居酒屋の乱・後編

前回までのあらすじ!


「仕事終わったわー、おっきー居酒屋行こー」

「オッケーオッケー。ってかお前ビール好きだな正直似合わんわwww」


「そーいやなんか政宗達が妙に優しくて怖いんだけどwww」

「お前、ドーテーでワイングラスクルクルしてるって思われてるらしいぞwww」

「マジかよwwなんでそうなったしwww」

「お前元ヤンなのにな」

「やめろそれは黒歴史」


「この席今から相席とさせていただきますー」

「どうぞどうぞ」

「あれ? 忠興と…氏郷…?」

「政宗!?」

「嘘やん…」


どうしてこうなった……。




────────────




──どうしてこうなった……。



「おねーさん、ビール追加ねー」

「っつーか、なんで佐竹がいるんだよ」

「政宗をからかいにー」

「だよな。お前達が2人揃って居酒屋だなんて違和感にも程があるよな」


 政宗の隣に座るのは佐竹と呼ばれている男だ。政宗とは仲があまり良くない、というより佐竹のことを政宗がだいぶ苦手意識を持ち、それを知っているからこそ佐竹が政宗をからかい、さらにまの佐竹への苦手意識が加速していくのだ。


「いや、それよりもなんで氏郷がここに?」


 政宗は氏郷をマジマジと見つめながらそう尋ねた。


「集合」


 とほぼ同時に氏郷は忠興と佐竹を呼ぶ。3人で輪になるように座ると、ほぼ政宗にはこちらの様子が見えなくなっている状況だ。


「え? なに? つまりどういうことなの?」

「かくかくしかじか」

「OK把握」


 氏郷と忠興ははぁ、と溜息を吐いて頭を抱えた。しかし、政宗の誤った認識に付き合う必要は無い。何を遠慮することがある。今さっきは思わず3人で会議を始めてしまったが…氏郷は追加を頼もうと手をあげようとすると、佐竹に止められる。


「いや、なんで」

「このまま政宗をからかってみようよ! 少しさ氏郷も演技して…ここぞって時にネタばらしをしよう! 楽しそうだなぁ〜」


 楽しみ?この男は何を言っているんだろうか。まさか馴染みの店で、もう居酒屋というものを知り尽くしている自分に、何も知らないふりをしろというのか……?


「無理だ」

「できるできる。頑張れ氏郷」

「冷静に考えろ佐竹。私が酒の席で品行優良に振る舞えると思うか? 無理だ」

「頑張れ氏郷お前ならできる」

「おいこら、何混ざってんだ忠興」


 佐竹に混じって氏郷を煽る忠興の頭にビシリとチョップをする。少し力が入り過ぎたようで、忠興はその場で悶えているが氏郷には関係ない。というかなんで政宗をからかうだけで、苦行を行わなくてはならないんだ、と2人を睨みつけるが効果はほとんど見られない。しかしだ、政宗の顔を見ると何となくではあるが、加虐心をそそられることも事実ではある。ではあるが…。


「………………はぁ…今回だけだぞ」

「やったぁ! 氏郷、わかってるぅ!」


 氏郷は運ばれてきた忠興が頼んだビールを睨む。いつもならすぐにでも飲み干すのだが、目の前の2人がそれを許してくれそうにない。


「いやぁ…ちょっとはアンタに威張れるな!」

「はぁ?」


 おっと、ついメンチを切ってしまった。


「けど……アンタのそういう面見れて、なんか嬉しいわ」

「それは私を馬鹿にしているのか?」


 政宗の言葉に答えている氏郷だが、頭の中ではビールを連呼している様子だ。どんだけ飲みたいんだという忠興と佐竹の視線には氏郷と政宗は気が付かない。


「いや、そうじゃなくてよ。俺、お前のこと大嫌いだけどさ。何となく俺と同じような奴なんだろうなって思っててさ。ほら、俺って親父もお袋も警察で、初めは親の七光りとか言われてて……だからなんか、エリート様は苦手でよ。いつも見下してる感出してるアンタは特に……けど、今日はアンタの人間味のあるところ見れて、良かった」

「政宗……」


 いつになく素直なのはもうすでに酔っているからなんだろう。酒に弱い癖して背伸びして飲んでいるのみ見て、氏郷は苦笑する。


──コイツもいろいろと苦労しているんだな…。


 嫌な思い出しか持っていないが、似たような過去でもなく…それでも氏郷からすればここにくるまではとてつもなく苦労をしていた人物だ。もし、この関係が続いてもいつか、それこそ爺さん同士にでもなればもしかすると、嫌味を言い合いながらでも昔に花咲かせる関係になるかもしれない。今まであったことが、笑い話になるかもしれない。そう考えると自然と笑みがこぼれた。


──ならば、この今日の日もそれに入るのだろう……なるほど、ならば忠興と佐竹の奴に乗っかるのもまぁ、ありだろう。


 氏郷はビールをグイッと一気に飲む。


「う、氏郷!?」

「……ビール、は初めてじゃない」


 忠興と佐竹は、氏郷が一抜けたと思い驚きめを開く。そしてからかわれたとわかった時と政宗に備え、座敷の後に置いていた刀に手を掛けるが……。


「だが、まあ……あまり好きではない・・な!」


 どれほどの苦痛だろうか。好きな物を嫌いと言ってしまう瞬間とは。氏郷の瞳に罪悪感の涙が見られるが、政宗にはそれに気が付かない。


「やっぱりな! 氏郷はビールとか、飲まないよな!」

「しょ、署長に付き合って飲むことはしばしばあるぞ! あの人は羽目を外すと凄いからな!」


 あくまでも、飲んだことある前提で話しているところに氏郷の意地を感じる。

 忠興と佐竹は氏郷の様子を見て、目を見開いた。氏郷と目が合った2人は、おそらく「後で覚えておけよ」という意味であろう舌打ちと睨みを受ける。さすが元はぐれの睨み顔だ、迫力が凄い。


「署長、ビール派なんだな。意外だ」

「そうだな…」

「氏郷はビールのどこがダメなんだ?」


──また難易度の高い質問を……!


 それに応えようと、次々と質問に答えていく氏郷はふと忠興と佐竹が青い顔をしながら「後ろを向くな」というジェスチャーを見てしまう。見るなと言われれば見たくなるのが人間の性。ギギギとまるでブリキ人形のようにぎこちなく振り返る。

 氏郷が振り返ったそこには……「え、嘘…氏郷が反抗期…?」と驚いている、警察署の上層部達と…。


「……………是非にも及ばず……」


 少し悲しそうな雰囲気をした…ビールを氏郷に勧め、氏郷をビール党の道へと引きずり込んだ張本人、署長の織田だった。


「……………ちゃうねん」


──…ちゃうねん─っ!






 その後、氏郷と織田の間の緊張に戸惑う政宗と…氏郷の元上司である利家に「なにか悩みがあるなら相談に乗るよ」といつも以上に優しく接しられ、「ちゃうねん」を連呼する氏郷の姿があったという。



「これ、俺達のせいかな?」

「そーじゃないの?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

島地団地島 千羽太郎 @senbataro

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