その12
ヒゲエンビーの能力により、迷いネコ改め迷いカラカルのいる方角を掴んだツバメと陽子、そしてリュックサックに収まるウィスカー。
2人と1匹は、建ち並ぶ民家を迂回しながら夜道をひた進む。
「おっしゃあ!今見つけるから待ってろ、ミセス.セニョリータ!」
「マルガレーテです。ここへきて間違わないで下さい。っていうか、最終的に捕まえるのは私の役目なんですよね」
息巻く陽子に対し、ツバメは憂鬱そうに息を吐いた。
ヒゲグリモーの力を得たマルガレーテに太刀打ちできるのは、同じく魔法のヒゲを装着したツバメしかいない。
「まあ仕方ねえな。今回ばかりは特別に、アタシがサポートへ回ってやる。言っとくけど懸賞金は山分けだぞ!」
「今はお金の話よくないですか?」
何よりの目的は付けヒゲの回収である。
そもそもが陽子の尻拭いで駆り出されたというのに、何故にこうも偉そうに言われなくてはならないのか。
ツバメはムッとしつつ話題を変える。
「そういえばウィスカー。今更だけど、どうしてマルガレーテは日向さんの付けヒゲで変身することができたの?」
タクトを振りつつ、ツバメは尋ねた。
ヒゲグリモーになれるのはごく限られた者だけであり、またそれぞれの個性にあったタイプのヒゲでなければ使えない、と聞いた覚えがある。
「それニャ。たまたまマルガレーテに適性があったとしか言えないニャ。前にもちょろっと言ったけど、もともと魔法の付けヒゲはボク達妖精のために作られたものだモニャ。だから人間が使う場合には、体質や才能、年齢、性別といった制限がつく。けれど、人間より妖精に近い存在である動物達なら、そういったハードルがぐんと低くなるモニャ」
「へえ。じゃああんた、最初っからネコとかイヌだけでヒゲグリモーを編成すればよかったんじゃないの?」
「小動物の軍団じゃ『ビアード』には敵いっこないニャろ?」
「ニャろ?って、知らないけど」
「キミもマオマオを見たじゃニャいか。ビアードにはあんな強敵がゴロゴロいるんニャぞ。それにネコじゃあ固有の能力も使いこなせニャいだろうし......」
「おい、おしゃべりやめろ」
陽子が割って入った。
「人だかりがあるぜ。あの辺にいるんじゃねえか」
彼女の指差す先、数件の家にまたがって多くの人間達が囲いを作っていた。
エンビータクトから放たれる光線も、人々の中心に向かって伸びている。
「そうみたいですね。ここからどうしましょう。私はこの格好で近づくことができません」
ツバメは電柱の影に身を隠した。
「はあ?いいじゃねえか、そのまま突っ込もうぜ」
相変わらず何も考えていない陽子に、
「だからあ‼︎」
ツバメとウィスカーが声を揃えた。
「ヒゲグリモーの姿を衆目に晒すわけにはいかないんですよ!」
「キミの耳は空洞かニャ⁉︎」
「わーったよ!わかった!」
陽子は下唇を突き出した。
「やかましい奴らだなあ。そんならよ、向こうから来てもらえばいいんだろ」
「どういうことニャ」
「おいニャンコ。お前こっからマルガリを呼んでみろよ。ネコ語でもって、こっちが安全だって騙して誘い出すんだ」
「ニャるほど、言い方は悪いけど妙案ニャ」
「というか、話が通じるなら普通に交渉できるんじゃないの?」
「やってみるモニャ」
ウィスカーは頷き、大きく息を吸い込む。
そして叫んだ。
「んニャニャニャ、フニャーゴ!」
辺り一帯に、ウィスカーのネコ語が響き渡る。
しかし、しばらく待っても集団の中に反応はない。
「......出てこねえな。ちゃんとうまいこと言ったのか?」
「うん、『こっちが安全だモニャ。ボク達はキミの味方ニャから悪いようにはしない。おうちに帰してあげるから出ておいでニャ』って言ったのニャ」
「思ったより長文だな」
「聞こえてないことはないと思うんニャけど」
「人が多すぎて、突破できないんじゃないかしら」
そのときである。
民家を取り囲む人々からどよめきが起こった。
「来た!」
ツバメと陽子は身構えた。
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