その12
「シャイニーパーンチ‼︎」
陽子は、光に包まれる右の拳を突き出した。
対して彼女の真正面、エイトアーマーの中から女子高生が叫ぶ。
「お前のパンチなんぞ効くかあ‼︎」
透明ダコの軟体は、一切の衝撃を受け流すよう作られている。
事実、陽子のこれまでの攻撃は、蓮実の身体へ届くことがなかった。
たとえ「必殺」だろうがなんだろうが、打撃攻撃である以上、案ずることは何もない。
「2匹目、採集完了じゃ‼︎」
うしゃしゃしゃ‼︎
巻島博士は勝ち誇ったように笑い、狙いを外したタコ足を陽子に向けてUターンさせた。
だが。
「うりゃあ!」
陽子の拳は突き進む。
何の障害もないがごとくエイトアーマーの胴体を貫き、蓮実目掛けて向かってくる。
「はあ⁉︎」
信じられない光景に、牧島は我が目を、蓮実の目を疑う。
訳がわからなかった。
エイトアーマーの皮膚が破られた感触はない。
ただ陽子の光る右腕が、アーマーの胴体を「通り抜けて」くる。
予想だにしない現象を前に、もはや避けようがなかった。
巻島は、自らが支配する蓮実の腹へ輝く拳がめり込んでいくのを、ただ呆然と見つめるのみであった。
「何故じゃ......」
研究所にて巻島博士が呟くと同時に、彼の目となっていた正面モニターが真っ暗になった。
*
「うりゃあ‼︎」
陽子が放ったシャイニーパンチはエイトアーマーの胴体を無視するように通り抜ける。
そして、陽子の右肩までタコに埋まったとき、彼女のグローブが蓮実の腹に到達した。
クリーンヒットの衝撃に、アーマーに埋め込まれた蓮実は、大きく全身を痙攣させる。
「おげえっ‼︎」
激しくえずきながら、身体を折り曲げた。
胃液の泡を吐き、苦しむ蓮実。
思い返せば、実に気の毒な少女である。
意識を奪われ散々操られた挙句、しまいには腹を思い切り殴られることになったのだ。
「痛い、痛いよお......」
だが陽子のパンチの衝撃によって、彼女はようやく意識を取り戻した。
蓮実は激しく咳き込み、涙を流しながらのたうち回る。
その弾みに、彼女の髪の間から小さな機械がこぼれ落ちた。
耳に取り付けられていた通信機である。
通信機が外れたことで、ようやく蓮実は、巻島の呪縛から解かれた。
これがなければ巻島は、蓮実の目や耳から入る情報を受信することができない。
また、蓮実を通じてタコを操ることもできない。
司令を欠いたエイトアーマーは動きを止め、天井から剥がれた。
下水を跳ね上げ、水路に崩れ落ちる。
「やったか......?」
降ってきたまま動かない透明ダコを、陽子は踏みつけた。
タコはピクリともしない。
中の蓮実はビクビクと苦しみ続けているが、どう見ても戦闘不能である。
「や、やってた。勝った勝った!」
ウィスカーもそばに寄ってくる。
「よくやったニャ陽子!」
少女とネコは顔を見合わせた。
「シャイニーパンチ大成功だモニャ‼︎」
「おう、本当に通じたな」
「まったくヒヤヒヤしたモニャ。バカのふりして、策士ニャねえ」
「よせやい、ニャンコ。だけどさ」
陽子は輝きを失った拳を眺めた。
「意味わかんねえよ。アタシの腕がタコを通り抜けたぞ?」
実は陽子は、必殺シャイニーパンチの仕組みを説明されていない。
ウィスカーから、ただ打てばいいと言われただけである。
「どういう仕掛けなんだ?」
「それニャ」
問われたウィスカーの笑顔が固まった。
わずかに言い淀んだあと、おずおずと話し始める。
「今だから言うけど......。ほんとはシャイニーパンチなんて技はないニャ」
「へ?」
「必殺技でも何でもなくて、威力的にはただのパンチなんだモニャ」
「タダノパンチ」
「違う、そういう技じゃニャくて。要はヒゲシャイニーの持つ能力を、キミが自力の本気パンチに乗っけただけニャ。だからシャイニーパンチは、まあ、便宜上の名前ニャ」
ウィスカーは最後のところを早口で締めた。
「ああ?よくわかんねーって。何なんだよ、ヒゲシャイニーの能力って」
陽子の声が苛立ちを帯びる。
「やっぱり気になるかニャ。そうニャよね......」
目を逸らしつつ、ウィスカーは再び語り出した。
ヒゲシャイニーは光の戦士である。
身体に浴びた光を吸収し、エネルギーに変換することで、固有の能力を使うことができる。
さてその能力であるが、簡単に言えば、「自らの身体に光の性質を加える力」である。
つまり、
「透明なものを通り抜ける⁉︎そんだけ⁉︎」
陽子は叫んだ。
「んニャ。キミの身体はガラスとか水とか、とにかく透明な物質であれば、その障害を無視することができるのニャ。光みたいに」
白状するように言ったウィスカーに、陽子は更に詰め寄る。
「何だよ、それ!全然使い道ねえじゃん!」
ウィスカーの予想した通りの反応だった。
だから言いづらかったのである。
「まあまあ、そこは頭の使いようニャし......、今のタコだってそれで倒せたわけニャから」
「そりゃそうだろ!向こうが透明だってんで、お前が合わせにきたんだからな」
するどい突っ込みを放つ陽子だった。
「でも、とっても似合ってるニャ」
「うっせ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます