習机の上に何かが見えた。

何だろ……見慣れない、紫色の、紙……?

眠い目をこすってベッドから机に移動すると、その何かの輪郭が徐々にはっきりする。長方形で、大きさは携帯より少し小さい。インドア派の子供が遊ぶカードみたいだ。

近付いて目を凝らすと、上の方に「魔法カード」の文字があった。魔法カード魔法カード、うんうん。真ん中には四角く囲まれた枠があって、薄暗い黒色が占めている。ほうほう。何か本当にゲーム用のカードみたいだ。じゃあ下の方にはカードの効果が書かれているのかな、と目線を移せば神以しんもって説明欄があった。けど、内容が変だ。

「どれどれ……このカードを手にした者が、その愛する者について強く念じると、カード中央の枠内にその者の容姿が描出される。完全に描出された時点で、その者はこのカードを持った者を愛するようになり、加えてその者の元にこれと同様のカードが行き渡る。愛された者が愛する者を念じた場合、愛する者には二枚目のカードが行き渡り、そのカードは再び使用することができる。三枚目以降も同様である。」

ごちゃごちゃした文章だな。まぁ要約すれば自分の好きな相手が自分を好きにできるってことかな?恋愛カードバトルなのかこれ。にしてはデザインがそれっぽくないし、何となく遊○王っぽいけど。

どうしよこのカード。遊び心をあしらった呪いのお札だったら破棄も手だけど、却って怨念を買う恐れもある。かと言って部屋に飾るのも災難を呼び寄せそうで不安。困ったな。

他人が見たらカードを生贄とした儀式のように、机の外周をぐるぐるして対策を練る。けれど良案が浮かばず、うじうじしているとお母さんから「起きてるー?」と扉を介して呼ばれた。「うーん」と生煮えな返事をするついでに時計を見たら、もう出発の時間だった。やば、急がなくちゃ。

部屋を抜け、掃除機が吸い込むように朝ごはんを済ませ、「いってきまーすっ」お母さんに告げながら鞄を背負う。

結局カードは制服のポケットに入れて、家を出た。



少し進んだ先の交差点に着いたわたしは、いつも一緒に登校する人を待つ。その人は一学年上の先輩で、わたしが入学当初迷子になりかけていたところを助けてくれた恩人。方面は違うけど、近所に住んでいることが分かって以来、こうして待ち合わせをして登校している。

だけど今日は来るのがちょっと遅い。わたしも今朝のごたごたで遅れたことを考えれば、結構遅れている。確かにのんびり屋さんな性格だとは言え、これだけ時間を過ぎるのは珍しい。このままだと遅刻寸前……いやもう遅刻確定か。まぁ遅刻はどうとでもなるからいいとして、それより何かあったのかなと心配してしまう。

