第15話 読者さんが主役!


 その人物が俺に接触してきたのは、俺が目出度く?(こちら方面では徹底的に手を抜いたからな!)学士様になった二週間後だった。正確には俺の”小説”の読者さんだったらしいが、事情があってROMっていただけらしいな。


 小説の方が完結したから俺に連絡を取ってきたという訳ではなく、俺が書いた”暗号”の方を解読して直接手紙を送って来た訳だから会わないという選択肢は無いんだが、問題は誰かなんだな?


 あまり嬉しい話じゃないが、ほとんどのあちらの同士達のこちらでの死亡が確認出来てしまい、残る候補者は片手の指で足りるほどだった。あの”青年”も存在しないというのはほぼ確実だが、詳しい経歴を知らないから確実とは言えない。希望的観測では、最初の転生者なんだけど、名前が違うんだよね。


 偽者という可能性は無いな、手紙自体はあちらの文字で書かれていたからね? 可能性としては、現実と小説の中を区別出来ない類の読者さんと言う事も有り得たのだけど、あちらの文字までは作り出せないだろうな。


「本当に良いの?」


「ん? 僕が会わないといけないし、”俺”が会うべきだという話は同意してくれたよね?」


「でも・・・」


「”安西 良太”は確かに”私”の知らない名前だね。だけど偽名を使っている可能性だってあるよ?」


「・・・」


「まあ、ビジネス的に言えば、偽名を面会を求めるなんて非常識なのは分かる。でも、手紙自体は、字は汚いけど内容的には丁寧な物だった」


 俺が書いた返信の文字も似た様な物だ。それだけに説得力があるんだよな。憶えていたからといって普通にあちらの文字が書けるかといえばそんな事は無い。あちらでも経験したが、練習しなければ身体は覚えないんだよな。


「じゃあ、何故1人で会う何て言うのかしら?」


「ああ、恥かしいからかな?」


「更夜君、何の話をする積りなの!」


 あれ? 智香さんが何故か怒り出したぞ? うーん、説明が難しいんだけどな?


「ねえ、智香さん、全く知らない言葉で話している人間を奇異な目で見るのは日本人の悪い所だと思わない?」


「それは、人それぞれでしょう?」


「見えないモノに話しかけるのは他人の目のある所だと、かなり恥かしいんだけど?」


 こちらは可能性は低いだろうな。ただ、俺と魔法使いになった同胞も居るし、彼らの動向を監視していた訳でもないから、ゼロではないと言った程度だけどね。


「仕方ないわね、でも気をつけてよ?」


「勿論、もう一度殺されたくは無いからな」


 智香さんの前で、ついキュベレーに話しかけた事があるんだよな。それに砂金を作る時にも独り言をぶつぶつ言っていたとか言われたしね!



===



「こんにちは、安西さんで良かったですか?」


「あ、うん、僕は”アンタ”事を何て呼べば良い?」


”何とでも、ただ戸籍上の名前は如月更夜で間違いないよ?”


”僕は、安西良太、今年から大学生だ。別に偽名じゃない?”


 うん、お互いぎこちないけど、確かにあちらの言葉だな。


”偽名じゃない? そうか、その可能性もあったんだな”


”ああ、アンタにはお世話になったな”


”何だ、恨み言を言いに来たのか? あちらでの恨みを晴らしに来たとも思えないけど?”


 こっそりボディーチェックは済ませてあるし、もう春とはいっても人が居ない浜辺となると協力者も居ないだろう。本当に恨み言を言いたいのか? 普通に殴りかかって来る位なら殴られる覚悟を決めるよ、”私”は”彼”にそれだけの事をした記憶がある。


”いいや、そう思われても仕方ないけど、聞きたい事があったんだ”


”聞きたい事ね? メッセージでも送れば良かったんじゃないか?”


”それがアンタの創作なのか、事実なのか区別がつかないだろう?”


”ふむ、別に偽る必要も感じないけどな? で、何を知りたい?”


”ロッテがどうなったかだよ?”


”ロッテ、聞き覚えがあるけど、そういう知り合いは居ないな?”


 いや、つい先日書いたばかりなんだから覚えてはいるが、それが誰なのかは分からないままだったんだよ? そうか、それが書かれていれば、安西良太は俺の前に現れなかったのかも知れないんだ。


”俺の娘だよ、ほとんど会えなかったけどな”


”君の娘は、ベルダじゃ、ああ、あっちの方か?”


”ああ、シャルロッテというのが俺の付けた名前だ”


”そうだったんだな、それであの名前か・・・”


 彼の住んでいた場所の名前の由来が良く分かった。こちらの同名の建物も同じ様な形だったと調べて分かったんだ。シャルロッテと言えば、シャルロットと同じだったな、もしかして安西くんは・・・?


