第8話 漆黒の勇者と黄金の女帝
*
――ここは
「
ちなみに「
その願いにより、バラバラだった「人間としての民」は「中央」に集まったのだ。
二千年前から何代も続く、その国の女王の年齢は十七歳。
女王の名はマリアン・グレース・エンプレシア。
ウェーブのかかったオレンジ色の髪が特徴的な美少女である――その髪は時々、黄金であると思わせる。
今、彼女は大浴場で体を清めているところだった。
「フゥン、フフ、フゥン、フン~」
マリアンは鼻歌を鳴らして上機嫌。
一方、大浴場が設置されているエンプレシア城の真上に「光のような速度で飛来する物体」があった――。
「――
その物体は漆黒であった。
「ゲームのように制御できない。『この世界』はゲームのようにはいかないのかよ! クソッ!!」
――フラワーデバイス・オンライン《Flower Device Online》がシミュレーションゲームだった意味って、なんだったんだよ。
「せめて、ありったけの力で浮力を増幅させる! やってやるぜ!!」
マリアンは真っ裸で、びろ~ん、と、温泉につかる。
「極楽、極楽~」
「――止まれえ! 止まってくれえ!!」
漆黒の物体は、エンプレシア城に設置されている大浴場の天井を壊すも、自身で制御できる、すべての力を使って体を制御した。ゆっくりと「女体」へ覆い被さるように密着する形で「着地」し、生物に被害を及ぼすような事故には至らなかった。もちろん「女体」にも被害はない。
漆黒の物体は倒れた。「誰かの胸部」に寄りかかりながら。
漆黒の物体はマシュマロのように柔らかい物体に顔をうずめる。
「おお、なんて感触だ。感動的だな。だが無意味だ。これは夢に違いない……」
漆黒の物体はマシュマロのように柔らかい物体を揉んだ。
「いや、これは無意味なんかじゃない。意味を持った感触だ。その存在が素晴らしい。生きていてよかった。こんなチャンスは夢であるときだけだ。いっぱい経験しておこう」
とにかく揉みしだく漆黒の物体――いや、オレである。
「わたくしの胸を……」
「誰かの胸部」のパーツを有するマリアンはオレに向かって――。
「――わたくしの胸を触るなあああああぁぁぁぁぁぁっっっっっっっ!!」
思いっきりビンタした。
「ぶっ、はっ――!!」と、オレは彼女のビンタによって回転しながら飛んでいき、大浴場の壁に頭をぶつけ、気絶した。
これが、勇者――ユリミチ・チハヤと、女王――マリアン・グレース・エンプレシアの「初めての出会い」だった。
*
オレは彼女に恋をしている。
夢の中の彼女に。
この世の人間とは思えないほどの美貌。
まるで二次元のキャラクターが現れるゲームの世界から無理やり三次元の世界へと飛び出してきたような容姿だ。
そんな彼女にオレは恋をしている。
初めて見ただけなのに愛を語りたくなる。
だからこそオレは、彼女をハーレムに加えなければいけないのだ。
だけどオレは、なにも言えずに「あの空間」から落とされた。
*
ここは
気がつくとオレは、オレンジ色の髪をした――時々、黄金であると思わせるような――美少女に鎖で体を拘束され、身動きが取れない状態になっていた。
「気がついたかしら?」
鎖を持つ美少女が目の前にいる。ついでに彼女を護衛する騎士らしき女性ふたりもいる。
普通に考えると危ない女なのに、その姿は様になっているようにも思えた――少なくともオレには。
「気がついたようね」
オレは目の前にいる美少女を見る。
「夢の中の彼女」とは違う種類の美少女だ、とオレは思った。
「わたくしは
「オラクルネーマー?」
「
黄金の髪の美少女は鎖を引っ張りながら、漆黒の髪のオレを足蹴にする。
そして、真意を確かめるように問い詰める。
「どうして
黄金のような彼女はオレに問いかける。
なのに、どうして黄金のような髪をした彼女は
黄金の彼女はオレを確かめるように。
「どうして人の質問に答えないの? もしかして魔物だから人ではないとでも言いたいの? 違うわよね? あんたはわたくしから見ても人間であることは間違いないのだから……ねえ、しゃべって? でないと、また……しちゃうわよ」
再び彼女はオレを足蹴にする。
――うっ。
正直、オレは快感を覚えていた。
前世の頃に存在した「女優」を超える美少女に足蹴にされている。
そんな経験がなかったオレにとって「これはご褒美である」と理解できる。
だけど、オレは彼女に対して興奮するという感覚が、なにか違うような気もする。
彼女はオレを問い詰めようとするが……そろそろ答えてもいいか――だが、慎重に……だ――。
「ねえ、なにか……しゃべったらどうなの?」
「しゃべってなにかが解決するのか?」
「しゃ、しゃべった?」
「そりゃしゃべるさ。人間だもの」
「人間なんだ。むしろ人間じゃなかったらどうしようかと思っていたわ。……だったら質問に答えてもらおうかしら? あんたのその声……
「それは
男の臭いだ。
だから魔物の臭いではないと確信を持って言える。
だけど、それを説明するのはどうかと思う。
過剰表現する者がいれば「男は魔物である」と認識されかねない。
結局のところ、証明するしかない。
オレがこの世界の味方であると証明するしかない。
その方法を見つけなければいけないのだが……オレの内側から声が聞こえる。心の中から響くように。
――「この国の最強の騎士と戦う」と言え。それで証明するのだ。「オレはこの世界を救うために召喚されたのだ」……と。
(リリアなのか?)
しかし、この囚われた状況を打破するのであれば……「世界を救う勇者である」と答えるしかないだろう。
「
オレは言葉を突きつける。
「この国は今、異質な存在であるオレをどうするべきか判断しようとしているところなんだと思う。だから証明させてほしい。オレがこの国を、この世界を救う英雄になるってことを!!」
「……どうしたいの? 話が飛躍しすぎよ」
「だからチャンスをくれ。この国の、最強の騎士と戦う権利をくれ。勝ったらオレを自由にしろ」
「正気なのかしら? あんた、命は惜しくないの?」
「惜しいね。だけど、勝つ自信がある」
「わかりましたわ。チャンスをあげましょう。でも、大丈夫かしら?」
おろかな「異物」を見る目で彼女は言う。
「エンプレシア最強の騎士――アスター・トゥルース・クロスリーに勝てるかしら……――」
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