連絡を入れてみようと携帯を開いた時、道路の端から人影が見えた。茶色のセーター、黒と赤のスカート……あ、よかった。ゆかりさんだ。

「ゆかりさん、遅いですよっ」

携帯を閉じて、駆け寄るゆかりさんに言う。

「ご、ごめんなさい、ななちゃんっ」

わたしの前に到着し、走ったおかげでぜぇぜぇ呼吸を乱す。開いた口元が朝日に照らされて光っている。

「朝、少し、忙しくてっ」

「珍しいですね。何か用事でもあったんですか?」

「……い、いや、ちょっと……ね。」

頬に指を当ててお茶を濁された。言えないことでもあるのかな。まぁ無理に言わなくても、いいんだけど。ゆかりさんお嬢様だし、庶民とは違う多忙さがあるのかもしれない。

「これじゃ、遅刻しちゃうかな……」

申し訳なさそうにしょぼーんと俯くゆかりさん。何だか子犬みたい。高級な。

「もう遅刻はいいです。」

本当はわたしだって遅れてきたから偉そうなこと言えないけど、とりあえずゆかりさんをあやす。そして、

「その代わり、はい」

膝に置いた手を奪って、わたしの手に握る。

ゆかりさんは、はっとして顔を上げる。

「これでゆっくり行きませんか?」

わたしの右手とゆかりさんの左手。確かな感触を通じて、言ってみた。偶には時間に囚われず、二人でのんびり歩くのもいい、よね。

「……はいっ」

薄暗いゆかりさんの表情は、瞬く間に笑顔になった。



教室の窓際で、物思いに耽る。

物というよりは、人だけど。

そう、ゆかりさんだ。

さっきから何故か、ゆかりさんのことが気になって仕方ない。意識し始めたのは、ほんの数時間前からだ。つまり実を言うと、登校中も意識していた。少し屈んだゆかりさんの胸元とか、唇だとか、目を奪われた。目が離せなかった。冷静な振りをしていたけど、内心ではすごくどきどきしていた。その深層心理が働いて手を繋ぎたくなったのかもしれない。

ゆかりさんのことで頭がいっぱいだ。ゆかりさんの制服姿、ゆかりさんの私服姿、ゆかりさんの明るい表情、ゆかりさんの色っぽい顔、ゆかりさんの寂しげな佇まい、ゆかりさんのまったりした雰囲気、色んなシチュエイションのゆかりさんが脳裏に上映される。浴衣を纏ったゆかりさん、ウェディングドレスに包まれたゆかりさん、アイドル衣装のゆかりさん、ナース服のゆかりさん、セーラー服のゆかりさん、エプロンを着たゆかりさん、水着のゆかりさん、パジャマで眠そうなゆかりさん、着ぐるみの中のゆかりさん、宇宙服で浮遊するゆかりさん、小学生のゆかりさん、尻尾の生えたゆかりさん、天使になったゆかりさん、わたしの隣でおはようと囁くゆかりさん……いよいよ架空のゆかりさんまで浮かんできた。わたしの頭はどうなっているんだ。

頭をぽんぽん叩いても変わらない。脳のあちこちでゆかりさんが溢れてくる。時間が経つにつれてそれが激しくなる。授業中だと言うのに、頭が教師の言葉を受け付けない。理性でも感情でもない何処かからゆかりさんを求めるみたいだ。発生源が特定できない。

何で急にこんな風になったのだろう。思春期……で説明がつくとは思えない。これが恋、なのかな?確かにわたしは今まで恋という恋はしてこなかったし、しなくてもいいかと思っていたけど、こんなに掴みどころのない感情なのか?感情というか、感情を越えた何かのように感じる。それに唐突だ。恋は突然にってこういうことか?それこそにわかには信じられない。

仮に恋だとしたら、わたしはゆかりさんに恋しているということになる。仮定じゃなくて実際にも、わたしはゆかりさんのことが好きだ。でもそれは何というか、パートナー的に、持ちつ持たれつの意味で。一つ年は離れているけど、親しみと尊敬を持って接しているし、今までそうしてきた。恋愛対象としては考えたことがなかった。だけど今のこの夢見心地の頭ではそうとしてしか捉えていない気がする。別に嫌悪感がある訳ではけど、脳の急展開に理性が追いつけていない。この調子だと次にゆかりさんに会った時にはうっかり抱きついてしまうかもしれない。ほら、今もゆかりさんの手の温もりが発熱したみたいに額に集う。もう何が何だか分からない。

