異国戦記の武士道

屋富祖 鐘

第1話

 クレイア王国。

 大陸の西側に位置するこの国は、経済が好調であった。領内に多くの山々を持ち、港も所有している。また、王都・サリスーンでは製造業が盛んであった。革製品の製造や鍛冶、紡績など多くの産業が経済を支えている。

 そして戌四つ刻(二十一時)にも関わらず、サリスーン領内のとある食堂の店内は未だ賑やかだった。酒を豪快に呷る人に、ただただ会話に花を咲かせている人。それぞれが自分に合った楽しみ方をしている。そんな食堂の一つのテーブル席に、着物を纏った四人の男が座っていた。もちろん、この国の者ではない。

 そのテーブルの上には幾つかの大皿に食事が盛られており、馥郁が漂っている。

「肥後を出て早三月か」

 垂れ目の男が郷愁混じりにそう言うと、左隣にいた鼻の高い男がそれに同調する。

「早いものだ。向こうでももうじき夏を迎える頃だろうな」

 すると、四人の中でも一番背のある三枝玄翠(さえぐさ げんすい)が呆れるようにこう言った。

「新八に藤左衛門、懐郷病を促すような話をするのは、お役目を終えてからと決めていたであろう?」

 その言葉に、垂れ目の遠藤新八郎(えんどう しんぱちろう)、鼻の高い柳藤左衛門(やなぎ とうざえもん)は思い出したかのように「すまぬ」と軽く謝罪する。

「で、主税。明日の謁見の際の下準備は整っているか?」

「はい、三枝殿。必ずや殿のご期待に添えるつもりでございます」

 答えたのは新八の右、三枝の左に座る柳生主税(やぎゅう ちから)だった。この中で一番歳が若く、元服して三年しか時の経っていない、凛とした目元が特徴的な若武者だ。

「その気概やよし。この四人の中ではお主は一番歳が若いが、殿直々の指名だ。気負う部分はあると思うが、我らは此度のお役目では一心同体。遠慮なく頼ってくれ」

 仏心が滲み出るような三枝の言葉に、主税は深く頭を垂らした。

「お心遣い誠に痛み入ります」

「主税、お主の働き次第で明日の酒の味が変わってくるからな。しかと頼んだぞ」

 新八は少し酔っているのか、顔をほんのり赤くして主税に笑みを向けた。主税は慇懃に頷く。

 しかし、と言って次に言葉を発した藤左衛門だった。

「鎖国が解かれてから一年も経たぬというのに、殿は異国と貿易を結ぼうとするとは。拙者たちの斟酌もして欲しいものだ」

 藤左衛門の顰蹙した表情を見た三枝が、宥めるようにその肩に手を置く。

「そう申すな。殿は此度のお役目を終えれば、禄を増やすとも申されているのだ。悪い事だけではない。それに巷で我らは、宝暦の支倉常長と呼ばれているらしいぞ」

「支倉常長と言えば、伊達政宗公の命により宣教師と共に南蛮に参った方ではございませぬか」

 少し驚いた表情を見せたのは主税だった。自分自身が支倉常長に例えられるとは思いもよらなかったからだ。

 ローマ法王とも謁見した支倉常長。光栄であると同時に、主税の胸中には、成功させねばという重圧もこの時存在していた。

「うむ。異国と貿易を結ぶことが出来れば、領内の経済は発展するからな。領民たちも我らに期待しているのだろう」

 期待されている。そのことで、四人の顔は自然と綻ぶ。

「殿は今体を少しばかり悪くされている。一刻も早く貿易を締結させて、肥後へ戻ろう!」

 ジョッキの中の酒を一気に飲み干した藤左衛門が、意気軒高に言った。

「ああ。よし、今日はこのへんにして早々に旅籠で休もう。明日は一世一代の大勝負だからな」

 声高に話す新八に呼応するように他の三人も席を立ち、宿へと向かった。


 この街の景観は日本とは全く異なるものだった。家などの建物の多くは木ではなく石で作られ、背も日本の家屋より高い。そして、歩く人々の服装も長崎にいる外国人に似たようなものだ。当然、着物を着ている者など一人としていない。

