島地団地島或いは…

「無駄なことがしたい」


 起き上がったアーネストは部屋の鍵もかけずに外へ出る。


 夕暮れ時の空を見上げてからアーネストは1階に降りる。


「島の探検でもしようじゃないか」


 アーネストがポストの前まで行くと、悟子と助手が正面玄関から入って来たので、軽く挨拶を交わす。


「今日はどこ行くの?」

「んー? 無駄に歩くだけだからそんなこと考えてないなー」

「迷わないでくださいよ」

「できるだけね」


 今日は第7区にでも言ってみようと、アーネストは歩き出す。


 前方からやって来たのは、オートバイに跨り、地図を見ているヒツジだった。ヒツジに気が付いたアーネストは、軽く手を挙げる。


「あ、アーネストさん。こんばんは」

「こんばんは。まだバイクなんだね」

「そうですね。まだ跳ぶのは怖いので……」

「そう。ま、頑張って」

「はい!」


 ヒツジと別れたアーネストは、第4区の方面へ進む。


 アーネストは後ろから走って来たラトウィッジをを呼び止めると、ラトウィッジは立ち止まり振り返る。


 彼がアーネストに気が付かないだなんて、よっぽど緊急事態のようだ。


「アーニー! ヴァシリョーク見てねぇか!?」

「見てないよ。そうだね、第6区の煙草屋の所じゃない?」

「そうか、助かった!」


 アーネストから手掛かりを得ると、ラトウィッジはまた走り出した。


 どうやら、ヴァシーリーが行方不明のようだ。まぁ、よくあることなのでアーネストはあまり気にしていないようだが。


 第5区につくと、ヤギがアーネストの上から降ってきた。


「やぁ、今日も元気そうだね」

「アーニーか。もう暗くなるから帰ったほうがいいんじゃないか?」

「お気遣いどーも。けど僕の無駄は誰にも邪魔させないよ」

「またなんか始める気か。あんまり無理すんなよ!」


 はいはい、とアーネストはヤギに背を向けたまま手を振る。


 第6区では、路地裏の出入口に差し掛かったところでアーネストは誰かにぶつかった。彼の様子から、避けることもできたのだが、面倒だと感じたため避けなかったようだ。


 大きな鞄を抱えた道先案内人と、それを追いかけていたであろう泉を見て、アーネストは声をかける。


「キミら、仲悪かったっけ?」

「いや、俺のパン食べたから!」

「だって知らなかったんだ!」

「だからって食うな! せめて一言声掛けろよ!」

「あ〜、もうヤダ死にたい…」

「生きろ!」


 そのやり取りを無視してアーネストはか『Calme』の「OPEN」と書かれた札を「CLOSE」に変えている茶房を見掛けた。


 ──が、特に話し掛ける用事もないのでアーネストはそのまま真っ直ぐ進もうとする。


「いや、一言話し掛けてよね!」

「何人たりとも僕の邪魔はさせない」

「はいはい、行ってらっしゃい!」


 第7区目の前で、隣の線路を電車が通ったのをアーネストはぼうっと見つめる。


「……あの双子、この間の喧嘩はもう大丈夫なのかな?」


 第7区についたアーネストは、ふと路地裏に入ってみたくなり、路地裏に入る。しかしすぐに入らなければ良かったと後悔した。


 目に付くのは、道を矢印で示している無数の看板だった。それを見たアーネストは露骨に顔を歪め、看板を引抜き、引っペがしたりしてその道を進む。


「あー、ヤダヤダ。これだから頭の硬い警察どもは。

 全く、こんなもの必要ないのにさ。知らない所に行くのが楽しいんじゃないか。邪魔して欲しくないな」


進む進む進む進む進む進む進む進む進む進む進む進む進む進む進む。


「これは、そうだね、人生と一緒だ」


進め進め進め進め進め進め進め進め進め進め進め進め進め進め進め。


「行き先のわかっている人生なんて、とてもつまらないじゃないか」


行け行け行け行け行け行け行け行け行け行け行け行け行け行け行け。


「ははっ、これだから人って奴は」


 こうして、この島の1日は終わっていく。

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