第10話 届け

誰も知らないお話し②

彼はその日から毎日のように少年の元へ現れた。少し話し相手になってくれ、と言う彼はいつも笑顔だった。


 不思議な男だ。

 自分の顔と声ことを覚えている…いや、知っている人間がいるだなんて今まで無かったことだから、てっきりこの男と会えるのは前回の1回だけだと思っていた。素直に嬉しく思えた。自分自身のことを、何をして何を思っているか…自分に会いに来てくれる人がいる、ということが、少年には未知の経験で……。


あんたみたいになりたい。


 そう言うと、彼は心底驚いたように目を見開いた。


「そんなこと、言われるとは思っていなかった」


 彼はそれはダメだ、と少年の言葉を否定した。理由は深く知らないが、今思うとあの時の彼の表情は、酷く傷付いたような…そんな顔だった。


「僕は、キミにはそのままでいて欲しいな」


そうか?


「そうだとも。

 ただ…殺人だけはやめておいた方がいいよ。面倒くさい、無駄に正義感の強い連中がこの島には多いからね」


そんなはずない。だってこの島は闇が多い。


「そうだね。でも、どんな奴にだって正義・・がある。そいつが正義だと思うのなら、悪でも正義になってしまうのさ。それは僕にも…もちろん、キミにだって当てはまる」


 彼の言っていることは、よく意味がわからなかった。それを伝えると、今はそれでいいさ、と煙草の煙を吐きながら笑った。


 それから、人を傷付けて重症を負わせたことは何十回とやったが、人を殺すようなことは一切しなくなった。衝動的にしてしまいそうになるが、彼が言ったのだ。しない方が身のためになるのだろう。


今日も月が綺麗だ。


 しかし、自分はこう・・でなくてはならない。


 人を


潰すように


 物を


溶かすように


 物事を


欺いて



少年はそうあるようにと望まれてしまったのだから。

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