 そのせいか翌日、宿から王城へと向かって歩く四人は、街の人々の好奇な視線を浴びていた。それもそうだ。この国の民からすれば、見たことのない顔立ちと服装。誰だって気になるはずだ。

 そして頭頂。太陽から出る輻射熱を大量に浴びているものの、日本よりも平均気温が低いためか、そこまで暑さを感じない。

 正装である肩衣半袴姿の四人は、大きな木と鉄でできた門の前にいた。その先には、ただただ唖然とするばかりの白い巨城がある。

 これから四人はそこへ行く。主から託された使命を全うするために。

「皆、くれぐれも粗相のないようにな」

 三枝は、三人の顔をゆっくりと見る。それは各々の覚悟を図るかのよう。

「おうよ! と申すより、主税に我らの今後の分水嶺がかかっているからな。任せたぞ?」

 新八の言葉に主税は苦笑いを浮かべる。

「新八。今更重圧をかけてどうする。お主こそ箍が緩んで問題を起こすではないぞ?」

「ははは、これはしかり。皆も今一度襟を正そうぞ」

 三枝と新八のやり取りで雰囲気が軽くなる。四人は互いに顔を見合わせ頷くと、門番に近づく。そして三枝が一歩前へ出る。

「某、日ノ本熊本藩藩主・細川重賢の名代で参った三枝玄翠佳孝と申す者。後ろの三人は同じく名代で参った者たち。国王ベルード・クルーゲンス殿に貿易の件でお目通りを願いたい」

「しばしお待ちを」

 二人いた門番のうち、一人が門の中へと入っていく。事前にこのことを文に書いて送っており、相手からも了承を得ているので、問題無く入れるはずだ。

 四人はその門番の帰りをじっと待つ。しかし、中々その門番は帰ってこない。

「もう半刻(一時間)近くは経っておるぞ? まだお目通りはできぬのか?」

「柳殿。我らは願いを聞き入れてもらう立場。たとえ一月待たされても文句を申すことは出来ませぬ」

「そうなのだが……」

 主税の言葉に藤左衛門は正論なだけに反論はしないが、何か腑に落ちないようだった。

 しかし数分後門が開き、一人の男が現れた。その姿は、まるで得物を狩る熊のようだ。三枝よりも背は高く、大きな体と四人を睥睨するような炯々とした眼差しが印象的であり、騎士甲冑を身に纏っている。

(これが南蛮の騎士というものか)

 主税は推し量るように男を見つめる。

「お前らが極東の国から来た四人か」

「はっ。早速ですが国王殿にお目通りを願いたい」

 三枝の言葉に、男は一息つくと踵を返した。

「ついて来い」

 歩き出した男の後を追うようにして、四人は門を潜った。

「これが南蛮の城……」

 主税は唖然としていた。初めて見る西欧式の城は新鮮かつ、幻想的にも見えたからだ。同じ城と言えど、日本の城とは全く異なる。文化の違いというものを改めて感じた瞬間だった。

「この城、千代田城や大坂城よりも大きいのではないか?」

 そう主税に小言で話してきたのは新八だった。新八も同じようなことを感じているのだろう。

「恐らくは。この城を築城するのに八十万両はくだらないかと」

「八十万両!? 三代目公方様が建て替えた日光東照宮以上か……。昏倒しそうだ」

「この国は日ノ本と財政事情が違いますゆえ、それも可能かと。近年この国では流通通貨がよく回っており、経済が潤っているようです」

「そのような事いつ調べたのだ?」

「この国に着いてからというもの、暇があれば町人に話を聞かせてもらっておりました」

 主税が聞いて回ったのはお国事情が殆どだが、それ以外にも気候や地理、国民の生活なども独自に聞いて回っていた。南蛮に来る機会などこれから先あるかないか。だからこそ、この機会を逃さず、実際現地の人の話を聞いていたのだ。

