幕間物語
居酒屋の乱・前編
私の名前は氏郷。昔は忠三郎だとか賦秀と呼ばれていたが、今は氏郷で統一されている。そんな私は、今日も定時ぴったりで仕事を終えることができた。このくらいできなくてはな、何せ私はあの織田署長の期待を背負っているのだからな。
「また残業か、手際が悪いぞ」
「うるせぇ、俺はアンタみたいなエリート様とは違ぇんだよ」
いつもの如く、政宗を煽ってから私は署を出る。そして今からは週末のお楽しみだ!
「忠興、済まない少し遅れたか?」
「いや、さっき来たところだ」
「今日もいつもの所でいいか?」
「本当に好きだな、アンタは」
そう、私の楽しみ…居酒屋での1杯。成人して署長に連れてこられた時以来私は酒が大好きなのだ、そこまで強くはないが。特にビールが好きだ。生ビールをジョッキでこう、グイッと飲むのが好きだ。茶道のような静かで心が落ち着くような雰囲気も好きだが、居酒屋のあの騒がしい雰囲気も結構好きで、贔屓にしている所なんかでは店員がサービスしてくれる、あれくらいの親密さが特にいい。
「っあ゛〜! やっぱり、夏は生だな!」
「氏郷、オッサンみたいだぞ?」
「む、そうか?」
いつもの座敷席に通され、忠興と生ビールを注文する。そしてつまみ。塩ゆで枝豆がいい感じにテーブル鎮座している。しかしだ、私の1番のお気に入りは、いつも少し遅れてやってくる…焼き鳥!これにがぶりとかぶりつく。
「美味い」
「本当にここの焼き鳥はタレがいいよな」
雑談をしていくがビールとつまみが無くなるペースは落ちない。
だが、今日はただ飲みに来たのではなく、忠興に相談事があるからだ。
「忠興」
「ん?」
「最近…何故か政宗の部下とかその辺からの当たりが柔らかい気がするのだが……何か知らないか?」
そう、何故かいつもは嫌にしつこく絡んでくるのに、最近ではあまりその傾向が無くなってきているのだ。忠興は政宗との交流も深い、仲がいいかは別としてだ。だがこんなことを素直に話してくれるのはきっと忠興か、高山くらいだろう。
「……………ああ、あれかもしれない」
「あれ?」
※以下、忠興のナレーションと氏郷のツッコミでお送り致します。
それは、『第32回氏郷被害者の会』が行われた時だった。
──おい、かなりやっているな。というか知っているってことは、この会お前も参加しているのだな。
「全く! 氏郷の奴め!」
「エリートヅラのボンボンめ!」
「茶器よこせ!」
などという酒の入った面々の罵倒が会場を埋め尽くす。いつものことだが、今回は少しばかり話題が氏郷被害者の会会長の機嫌を損ねてしまった。
──最後、おいこら3番目お前だろ。やらないからな!
「エリート様はさぞ女にも困らないんだろうな!」
【氏郷被害者の会会長・政宗】「誰だそんなこと言いやがった奴はよぉ」
──知ってた。
そこにはまだ少し慣れない酒を飲む政宗が、顔を少し赤くして言葉を続ける。
「アイツはなぁ…仕事一筋な男だ! そんな女に現を抜かすような奴じゃあない! アイツは努力をする奴だし、それを物にする奴だ、だからこそ俺が倒すに相応しい! 死ね氏郷!」
という感じで、俺も酒がかなり入っていたから詳細のところは覚えていないが、こんな感じで…あー、あとなんか……。
「多分氏郷は、ビールとか飲まない。優雅にバスローブでワイングラス片手に夜景を見るタイプだ。居酒屋とか毛嫌いしてる多分。銘柄見ずにワインの種類を当てるんだ多分」
みたいなことも………。
「政宗の中のお前、すごいことになってるな」
「本当になんでそうなった」
氏郷がビールを飲み終わると、既にすごいことになっているテーブルを、バイトが片付けていく。氏郷が綺麗好きなことも知っている居酒屋の店員達は、かなりの頻度でテーブルを片付けてくれるので、いつだって氏郷達が今さっき来たように見える。
「そもそも、エリートって……こちとらはぐれ出身だ」
「第4区の底辺からの大出世だもんな、お前。しかも既に脱童貞してるし」
「彼女が署長の娘だとは、今でも信じられんよ」
「そのお陰で、嫁と就職先決まったし、いいじゃないか。
よっ! 元第4位!」
「やめてくれ、結局負けて取られてるんだから。あと、あの頃の私は黒歴史なんだ」
「冬ちゃんはあの頃のお前も好きだそうだぞ」
「そ、そうか……」
照れた氏郷は頬を掻く。
すると、先程のバイトがやって来た。
「すみません、相席になってもよろしいですか?」
「相席?」
「忠興、私は構わないが?」
「うーん……まあ、お前がそう言うなら」
2人の了承を得たバイトは、相席相手を呼ぶ。そして、その顔を見た瞬間、2人の顔は硬直する。
「げっ! 氏郷!?」
「な、何故お前がここに……!?」
こうして、何の変哲もない居酒屋に、
次回に続く!
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