その10
迷路のような路地を、吹き抜ける風のように突き進む。
ツバメは強化された反射神経で、ゴミやガラクタを避けながら作戦を練った。
とりあえず、今また建物の上に出るのはまずい、と彼女は考える。
怪盗アリスとの直接対峙はできれば避けたかった。
こちらに攻撃手段があることは判明したが、アリスの方も口から機関銃のような掃射をすることができる。
いくら超人的な動きができるとはいえ、遮蔽物のない場所で狙われれば、今度は避けられないかもしれない。
となれば、なんとか地上からアリスを発見して近づき、不意打ちを食らわすのがベストである。
問題はどのようにして怪盗アリスを見つかるかだ。
ツバメは闇雲に走りながら迷う。
再びアリスの足音を探すべきか。
心に念じれば、タクトが自動的に望む音を拾い、五線譜状の光線で繋いでくれる仕組みである。
しかし、とツバメは首を振る。
光線はアリスのいる方向を示してはくれるだろうが、結局ツバメが視認しなければ、正確な位置は掴めないのだ。
また光線により、アリスに追跡を感づかれる恐れもあった。
奇襲を狙うツバメは、その案を却下した。
そうなると、今度は自力で奴の居場所を突き止める他ない。
いかにしてアリスに見つからず、アリスを見つけるか。
ツバメは頭の中に地図を広げてみる。
ここW町はツバメの育った町だ。だいたいの地理は把握している。
アリスの去っていった方向、その先には駅がある筈である。
だが人通りが多く、高いビルばかりの駅周辺を、泥棒が好んで通過するとは思えない。
ならばアリスは途中で進む方角を変えるか。
否、それはないだろう。
アリスは道なき道、屋根や屋上を跳んでいるのだから、最初から行きたい方へ一直線に向かえばいいのだ。
恐らく、ここから繁華街までの間に目的地があるのだろう。
アリスの目的地。
ツバメは考えを巡らせる。
潜伏する場所でも用意しているのか。
しかし世界の様々な地で盗みを働くアリスが、わざわざこの辺りに隠れ家を持つだろうか。
考えにくいが、ないとは言い切れない。
また逃走用の通路か何かがどこかにある、という線もある。
ツバメは、アリスがツルハシを手に、地面の下で秘密のトンネルを掘っている場面を想像した。
バカみたいな絵面だが、プロの泥棒ならそれくらいやるものなのかもしれない。
もしくは、何らかの移動手段を確保している可能性もある。
移動手段といっても、異様な姿の怪盗アリスがまさかバスや電車には乗らないだろうから、考えられるのは自動車だ。
その場合に厄介なのは、車に乗られた後では足音からアリスを探すことができなくなることだ。
ならば今のうちに再びタクトを使うか。
いや、追跡していることをアリスに気取られてはならないのだ。
堂々巡りに陥るツバメだったが、やがて彼女はアリスの向かう先について考えることをやめた。
どうでもいいのだ。
どこに向かっているにせよ、アリスが共通してとる行動がある。
それは地面に降りることだ。
民家の屋根の上に隠れ家を作ったり、車を停めておいたりすることはできない。
短い時間であろうが、アリスは必ず路上に降り立つ。
不意打ちをかけるとすれば、その瞬間である。
よってツバメが今考えるべきは、どのようにしてその場面に居合わせるかだ。
広大な範囲とはいえないものの、ここから駅周辺までの間には多くの道が連なっている。
今の脚力をフル稼動しても、怪しい場所をつぶさに見て周る時間はない。
それなら、とツバメは頭を切り替える。
アリスの方から居場所を示してもらえばいいのだ。
ツバメはウィスカーに尋ねる。
「タクトで集めた光の球は、アリスの発した音を固めたものと考えていいわね?」
「そんな感じモニャ」
ウィスカーが頷くのを見て、ツバメは指を立てた。
「それなら、こんなこともできるわけ?」
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