「殊勝なことだ。殿が主税を選んだのも頷ける」

「何を仰いますか。某など、御三方に比べれば役目も禄も低い若輩者。御三方の存在あってこそ、某は名代としてこの地に参ることが出来たのです」

「主税のクセに申すようになったではないか。では、若輩者らしく今宵は主税の奢りで酒盛りだな!」

「そ、それは卑怯ですぞ! 遠藤殿!」

 新八の腕が首に回され、二人は笑みを浮かべた。

 草木や花々が綺麗に剪定され、渺々と広がる中庭に通った一本の石道を歩く四人。周りの風景に興味があるのは主税や新八だけではない。藤左衛門もキョロキョロと辺りを見渡し、先頭を歩く三枝も平静を装っているが、たまに頭が左右に動く。それほど、ここは四人にとって初めてのものばかりなのだ。

「ここでお前らの剣は預からせてもらう」

 五メートルほどの高さがある扉の前で歩みを止め、振り返った男は四人に向かって言った。それに応じるように、各々は腰の大小を男に渡すと、その場に駆けつけた使用人の女二人の手に渡った。

「これから謁見の間に向かうが、お前ら絶対に失礼の無いようにしろよ? もし何か問題を起こせば無事に国へ帰れると思うな」

 威圧的なその言葉に四人は頷く。

「承知致しました」

 主税を含め、四人にとってそれは分かりきったことであった。何故なら、この一件が藩の未来を左右するからだ。

 目の前の門が開くと、城内へと足を踏み入れる。四人の双眸に映ったのはなんとも豪奢かつ広々としたエントランスだった。そこにあるのは、人の姿を忠実に再現した石像や色とりどりで緻密に描かれた壁画、そして三十メートルはあろうかという吹き抜けはステンドガラスのような色彩の入ったガラスで覆われていた。

 赤い絨毯が延々と敷かれた床を歩き、男について行く。入り口の正面にある幅の広い階段を上り、三階へ向かう。着くとしばらく直進する。一分程歩くと男が歩みを止めた。

「ここが謁見の間だ。用意はいいか?」

「はっ」

 男は、他に比べて大きく奢侈な二枚扉をゆっくりと開いた。主税は高鳴る心臓を治めようと、深呼吸をする。

 すると四人の目に入ったのは、異様に広い長方形の部屋だった。部屋の奥には数段の段差があり、そこに玉座らしき椅子がある。しかし、謁見の間には王らしき姿は無く、いるのは壁際に槍を持って立っている二十人ほどの衛兵ぐらいだった。

「俺はここまでだ。せいぜい頑張るんだな」

 そう言い、案内役の男は立ち去った。

 四人はおもむろに赤絨毯を踏みしめ進む。そして、玉座の少し手前でひざまずく状態でまだ見ぬ王の到着を待つことにした。配置は主税が先頭で、残りの三人はその後ろで平行に並んでいる。

 数分後、段差横の扉が開いた。四人は急いで頭を下げる。

「面を上げてくれ」

 頭を下げて数十秒後、言葉に従い顔を上げた主税は驚愕した。

(にょ、女人だと……!? この国の王は男のはず……)

 王が座るはずの玉座に腰かけていたのは女だった。大きな瞳に驚くほどの小顔、また遠目で見ても肌の白さと艶やかな白銀の髪が絶妙に合っている。

「遠路はるばるご苦労であった。では聞こう。お前たちは何用でここに参ったのだ?」

 玉座の肘掛に肘を立て、頬杖をつく女。いかにもつまらなさそうな目をしている。

 動揺しながらも、使命を全うするため、主税は口を開いた。

「はっ! 某、日ノ本肥後熊本藩藩主・細川重賢の名代で参った柳生主税と申す者でございます。後ろの三人は同じく名代で参った者たち。此度は我が藩と貴国とで貿易を結びたく、参上仕った次第にございます」

