第31話 九月第三月曜日 敬老の日
まもなく開店だというのに、二階の食堂の窓から店舗入口の客の列を
「大野君。お年寄り限定で『カードポイント十倍』企画は成功しそうだな」
「お年寄りは、こういったサービスが大好きですからね」
大野君のこの一言で、店長の顔が一変した。
「それはなにかな……『年寄りはみんな欲の皮が突っ張っているから、喜ぶんだろう』とでも言いたいのかい?」
「また、そんな
最近、若い従業員に年寄り扱いされ始めた事を根に持っているようだ。
トイレに行った後、犬のシッポのようにトイレッテペーパーをズボンの腰からヒラヒラさせて店内を闊歩したのだから仕方ないだろう。それも三回も――。
「本当に、あんな方法でお年寄りを見分けるんですか?」
捻くれた店長を適当にあしらって、大野君が訊ねた。
「自己申告のことか? レジで『老人やと思ったら言ってください』って……チラシにも書いていただろう」
「それは……知っていますけど」
大野君が、最後まで反対していたところである。
「やはり店長……お年寄りはプライドが高いから、そんな申告しないでしょう?」
「それならそれで……無視したらいいだろう」
やはり、年寄りに
「無視していいんですか?」
「『私ってまだ、お年寄りに見られないんだわ』って喜ぶんじゃないか。逆手を使った心の、お・も・て・な・し……やな」
流行に関係なく、気に入ったものは使い続ける店長である。
未だに「余裕のよっちゃん」を
「折角ポイントをサービスするのに、それでは集客には繋がらないでしょう」
「問題ないさ。例の軍団が、『私は老人よ』って大挙して押し寄せてくるから」
「例の軍団って……あの例の?」
「そう……あの軍団」
「本当ですか。まさかそこまで……」
「そう思うなら、この窓から店舗の入り口を見てみなよ」
大野君を窓際まで呼び寄せると、分からないように入口に並ぶ客の列を指さした。
「なんと……例の軍団じゃないですか」
「だろう。ほら、ほら……顔をよく見てみなよ」
窓枠に短い足をかけ、体をのり出して顔を確認する大野君である。
高所恐怖症である事を忘れている。
「……全員、同じ化粧に、同じ服……髪型まで……似ていますね」
「最初の一人だけが老人なんだ。あれこそが……忍法――
店長の声がデカすぎた。
ワレ先にと並んでいる、熟年くノ一軍団に
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