第10話 金相場
「それで、コーヤさんはこれからどうする積り?」
「別に、智香さんとはもう少し交流を深めてから打ち明ける予定だったのが早まっただけだしね」
「ごめんね、急かせる様な事をして・・・」
「いや、俺が中途半端だっただけだよ。君を信じると決めていたのにその一歩が踏み出せない、情けない男だな?」
俺も、あちらの”私”も本当に中途半端だった、人間そう簡単に変われるものじゃないんだろうな?
「そんな事は無いわよ!」
「ありがとう、君の期待に応えられる男になりたいと思うよ、その為に”復学”するよ」
「でも・・・、そうね」
卒業してもそれ程意味がある大学じゃないけど、高卒と大卒では、社会的に差が出るのはバイトでもすれば分かる。未だに何者でもない俺が、大学中退では話にならんだろうさ。
「智香さん、もし良かったら、卒業後俺に仕事を教えてくれないか?」
「お父様の秘書をやる気?」
「駄目かな? 今の学部じゃ意味が無いだろうけど、そっちの勉強もする積りだ」
「いいえ、うん、良いんじゃないかしら?」
あー、何と言うか、智香さんが妊娠とかしたら大変だからな? 30代で初産とかは珍しくは無いんだが、智香さんに不要な悩みは持たせたくない。
「それで、コーヤさんの野望はどうなるの?」
「野望って、そんな大それたものじゃないよ。”私”的に言えば当然の考えさ」
「実際にはどうやって、魔法使いを増やすのかしら?」
「さあ、俺が思いつくのは輸血なんだけどな。O型の血液なら一応誰にでも輸血は可能だろ、詳しくないけど」
「輸血? コーヤさんが干からびてしまいそうね」
嫌な想像をするな智香さんは、俺自身、ミイラになった自分を想像してしまったぞ。
「ネズミ算式に増やせる筈だから問題は無い筈だ。もしかすればもっと良い方法があるかも知れない。実は二村先生に人を紹介してもらう予定なんだ」
「お医者様なのよね?」
「ああ、多分、マッドが付くだろうね」
何せアイツの友人なんだからな。一応”天城”という人らしのだが、未だに紹介される機会が無い。アイツから苗字は聞いた事があるから、こちらの情報を伝える事にはOKを出したのだがな。
「マッドね?、何故かコーヤさんが言うと好意的に聞こえるわ」
「気のせいだよ」
あちらでは世話になった友人だが、純粋に友人として好意的なだけだ。人間的には欠陥が多かったし(人の事は言えないが)、医者としては欠陥だらけだったな。
「コーヤさんは時々そういう顔をするわよね、まるで、お年寄りが昔を懐かしがっているみたいな・・・」
「そうかい? ああ、そうだ、あの小説ですが、読んでも良いですよ」
「えっ?」
いや、そんな事だろうとは思ったが、少しだけ不愉快だ。ただ、智香さんがネット上で何かを公開していたら、止められていても絶対に見てしまうだろうな。
「智香、俺は読まないでくれって頼んだよな?」
「まあ、良いじゃない、あの話を読んでいたから、魔法の事を信じられたんだから、ね?」
「良いですよ、まだちょっと早いしね」
「何が?」
「さあ、後のお楽しみと言う事にしておこう」
彼女は未だに、”ノーラ”になっていないからな。
===
天城という医師と会える事になったのは、リハビリも終わり復学の為に自分のアパートに戻る準備をしている頃だった。
天城医師と会うという話を智香さんにしたら、絶対に同席すると言われて、何かおかしい気がするけど俺が2人の日程を調整して会う場所をアレンジする事になった。(智香さんからすればこう言ったマネージメントを俺に実践させたかったんだろうな)
話が話だけに、天城医師の病院の部屋が良かったのだろうが、本人からのメールで何故かお酒が飲める場所が指定された。俺の知っている酒場と言えば、居酒屋か、ガールズバーとかだから、最初から難問が突きつけられた訳だ。
不本意ながら智香さんの伝を借りて、会員制のクラブを会談の場所に選んだ。妙な所だと、若い女性を男2人が連れ込んだと思われかねないから、店を選ぶのは難しかった。(俺と智香さんだけなら一向に構わないんだけどね)
その店に向かう前にいきなりダメ出しされたが、成人式にも出なかったんだからリクルートスーツを持っていただけでも褒めて欲しいと思うよ。何とか見られる格好(格好だけな!)になって目的の店に入ると、自分が場違いだと思い知らされるな。(洗練された智香さんと比べるのが間違いなんだろうけどね)
少し話が変わるが、今の俺は文字通り成金だったりする。智香さんに”偽金山”を作り出す話をすると、こんな話になったのだ。
「金山を作る? 何故そんな面倒な事を?」
「いや、幾らなんだも一学生がキロ単位の金鉱石とか持っているのはおかしいでしょう?」
「別にコーヤさんが直接取引しなければ良い事じゃない?」
「父さんの知り合いを頼る事も考えたけど、じゃなくて、俺にとっては”金”は魅力的な物質じゃないんだよ?」
「本当かしら?」
「ごめんなさい、貧乏人なので魅力的です。学費位は見逃して下さい。あ、PCの代金は出世払いで!」
「馬鹿ね、本当に。それで金山の話は?」
「ああ、A県にある廃坑になった金山があるんですよ」
「その鉱山が何?」
「その近くに父さん名義の山があるんですよ?」
「それを金山に仕立て上げるの?」
やっぱり智香さんは頭の回転が速いな。
「ええ、何度か登った事があるので、偶然砂金を見つけたとでもしようかと思います」
「義父様は大金持ちね?」
そうはならないだろうな、こういった方面では、馬鹿が付くほど真面目だからな、父さんは!