 去年、将軍の徳川家治が各藩に出した御触書により、藩による独自の貿易が完全に認められた。理由として、各藩の財政悪化を憂慮してのことだとか。

「貿易か……。一応手紙で話は理解している。まず、お前たちと貿易をすればメリットはあるのか。それを直接聞きたい」

 少し眠気交じりの声に対し、主税は鞠躬如としながらも溌剌に答える。

「勿論。我が国は一年ほど前まで鎖国をしていましたゆえ、ここ一帯の国とはほとんど貿易を行っていないのが実情でございます。ですので、我が国の特産品をいち早く手に入れることが出来るのが一つ目の利点。次に、我が国は現在貿易を行っている数少ない相手国として琉球や清国等がおります。それらから輸入している物を我が藩で一か所に集め、貴国に送ることで様々な貿易航路を設定する手間が省けます。これらが貴国の利点になります」

 幕府は元々オランダや清と貿易を行っており、対馬藩は朝鮮と、薩摩藩は琉球や清、松前藩はアイヌ人やそれを通じて大陸などと独自に貿易を行っていた。

「ほう。しかし、お前はこちらの言葉を中々流暢に話すな。日本は、こちらと言葉が違うのであろう?」

「はい。貴国の言葉は、日ノ本を発つ前に学びました」

 四人は幕府が出した鎖国の解禁令後、すぐに藩主の重賢にこの国の言葉の読み書きを習得せよ、と下知されていた。以来、長崎に逗留していて日本語を話せる商人や宣教師などから言葉を習っていのだ。

「そうか。――確かに、東国の品々が簡単に手に入るのは魅力的だな。しかし、お前たちは私たちに貿易で何を望む?」

 目を細め、怪訝な声色で女は聞いてきた。

「我が国より、貴国の方が技術的に進んでいるのは明白。ゆえに建築技術や造船技術、その他の技術はもとより、その技術を使った品々を我が藩は欲しているのです」

「それは武器もか?」

「いえ。武器は貿易の目録から外してもらって結構。幕府は藩ごとの貿易自由化にあたり宗教の伝来、武器または武器の設計図の輸入だけは固く禁じておりますので」

「ほう。確かに武器の輸入を自由化させたら、国内で戦争が起きるな。賢明な判断と言っていい」

 主税の言葉を咀嚼するように、女は頷く。

「日本の幕府というものは、私たちの国でいう王家という認識で間違いはないな?」

「はい。ですが、細かい事を申すならば日ノ本の帝はご天子様。そのご天子様から国の政などを任されているのが幕府・徳川家でございます」

 ふ~ん、と理解しているのかよく分からない返事を返す女。

「残りの詳細はこの殿の文に書かれております」

 主税は懐から一通の文を取り出し、女の傍に立つ使用人を通じて文を渡した。

「代筆は、長崎に逗留している隣国の商人でございます。此度の貿易、双方に利益があるかと。是非ともお誂えにかなうお答えをお願い致します」

 主税は玉座の女に深く頭を下げた。そして、心の中で言い終えたという安堵が滲み出てきた。しかし、

「少しいいか?」

 女は再度、主税に話し掛けた。

「な、何でございましょうか」

「貿易の件は分かった。それとは別に、お前たちの主について聞きたい」

「我が主について、ですか」

「ああ。お前たちの主とはどういった人物なのだ?」

「我が主、細川重賢は怜悧かつ毅然とした人物で、紀州の麒麟公と並び、『肥後の鳳凰』と称される人物にございます。領民からも慕われており、家臣一同殿の為に日夜粉骨砕身努めております。また、外様ながらご公儀からの信頼も厚く、大きなお役目に指名されることもしばしば。某は、殿に仕えることができ、日ノ本一の幸せ者と自負しております」

「そうか。では、お前は報酬をどれほど貰っているのだ?」

 女は自ら質問しておきながら、主税の答えに対して興味を持たない様子だ。主税も何か気に食わないことを言ったのではないかと気が気でない。

「そ、某の役目は中小姓ゆえ、禄は五十石ほどでございます」

「そちらの相場は分からないが、お前の態度からして少なそうだな。お前たちの主は守銭奴なのか?」

(殿の事を守銭奴呼ばわりだと!?)