いっそ恋かどうかはどうでも良い。だから恋でもいい。ただこの周章狼狽を誰か、何とかしてくれぇ。

そう切に願った、二限目終了間際。



昼休み、わたしは窓際で一人悶々とする。

だめだ、ゆかりさんの妄想が止まらない。頭の中のゆかりさんが一時間以上卵焼きを箸に挟んで食べさせようとしてくる。的確に好物を差し出されて、ぐっと堪えた挙句ゆかりさんに口を向けるとぶつっと映像が切れ、それをエンドレスで繰り返す。そんな一種の催眠術が幕を閉じたと思ったら、第二第三のゆかりさんがニューロンに乗ってわーわーやってくる。お手頃サイズのゆかりさんが「ななちゃん、ななちゃん」と言ってわたしの頬を摘む。きゅんときたあまり、ミニチュアゆかりさんの後ろの襟を掴んで持ち上げる。卵焼き大のゆかりさんは唇に指を乗せてぽへーっとする。そんなゆかりさんが食べちゃいたいくらい可愛くて、思わず口に入れちゃう。「あーれー」と言いながらゆかりさんが喉の奥へ消えていく。すると景色が切り替わり、普段の教室が映し出される。わたしとゆかりさんが何故か二人羽織でお弁当を食べようとしている。「ななちゃん、はい、あーん」「ゆかりさん、それ鼻です、鼻」「んー、ここじゃないの?じゃ、ここかなっ」「ゆかりさん、そこは目です」「もう、ななちゃんったら」「へへ、ゆかりさんこそっ」と仲睦まじく片道切符の食べさせ合いをする。平然を装うわたしの背中にはゆかりさんの上半身の膨らみが触れていて、必然背筋から汗と熱が漏れる。「何だか暑いね」と言われて余計に汗腺の分泌が促進され、後背部がますます水分に溺れていき、やがて背骨まで液体と化すと、ゆかりさんもどろどろに溶けて、混ざりあって、一つになった。

……って何だこれ。そして何言ってんだわたし。現実のゆかりさんなんだか非現実のゆかりさんなんだか区別不能になってきた。もうゆかりさんなら何でもいいや。ゆかりさん大好きだ。

そんな感じでゆかりさん教に入信していると、床でぱらっと音がした。ゆかりさんの幻覚を維持しながら覗いた場所にあるのは、今朝手にしたカードだった。そういえばすっかり忘れていたなと思い、拾い上げる。

そのカードを数秒眺めて、そうだっ、と閃く。これを使えば、ゆかりさんのハートもゲットできるのでは?だよねそうだよねきっとそう。だってカードにそう書いてあるもん。あれ、わたし天才かも。わたし恋すると冴えてくるタイプなのかな。

早速カードの指示に従おう。って言っても念じるだけか。よーしじゃあゆかりさんを念じるぞ。捻じるほど念じるぞ。既にわたしの頭の螺子は捻じれ気味だけど、ねじねじ捻じろう。ゆかりさんゆかりさん、ゆかりさんゆかりさんゆかりさんゆかりさんゆかりさんゆかりさんゆかりさんゆかりさんゆかりさんゆかりさんゆかりさんゆかりさんゆかりさんゆかりさんゆかりさんゆかりさんゆかりさんゆかりさんゆかりさんゆかりさんゆかりさんゆかりさんゆかりさんゆかりさんゆかりさんゆかりさんゆかりさんゆかりさんゆかりさんゆかりさんゆかりさんゆかりさんゆかりさんゆかりさんゆかりさんゆかりさんゆかりさんゆかりさんゆかりさんゆかりさんゆかりさんゆかりさんゆかりさんゆかりさんゆかりさんゆかりさんゆかりさんゆかりさんゆかりさんゆかりさん……ふう、こんなもんかな。これでゆかりさんはわたしのことを好きになったはず。

おっ、本当にカードの中にゆかりさんの顔が出現してる。すごい。やっぱりこのカードは本物だったんだ。真正の魔法なんだ。となると今頃ゆかりさんはまるでさっきのわたしみたいにわたしのことで頭が満たされ始めているのかな?これからわたしのことが好きで好きで堪らなくなるんじゃないかな?