「いいえ、多分そうはならないでしょうね」
「ふーん、鷲見家が口どころか手を出してくる、かしら?」
「でしょうね、元々は鷲見の物だったのは事実です。そして、父さんは要求されれば伯父に返すでしょうね」
「それは、そうかもしれないわね」
ここで智香さんが同意してしまう辺り、誰から見てもお人よし過ぎるらしいな。
「昔の俺はそれを認められなかった、今だって不満に思うよ?」
「そう、それはコーヤさんの・・・」
まあ、俺の性格を決定付けている要素には違いないが、今はそれだけじゃないよ。
「でもな、良質の金鉱脈が今まで発見されていないなんて有り得ないんだ」
「えっ?」
「実際、昔は近くの川では時々砂金が採れたそうだし、かなり以前に本格的な調査をして全く採算が取れないという結論だったんだそうだよ」
「何をやる積り?」
「少し細工して、金を増やすのは簡単だ。調査といっても昔の事で、今やれば結果が変わる可能性もある」
「そう、金の価値も昔よりは上がっているわよね?」
「そうだね、今なら採算が取れるかも知れないよな?」
「コーヤさんってやっぱり人が悪いわ、将来が心配よ!」
そんな事を言いながら、智香さんの態度は俺の意見に同意している様に見えた。
「別に鷲見を敵に回す積りは無いよ。金の価値が下がったり、無茶な採掘をしなければ赤字にならないようにするさ。人が良いだろう?」
「どの口が言うのかしら、白々しいわね?」
「金の価値に関しては相場物だからな」
「金ね、本当に俗っぽい・・・、ねえ、コーヤさん、レアアースってどうなの?」
「どうって?」
「貴金属並みに貴重なんでしょう? パラジウムとか」
「詳しいね?」
「経済新聞くらい読みなさい!」
「はい、智香先生」
レアアースの話は授業でも習ったが、経済新聞に相場が載っているとは思わなかった。ただ、金を作るよりは手軽だし、多くの場所で見つかると言う事は逆に盲点になりうる。
「こう言うのは好きじゃないけど、経済的に一国に資源が集中するのは歓迎されないのよね?」
智香さんは、”分かるわよね?”と言った感じで自分の意見を言った。世界経済の為と言われれば、仕方が無いか?
「更夜君、貴方も誰かを立てようと思うなら、その人の罪を被る覚悟をしないさい」
「そうでしたね、でも、何処かの政治家の秘書の様な事はする積りはありませんがね」
誰かに心酔した記憶もなければ経験も無い、不必要に心酔された記憶はあるから多分一生無理だろうな。ただ清濁併せ呑むという考えは良く分かる。これまた実践しようとした女性が身近に居た経験があるからな・・・?
何故だろう、智香さんが”彼女達”とダブって見える気がするぞ?(ノーラなのに、何故だ?)
「当然よ、でもそういう気持ちを持っている事が重要なのよ」
「ご指導感謝します、先輩!」
まあ、そう考えれば、誰かを利用しようと思うより、お互い良い結果になるだろうな。
こんな感じで、久しぶりに自分の脚で山登りを楽しんだ帰りに”偶然”かなりの量の砂金を発見した訳だね。父さんの知り合いに引き取ってもらったが、意外に高く売れた。文字通りプチ成金だな?
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