リリーサイド・ディメンション《Lily Side Dimension》@百合の世界を統べる後宮王《ハーレムキング》の物語~自動回復する長髪の少年は少女たちの世界を救うために転生して女騎士の学校へ通う~
第3話 百合道千刃弥《ユリミチ・チハヤ》の最大の目標と家庭の事情について
第3話 百合道千刃弥《ユリミチ・チハヤ》の最大の目標と家庭の事情について
*
「ふう」
オレは自室のベッドから起き上がり、眼前に装着された眼鏡型の
「このゲームをプレイしてきて、もう一年か」
ひきこもり生活を続けて一年が経過したことを思い出す。
「ゲームをクリアすれば願いは叶うんだ。オレ以外のプレイヤーは存在しないし。でも、わかるような気がする。世間でクソゲーだと称されるRPGをプレイするなんて考えられない。だからオレは確信している。オレが主人公だって」
独り言をつぶやく。
「うまく人間関係を作れないわけだ」
はあ、と、ため息をした。
「フラワーデバイス・オンライン《Flower Device Online》……絶対にクリアしてみせるぞ。なんてったって、願いが叶うRPGらしいからな」
オレは思い出す――ゲームアプリを起動する前の画面に、クリアすると「願いが叶う」と書いてあった。
「願いが叶えば、オレは夢のハーレム生活を送れるわけだ」
ハーレム生活はオレが最大の目標とする野望である。
その野望を胸に抱くのは幼馴染である彼女にフラれたからだ。
くくく、と、オレは「『頭がおかしい』と他人に思われるであろう」と、考えながら笑った――。
――笑った直後、オレの部屋のドアにノックする音が聞こえる。
黙ってノックした者の声を待つ。
「チハヤ。夕飯できたよ。下に降りてらっしゃい」
*
言うまでもないが、オレの部屋は二階にある。
「どうせなら二階に一人で食事させてほしいんだけど」
「チハヤ。ごはんを食べるときに愚を言わないでよね」
オレはジュウジュウ火花が散っているように熱くて香ばしい味がする豚肉に、ゴツゴツしたキャベツを甘辛く炒めた生姜焼きを食べながら、目の前の母親に視線を向ける。
「ごはんを食べるときは『おいしい』とか『うまい』しか言っちゃダメなのよ」
「いやいやいや! そんなわけないって! ほかにも言えることあるって!!」
「チハヤ。言葉遣いがなってない。まだ教育が必要かしら」
う、と、オレは固唾を呑む。ホクホクと湯気が立っている白飯を食べる速度が落ちる。
「そのふざけた髪型、いつまで続けるつもり? いいかげん髪を切りなさい」
「切りたくないわけじゃない。切っても元に戻ってしまうのは、わかっているよね?」
オレは黒い長髪だ。わかりやすく例えるなら女性っぽいストレートロング。オレがプレイしているフラワーデバイス・オンライン《Flower Device Online》でのアバターを男の子っぽくした感じの容姿だ。
それでも「女の子みたいだ」と、昔からよく言われていた。
オレは昔から髪を切っても元のストレートロングな髪型に戻ってしまう特殊体質だった。
そんな人間、存在するのと思われるかもしれないが、存在するのだから仕方がない……他人事のように思うオレだが。
「チハヤ。ごはんを食べるときは私語を慎みなさい」
「は? 母さんもしゃべっているでしょうが」
「話を切り出したのはチハヤでしょ。高校に通う日は、いつ来るのかしら? 貯金が尽きる前に卒業してほしいのだけど……」
「…………でも、オレが高校に通う理由はなくなった…………
オレの母親は本当に、あきれたようだ。
息子の「くだらない理由」にツッコむように母親は口を開く。
「そんな、くだらない理由で高校に通ってなかったの?」
「くだらなくないし。一人の幼馴染を思い続けたオレの気持ちを考えてよ」
「考える必要、まったくないわ」
母親は息子に目を見据える。
「くだらなすぎて怒る気にもなれない。チハヤ、高校へ行きなさい。ひきこもるほどのレベルじゃないわ」
「レベルだし。現にマジメに、ひきこもっているし」
「マジメの使い方、間違ってるわよ!!」
オレの母親は「いいかげんにしてよ!!」と言わんばかりに声を荒げる。
「高校へ入るのもやっとだったのに、ひきこもって、留年して、挙のてに、ひきこもっていた理由が、ご近所のセンドウさんの一人娘であるユリちゃんにフラれたのが原因だって? ふざけないでよ!!」
オレは「怒る気にもなれなかったんじゃなかったの?」と、母親に心の中でツッコミを入れる。
「はあ。でも、よかった。これでチハヤは高校に通うことができるわ。またチハヤがユリちゃんにアタックすればいいだけの話じゃない。チハヤが本当にユリちゃんのことを好きだと思うのなら何度でもアタックすればいい。それだけの話よ。一回フラれたくらいで、なにひきこもっているのよ。勇気を出しなさい。勇気を出して『本物の日常』に戻りなさい。まだ若いのに、そんなことで人生を棒に振るなんて、もったいないわ」
「母さん……」
「チハヤと『チトセ』が生まれた理由を教えてあげる。……そう。あのころの……ワタシたちは――」
オレの母親は夫であるオレの父親との昔話を延々と語る。
(両親の恋愛話なんて興味なんか、みじんもないけど……母さんの幸せそうな話を聞くと恋愛も悪くない気がしてきた)
オレの場合は恋どまりで愛に発展したことないけど、と、心の中でオレはつぶやく。
「――ということがあって、チハヤたちは生まれたのよ。だから、チハヤ。がんばりなさい。ええ。人生これからだわ。チハヤは、まだ若いからね」
(しつこい。若いとか、これからとか、使い過ぎなんだよ。「年寄り」どもは、年を取ったら偉くなれるとでも思っているのかよ)
せっかくのアドバイスを心の中で台無しにするオレ。
「とにかく明日、高校へ行ってらっしゃい。ユリちゃんが、ほかの人にとられたくなかったら……」
「わかったよ。高校へ行ってみる。そんな行こうと思って行けるものでもないとは思うけど」
「絶対に行くのよ」
オレは母親との会話をやめて夕食に戻る。オレは、ワカメがたっぷり入った味噌汁をすすった。
(あ――)
――そういえば、と、心の中でオレは考える――。
(――聞き流していたけど、父さんと母さんの話の中で気になったことがあった)
「ワタシは女子校育ちで恋愛にはかった。だから、共学になった大学時代に父さんに出会ったのよ。初めての恋愛だったわ。結婚するまで口づけを交わさなかった。それくらい純粋な付き合いだったのよ。あんたも同じような恋愛をするといいわ。それがマジメというものよ」
(マジメ……ねえ。今どきの高校生ですら、そんな付き合い方しないと思うけど。もしも、
オレは心の中で決意する。
(
オレは心の中のつぶやきを殺して、食事に集中しようとするが、ホクホクしていた白飯も、ワカメたっぷりの味噌汁も、ジュウジュウしていた生姜焼きも、完全に冷め切っていた。
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