よし。なら告白しよう。ゆかりさんに好きだと言おう。

今なら告白しても確実にオーケーが貰える。ゆかりさんと付き合える。まぁ偽物だとしても、ここまで気持ちが昂ったら告白するしかない。この想いは伝えないとダメだ。ダメになってしまうよ。わたしの蠢く何かが張り裂けそうだ。

決行は、放課後にしよう。その頃には大分温まっているはずだ。わたしとゆかりさんの恋心が。

あー、放課後が楽しみだなぁ。



授業が終わってクラスメイトが続々と帰宅していく中、わたしは一人席に座ってゆかりさんを待つ。わたしとゆかりさんはいつもここで待ち合わせをして一緒に帰る。

窓から見える外の景色は、稠密ちょうみつなオレンジ色に染まり、シルエットの不明瞭な千切れ雲が魚みたいに泳ぐ。色違いの海と空が逆さまになった現実を思い描いて、童心に似た好奇心が風と共に揺らめく。遠くの建物と建物の間を流れる様は岩盤の隙間に隠れているようにも見え、刹那の自然の儚さと荘厳さを覚える。美しき天を見上げるだけで、わたしの微かな一日は終わってしまいそうだ。

なんて詩人を演じている間に、ゆかりさんが教室に入ってきた。こっちの方が百倍美しい。

「ななちゃん、来たわよー」

扉を離れ、席の後ろを通り抜け、ゆかりさんがわたしの元へ近付く。わたしは敢えて返事をしないでゆかりさんの接近を待つ。

席二つ分の距離に縮まったその時、席から立ち上がり、思い切って叫ぶ。

「ゆかりさん!」

夕陽に染まるゆかりさんの顔に向けて、息を吸い込む。

「わたし、ゆかりさんのことが……」

手の中のカードを握りしめながら、心の奥から。

「好きです!」

言った。

言い切った。

瞑った瞼を開いて、ゆかりさんを見る。

ゆかりさんは茫然と立ち尽くしている。瞬きもせず、口をぽかんと開けて、わたしの方を向いている。

そのまま数秒の時間が流れ、蒸発しそうな空気が漂った後。

「まさか、本当に……」

掠れかけの小言を呟いたゆかりさんは、

「……私も、好きよ。ななちゃんのこと。」

わたしの胸に抱く的を、真っ直ぐに貫いた。

「ゆかりさんっ」

我慢できずに、抱きついた。

するとその衝撃で、ゆかりさんの背負っていた鞄から何かがひらりと落ちた。

「あ、ごめんなさいっ、何か落ちちゃいました」

「……あっ、それは!」

足元に落ちた紫色のそれを拾おうと思い、表を捲ってみると、「魔法カード」と記された文字と、わたしの顔が描かれていた。

……ふぇ?

「…………ゆかりさん……何ですか、これ?」

掴んだカードを目線の直線上に構え、問う。

「あ、あら、な、何でしょう。知らないわ。」

カードを間近に見せつけられたゆかりさんは落ち着きなく虹彩を動乱させ、上擦った声でうそぶく。

「じゃ、捨てていいですか?」

「!だめっ!」

陽動すると、その嘘が分かりやすく露わになった。

「やっぱりゆかりさんのものじゃないですか。それに今、『まさか本当に』って言いましたものね。」

「……」

「ゆかりさんはこのカードでわたしを、その、虜にした訳ですね?」

「…………はい」

沈黙というの名の肯定を醸し出していたゆかりさんは、決まりを悪くしたまま小さく認める。

「……そうですか。でもよく考えたら、すぐ気付きますよね。わたしと一定以上の深い関係にある人はゆかりさんくらいですから。それを踏まえて、『加えてその者の元にこれと同様のカードが行き渡る』ことを考えれば、送り主、つまり念じた者はゆかりさんに特定できる訳です。ゆかりさんが何処から、誰からカードを受け取ったのかは知りませんけど。」

「そ、それは私だって」

「まぁゆかりさんは綺麗で、モテますからね。何処の誰とも知らない女の子から恋い慕われてもおかしくないんじゃないですか。」

もし知らない人から好意を寄せられていたとしたらそれは絶大な好意だ。何故ならその人も誰かから想われたことでカードを受け取り、その誰かに心を引っ張られながらも片想いするゆかりさんへの愛を念じたということだから。この魔法カードに起源があるのかは知らないけど、その人が最初でもない限りその事実は確定している。けれどその強い想いとは違って、わたしの想いはカードの効果で盛り上がっただけのものだ。想いとすら言えないかもしれない。そんなわたしがゆかりさんを想うことにわたし自身苛立つし、ゆかりさんを想った人へのどうしようもない嫉妬心も湧いてくる。何だかゆかりさんしか見えてなかったわたしが馬鹿に思えてきた。

