第11話 後に目なし

誰も知らないお話し③

「仕方がない、僕はキミのことは知らない・・・・んだから」


 あの男は何食わぬそう言ってのけた。


「そんなに怖い顔しなくても……安心してよ。キミという存在は知っている・・・・・



 それは、あの男に自分の顔、声を覚えているか?と質問した時のことだった。あの男は何を馬鹿なことを、と呟きながら覚えていないと言った。

 彼の異能力は、自分自身に関することを全て消してしまう能力だった。何とかしてコントロールしようとしても、上手くいかないのだ。そうしているうちにも、自分の中でグースカと寝ている、もう1つの人格・・・・・・・に殺意が湧く。しかし、彼を殺してしまえば自分が保っているなけなしの理性は、強大な力は無くなってしまう。

 星持ちの超能力のほうは、もう1つの人格が持っており、自分が持つのは異能力のほう。どんなに好き勝手に暴れられても、それが無ければ、自分などはすぐに海に沈められてしまうだろう。


 そんなのは嫌だ。

 彼はだからこそ、あの男に力を借りた。自分が自分であるために。


──ずっと、俺を知っていてくれるだろうか?


「知っているとも」


──俺は壊すしかできない。


「これから考えていけばいいさ」


──なんで、笑いかけてくれるんだよ?


「キミだからじゃあないかな?」




 これは、彼が男を理解者であり世界で1番信頼出来ると確信した時の物語だ。故に誰も知らない。誰の記憶にも留まらない。

 ただ、彼と男のみが知る、島地団地島を救っていた・・・・・物語である。

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