第14話 娘を頼む?
大学の戻った俺は忙しい日々を送る事になった。友人達は1年先輩になったが彼らとの付き合いも疎遠になりがちだった。
就職活動真っ盛りという奴も、完全に出遅れた奴も居たけど、留年や卒業出来ない間抜けは居なかった。そんな余裕(主に経済的な)が無いと言うのは俺も良く分かっている。(単位を取りこぼして、同じ講義に顔を出す間抜けは居たけどね)
当然だけど、大学の授業は、あまり真面目に受けなかった。俺には卒業して学士という肩書きだけが必要だったからね。本当なら学部を移動して経済学でも学んだ方が良いのだろうが、今の日本の大学では事実上不可能らしい。
トレッキング同好会の後輩に混じって、自分の将来に役立ちそうな講義はこっそり聴講するのも日課になっていた。誰かの代返を頼まれるくらいならば軽いものだ。
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休日には、天城さんに魔法の教える事になっているんだ。ちょっとしたドライブ(兼デートだな)気分で天城さんの実家を訪ねる事が多い。当然天城さんの魔法の修行を監督する為だ。(デートがメイン? 否定はしないけどな)
天城さんに輸血を行った後、半年程で魔法脳が形成されたのは天城さん自身から聞かされた。自分自身でレントゲン写真とか撮れないだろうから、協力者の存在は明らかだ。(何となくだけど、春菜ちゃんの新しいお父さんになるんだろうか?)
個人的には、入院中に魔法の研究をしておいたのが幸いして、口語の物ならこちらでも普通に魔法を使う事が出来る。ただ、治療に必要な魔法はルーンが必要でこちらは一から憶えてもらう事になったけど、元々頭の作りが違うんだろうな、半年の間に十分使えるレベルになったと思う。
このまま行けば、春菜ちゃんが小学校に入る頃には何とかなるかも知れない。ダメもとで使い魔を召喚したら、どういう訳か水の精霊が現れたのが嬉しい誤算だったからな。
かなり高位の精霊らしく、キュベレーともそのまま意思疎通が可能だったけど、妙な感慨があったな。水の精霊と言うのは、どの世界でも似ている気がするけどどうなんだろうか? (今の俺にさえ認識出来るというのは、かなり高位の精霊なんだろうね)
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当初、理事長秘書”助手見習い”としての俺は、まあ、全然役に立っていなかった。こう言った方面の経験や知識が無い(あっても文化が違い過ぎて、役に立つ事があまり無いんだよな)のが理由だろうね。
如月更夜としては、まだ大学も出ていない素人だし、あちらの”私”はこの方面は”彼女”とかに任せっきりだったからな。
見習いなのだから当然智香先輩のボス(父親)とも顔合わせをしたよ。柳沢大悟と言う人間は私の記憶にある別の理事長を彷彿とさせる中々の人物だと思う。(俺に対して以外はね!)
何処からか、俺と智香さんの本気の交際の話を聞きつけたらしく、かなり厳しく”指導”されたらしいぞ。らしいというのは、別に陰湿な”いじめ”の様な事をされた訳でもないし、色々な意味で目上の(有能な)人間から叱られる事など別に気にならないんだ。(智香さんに指摘されなければ、厳しいという事さえ気付かなかっただろうな)
「・・・君?」
「はい、何でしょうか、理事長?」
「あ、いや」
「先程の来客予定ですか? 時間的に無理があるので、先方にはお待ちいただくかもと伝えて在りますので」
何処かの偉い”先生”とやらが面談を強引に申し込んで来たんだよな、やっぱりああ言う人種は好きになれない。ただその感情を素直に表に出す様な歳でも無くなったな。
「いや、そうではない。如月君はこれから時間があるかね?」
ふむ、そう言う事か? やっぱり娘を持つ男親というのは面倒な事だな。よーく分かるな、その感情!
「特に予定はありません」
「そうか、それなら少し付き合ってもらおうかな?」
「私が相手で宜しいのですか?」
「構わん」
「それでは、ご一緒させていただきます。お店を見繕いましょうか?」
「いや、何時もの店で構わんだろう」
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何とか、”義父さん”に認められる時が来た様だ。正直言えば、自分がまだまだという自覚があるから、少し早過ぎる気もする。俺自身、卒業も近いし、智香さんも27歳の誕生日を迎えた、親戚連中が智香さんに縁談をと勧める話も聞いている。(未だに仮身分だが、婚約者が居る女性に見合いとか勧めるなよ!)
潮時と言えば潮時なんだが、いや、これは俺の都合だけで決める話じゃない。とりあえず、”義父さん”に「娘をよろしく頼む」と言わせてみよう。ビジネスが絡まなければお酒の匂いだけで軽く酔っ払える智香さんの父親だ、何とかなるだろう!(逆にビジネスが絡むとウワバミなんだよな、智香さんわね!)
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「義兄さん、朝だよ?」
「ぐっ! 朝?」
鈍い頭痛と共に昨晩の前半半分を思い出した、後半の記憶が全く無いんだがどうやらダブルノックアウトだった様だね。色々失礼な事を言っただろうけど、流れから”それ”を知りたかったんだろうな、理事長としても、父親としても。(分かっていたから素直な自分を表に出したんだが?)
「飲み過ぎ・・・」
記憶には無いが、彩香ちゃんが居ると言う事は柳沢の客室なんかだろうな。この娘は智香さんの妹とは思えない程あまり喋らない女の子なんだよな? 最初に紹介された時からこんな感じで、俺の”義兄さん”と呼んでくれる。
彩香ちゃんに言わせれば姉の婚約者なんだから当然だそうだ。その時点では本気で仮だった筈なんだが、お構いなしだな。微妙に何を考えているか分からない”不思議ちゃん”ぽいのだが、聞けばちゃんと説明してくれるよ?
「いや、それ程飲んだ気はしないんだけど、弱くなったんだな」
「姉さん、心配してたよ?」
「ああ、後で謝る事にする。ただ必要な事だったのは、智香さんも分かっているよ?」
「・・・。朝御飯?」
「うん?」
「姉さんが、頑張ってる・・・」
いかん! 俺の弱った胃腸がピンチだ! 頑張っていると言う事は朗報なんだが、目前のピンチをどう切り抜ける? 胃腸薬の援軍を求めたら、彩香ちゃんに白い目で見られる事請け合いだぞ?
「頑張っちゃってるのか・・・、いや、何としても美味しく頂く事にするよ」
「良い子?」
そう言いながら。彩香ちゃんが俺の頭を撫でる。一応俺の方が年上なんだがな?(智香さんに言わせると、随分気を許しているらしいが、こういった場面が無いと分からないな)
何故か、頭を撫でられていると、頭がぽーっとしてくる。これが噂に聞く”ナデポ”という奴か!いや、二日酔いなのは分かっているんだ、出来るだけ時間を稼いでいるだけだぞ?
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