 主税は怒り狂いそうな心中を、深呼吸でゆっくりと沈める。

「いえ。某がまだまだ未熟なゆえ、禄も少ないのです。決して殿はそのようなお方ではございませぬ」

「では、先ほどお前は主君が鳳凰と呼ばれてると言っていたが、鳳凰とは東国の聖獣で、巨大な鳥のことであろう? 日本の事は詳しく知らんが、そのような異名を持つ割には、幕府というものの言いなりになっているのだな。その異名は飾りなのか? 鳳凰が誰かに従うなんて意味不明だな。その時点でお前の主の器が知れている」

 鼻で笑い、吐き捨てるように言い放つ女。

(ここまで殿の事を馬鹿にするとは! 絶対に許せぬ!)

 小刻みに震える主税を見た後ろの三人は「我慢しろ!」と小声で言うが、その言葉はもはや耳に入らない。主税は瞬時に立ち上がった。

「ええい! 先ほどから聞いておれば、お前は何様のつもりだ! 確かに俺たちは貿易の件をお願いしに参った。しかし、主君の侮辱までは許した覚えはない! ここまで主君が冒涜されて黙っていては武士の名折れ! お前を殺して俺も腹を切る!」

 主税は懐から殿中差を取り出した。念のために隠し持っていた一刀である。

「やめろ主税! お前がここで刃傷沙汰を起こせば、殿にも迷惑がかかる!」

 後ろの三人に体を抑えられ、殿中差を抜こうとする主税だが、思うように体を動かせない。

「お放し下され! 御三方はよろしいのですか! 殿に恥辱が与えられたのですよ!?」

「いいわけないだろっ! 俺だって悔しいんだ……。しかし、ここは我慢するしかない。これは貿易を望む殿の為なんだ」

 三枝の思いのこもったその言葉に、主税は三人を振り払うことをやめ、悔しさを噛みしめる。

「くっ……」

「あはははははっ」

 すると、笑い声が聞こえてきた。その声の主は主税が激怒した原因の女であった。

「何が可笑しい!?」

 すると女は一変して真顔になり、こう呟いた。

「君辱めらるれば臣死す、だな」

「なにゆえその言葉を……?」

 南蛮人が知っているとは思えない言葉。主税には、何故彼女がこの言葉を発するかが分からなかった。

「お前たち合格だ」

 女の表情は始めの頃と打って変わり、明朗快活なものに変わっていた。

「へっ?」

「二度も言わせるな。合格と言ったのだ。貿易の件、前向きに検討してやろう」

 そう言うと、女は謁見の間から出て行こうとする。しかし、それを主税が呼び止めた。

「お、お待ちくだされ! なにゆえ我らが合格なのでしょうか?」

「そんなもの簡単だ。私がお前たちの主を馬鹿にした際、お前たちの出方で貿易をするかしないかを決めてたのだ。そして結果、お前たちと言うより、一番前の者は主君の侮辱を許さなかった。それが合格の理由だ。忠義に厚い臣下を持つ主は大方が名君と決まっているからな」

「では、某が黙っていれば……?」

「うむ。貿易の件は無しで通した。一応、国全体の問題だから一週間は時間を欲しい。その間の世話は使用人たちに命じておく。では」

 確かに、この女が言うことが既に決められていたことならば、主税が殿中差を取り出した際、衛兵が動かなかったことも納得できる。

 女は主税を一瞥すると、部屋を出て行こうとするが、それを主税は再度呼び止める。

「も、もう一つだけ聞きとうございます。卒爾ながらお名前を……お名前をお教え下さいませ!」

「何だ? 私の名前を知らないのか?」

 すると女は億劫そうにこう答えた。

「私の名前はリアナ・クルーゲンス。クレイア王国第一王女だ」

「クレイア王国第一王女……」

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