「わたしじゃなくても、別にいいんじゃないですか?」

ゆかりさんを想った人と同じようにゆかりさんもわたしを強く想ってくれたことを理解はできても、雑多に飛び交う嫌気が共和を阻んで、素直に受け容れられない。

「そんなことないっ」

それまで縮こまっていたゆかりさんが、声を張り上げた。

「そんなこと、絶対ないよ……」

ゆかりさんの声の波は語尾で減速し、声質に湿気が生まれる。表情を上下に歪ませ、目縁には少量の涙を浮かせる。その顔に、ちくりと心が痛む。

「なら、証明できますか?」

意地の悪い心は、引き続き悪のままで尋ねる。

「……できるよ。」

するとゆかりさんは言った。わたしがその意外な返答に戸惑いを覚えていると、ゆかりさんは制服のポケットから一枚のカードを取り出した。わたしやさっきのゆかりさんのカードと同じ、魔法カードだ。しかし今のわたし達のカードとは異なり、中央部に何も描かれていない状態。ということはわたしが念じた時に発生したカードか。

「この条件を見て。『愛された者が愛する者を念じた場合、愛する者には二枚目のカードが行き渡り、そのカードは再び使用することができる。三枚目以降も同様である。』」

ゆかりさんが指差す字面を、自分の手元のカードで追う。

「……私は一生、カードを念じ続けるわ。何十枚も何百枚も何千枚も、ななちゃんを想い続ける。それでななちゃんに、わたしの想いを証明する。」

「……そうすると、わたしも念じないといけないじゃないですか。」

「そう。だから、ななちゃんも付き合って?」

ゆかりさんは乾いた涙を振り払い、無垢な瞳と、いつもの指を頬に当てる仕草でそう要求する。優しさの塊のような言葉に迫られて、流石のわたしも折れた。

「……分かりました。ゆかりさんがそこまで言うなら、付き合ってあげます。」

わたしが言うと、ゆかりさんの表情がぱぁっと明るくなる。だけど、天邪鬼な精神部位が蛇足を残す。

「ただし、もし一日でもカードが送られてこない日があったら、もうゆかりさんのことは知りませんからね。」

「ええ」

内容とは対照的にゆかりさんは柔らかい笑みを零す。

「一生無視しますからねっ」

「そうしていいよ。わたしは一生ななちゃんのことを視るから。」

その発言に、直りかけていた心の的が、強烈に撃ち抜かれた。



この日を境に、わたし達は毎日カードを送り合った。

一日一回、日によっては二回三回とカードのやり取りをした。カードは教室でも家でも常に何処からともなく現前し、その度にわたしはゆかりさんのことを念じた。ゆかりさんのカードを早く補充するためという建前の裏で、ゆかりさんへの気持ちを心底しんていから溢れさせていた。

カードには料理中のゆかりさんや寝巻きを羽織ったゆかりさん、一口大のゆかりさんなど一枚一枚別種の姿が描写され、新たな画像を見る折にわたしの愛の祈念は助長されていった。今では収納用に用意したフォルダも三冊目に及んでいる。時々開いてみると、積み重ねてきた想い出が一面に広がって、ゆかりさんのことがもっと愛おしくなる。

わたしの生活はもう、ゆかりさんなしでは成り立たない。カードを送り合うにつれて、わたしのゆかりさんへの気持ちはどんどん高まっていく。恐らく、いや絶対、ゆかりさんも同じ気持ちになっていってると思う。だってこのカードの効果は、紛うことなく証明されている。ゆかりさんの、わたしへの想いと共に。

だけど、稀に、極稀に、心の片隅に暗雲がなびく。



この感情が、魔法によるものなのかは、もう分からない。

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