”俺があの娘の事を心配するのはおかしいと分かっている。アンタにとって取るに足らない話だって言う事も分かる積りだ”


”そうか・・・”


 あの手紙を読んでの感触も、そして今直接会っての印象もそれ程悪い感じはしない。あちらの彼のした事を考えれば、あまり好感触を得るとは思えないんだが?


「1つ聞いて良いかな、安西君はどうしてあちらに行った?」


「情けない話ですけど、自殺に近いことをしましてね。ネットで怪しげなクスリに手を出した結果ではあるんですが・・・。どうして戻って来たのかは分かりませんが、目覚めたのはあの地震の直後でした」


「・・・、どれ位眠っていた?」


「一年半程ですかね、目を覚ますと母さんが僕を背負って逃げている所でした」


「随分と力持ちなお母様だね?」


「いいえ、僕より小柄な普通のおばさんです。火事場の何とやらでしょうね」


 そんな事を言いながら、母親に対する感謝の気持ちを隠していなかった。ウチの両親と比べると何と言うか、まあ、比べるものじゃないか?


「あの地震か、酷い物だったそうだね」


「ええ、幸い僕の家は被害は受けませんでしたけど、ある意味地獄でしたよ。これは”俺”が言うのは変かも知れませんが・・・」


 まあ、あちらでは、自分が起こした戦争で数万の犠牲者が出たんだからな。地獄を作り出した男の記憶を持つ人間が地獄を怖れるか・・・。


「聞きたい事があるなら何でも話す、ロッテがどうなったか教えてくれ!」


「もう1人の娘の方は気にならないのか?」


「気にならないとは言えないけど、ちゃんと母親が居るんだ、それも”俺”より人間の出来たね」


 俺も1人娘を遺して来たが、何故か非常に同意したくなるな。しかし、安西良太か、面白いな。”私”と同じ様な経験を積んできた上に、地獄も見たか?


「一応小説の中でヒントはあった筈なんだが、想像出来ないか?」


「想像なら幾らでもしたさ、アンタの息子と同じなんだからな。例の大王様がちょっかいをかけたんだろう?」


「そうだな」


「そして、あの国ではあの大王には逆らえない・・・」


 そうだろうな、そう考えてもおかしくはない。だけど、あれにも頭が上がらない人間が居たし、そこまで必要性は感じていなかったんだろうさ。


「逆らったさ」


「まさか?」


 この辺りの事情は、一般人の”彼”では知り様が無かっただろうな。”私”も友人じゃなければ知りえなかった情報だ。


 当然の様に奴が彼の娘を”要求”した。ただそれは思わぬ反対にあったんだ。皇帝となった友人の姉、つまりはシャルロッテ嬢(母親に別の名前で呼ばれていたが、言わない方が良いんだろうな)の実の母親が突然母性に目覚めたらしい。”娘”が略奪されそうになったのだから不思議じゃないが、多分娘と認める良い機会だったんだろう。


 色々揉めたらしいが結局皇帝の家系に婿を迎える形で決着が付いた。皇帝陛下としては万々歳の結果だが、良い事ばかりでは無かったけどな? (アレと親戚になるんだから、全く人事じゃないんだ!)


「そうか、あの人が・・・」


「ああ、母親は強いと言う普遍の結論に達する訳だね? もう少し話を聞きたいんだが構わないか?」


「あ? ああ」


「安西君は身体に異常は無かったかい?」


「クスリの副作用とかですか?」


「いいや、長期間昏睡状態だったんだろ?」


「リハビリは大変でしたね、ただ時間が取れたのは幸いでしたよ、勉強する時間には不自由しなかった」


 リハビリに関しては(ズルをしたから半分だけ)同意見だな。しかし、授業に出られる筈が無いから、高認を取って大学受験だろうか?


 堅実とは言い難いけど、努力したんだな・・・。そして、彼にも魔法脳は作られていないか? それなら、それなりのリアクションがあるだろうし。


 ただ、彼が魔法を使える様になれば、俺と同等の使い手になる筈だ。見栄えもこちらの俺よりは(はるかに)良いし、陰のある経歴もある意味魅力足りえる。


 俺などより、余程面白い人間だと思うし、話題性もある。安西良太という人間が何処を目指すか分からないが、同じ間違いをする事は無いだろう。よし、決めた!(我ながら決断が早過ぎる気もするけど、一度決めてしまえば彼以上の人材は居ないとさえ思えるよ?)


「なあ、安西君、君がもし魔法の力を取り戻したらどうする?」


「さあ、考えなかった訳じゃないけど、僕だけが!?」


「これが何か分かるか?」


 俺は懐の杖を取り出して見せたよ、安西君の反応は、呆れ気味だったけどね。まあ、当然なんだが、君にはもっと驚いてもらおうか?


「如月さんも暇だったんですね、そんな物を作るなんて・・・」


「本当にそう思うか?」


「・・・」


 俺は委細構わず呪文を唱えた。智香さんと同じく浮かせただけだが、安西君の反応は別の意味で信じられないと言った感じだったね。


「ご希望の呪文があれば唱えるよ?」


「まさか、あの設定!」


 さすがは読者さんは話が早くて助かるな。多分、あちらの彼の記憶では理解出来ないだろう?


「うん、設定じゃなくて事実だ。現に1人魔法使いが誕生している」


「そんな事が・・・」


「安西君、何を考えたかな? 震災復興かな?」


 ああ、”除染”とかも不可能じゃないな・・・?


「僕の事より、アンタはこれからどうする積りなんだ? こちらでも”やる”積りなのか?」


「さあね、それを決めるのは君だ、安西君?」


「はぁ?」


 うん、安西君の反応は尤もだと思うよ。会ったばかりの人間が妙な事を語っていると思うんだろうね?


「安西君には、理想を示して欲しい。言い方は悪いが、神輿として担がれてくれないか?」


「俺に、この俺にそれを!」


「言い方が悪いと言ったろ、あちらで何を学んだ?」


「何をって!」


「俺は”自分の性質”を知った気がするよ。あちらの”私”が成功者とは思えない、最後で失敗した愚かとは言わないが間抜けな人間だと思うが、安西君はどう思う?」


「・・・、それと、僕の関係は?」


「君に会って、”意外”に好感を得たから、君となら話が合いそうだから、そして失敗した者同士だからかな?」


「それだけで? お得意の暴走が始まっているんじゃないですか?」


「そう言う考えもあるかな? でも違うと断言出来るよ、人を見る目は養ってきた積りだ。これから信頼出来る人に相談する予定だからな!」


 当然智香さんだが、天城さんでも構わない話だろう。これからどんな事を”やる”にしても父さんやその友人だって相談に乗ってくれるだろう。

 目覚めてから今まで何かをする準備をしてきたけど、”それ”を決めてこなかった、多分この時を待っていたんだろうな。


「それって胸を張っていう台詞じゃないよな? 実際に言われると情けないよ?」


「何とでも言うが良いさ。君は何を学んだ?」


 その程度の皮肉が俺に通用すると思っているのかな?


「普通の生活の素晴らしさかな?」


「そうか・・・」


 そう来たか、あちらの”私”には縁が無かった話だ。普通じゃない人間しか知りえない幸せなんだろうな。ディータ(貴族)として育ち、ナポレオン(皇帝)として全てを失い、アルマント(平民)として死んだからこそ言える言葉なんだろう。


「・・・」


「止めておくか?」


「いいや、”やる”今度こそ自分で何かを成し遂げたい!」


「そうか。頑張れよ!」


「いや、”頑張れよ”は無いでしょう?」


「安西君、いや安西さんがこれからの事を決めるんだ。相談には乗るけどな」


「そう言われても、ねえ?」


「若者には無限の可能性があると言われるけど、君は正にその通りだ。ボランティア団体を立ち上げても良いし、政治家を目指すのも良いな」


 俺も若い積りだけどさ!


「政治家ね?」


「冗談じゃないよ? 資金の心配はしなくて良いし、仲間を増やせば、発言力は幾らでも増せるだろうさ。国王を目指すのはこの国では難しいだろうが、国家元首なら可能だろ? 単に金持ちを目指すと言うならちょっと意見を言わせて貰うけどな」


 こう言った話なら幾らでも”金”を作り出しても構わないだろう? レアアースの需要は増える一方だし、仲間が増えれば逆に生産量を制御しなくてはならない程だろうさ。


「いや、そんなもの目指さないけど・・・」


「何だったら宗教家とか、教祖でも構わないぞ? ”始祖”とか呼ばれるかもな」


「夢は大きくですね?」


「いいや、資金調達の目処は立っているし、魔法使いを増やす算段も終わっている」


「輸血なんだろう? 如月さんが干乾びそうだ」


 何故か、天城さんが吸血鬼に見えるときもあるけど、それは言わない事にしている。


「いや、”魔法使いの素”を培養するらしい。そっちの専門家の力を借りたんでね」


「培養? 魔法的常識を疑うね」


「そうかな? あそこでは、魔法と科学は相反したものじゃなかっただろう?」


「そうでしたね」


「さあ、”読者さん”、俺達のこれからの道を示してくれ!」


 こうして”俺達”のこの国を革命する試みは始まったのだった。

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