第28話 七月十日 ウルトラマンの日

 スナックと一緒に子供達にセットで販売してやろうと、画用紙に画いたウルトラマンのお面をハサミで切り取っている大野君。

 耳の部分に穴を開けて輪ゴムを通しているのは店長である。

 二人とも、完全に著作権ひとのもの侵害である事など気づいていない。

 ウルトラマンはみんなの物だと思い込んでいる世代である。


「大野君。今日はスペシュウム企画を考えたんだ」


「ウルトラマンの日らしい企画でしょうね?」


「『ウルトラマンクイズに答えてお菓子を八つ光輪こうりん』ってんだけどな」


「そんな地味な技名は使わない方がいいと思いますよ」


「地味って……ウルトラマンにはスペシュウム光線と八つ光輪こうりんしかないだろう」


「ジャミラを倒した『水噴射みずふんしゃ』があるじゃないですか?」


 大野君もなかなかウルトラマンに詳しい男だ。


「液体の放射なら、俺だって……まだまだ若い者には」


「ウルトラになんか変身できないでしょうに」


 オッサンの会話は下ネタに聞こえてしまうから、ヒーローを語ってはいけない典型的な事例である。


「子供達とクイズ対戦をして、勝ったらお菓子をプレゼントしようという企画なんかどうだい?」


 久しぶりに、いけそうな企画が浮かんで意気揚々いきようようである。


「面白いじゃないですか。早速、菓子担当にお菓子を用意させますね」


 大野君も、久しぶりに乗ってくれた。


「そうだ……ウルトラクイズは店長が考えてくださいよ」


「任せとけ。ウルトラ広辞苑こうじえんと呼ばれていた俺様だぜ……」


「さすがの世代ですね。どんな問題を考えているんですか?」


「ウルトラマンの身長は? ウルトラマンの故郷は?」


「それで。それで……」


「ウルトラマンとセブン兄貴はどっち? バルタン星人の弱点は?」


「なるほど。なるほど……」



「水に弱い元宇宙飛行士の怪獣は? ウルトラマンを倒した宇宙怪獣は? ウルトラマンの必殺技はスペシュウム光線の他には何光輪なにこうりん?」


「ほう、ほう……それから?」


「あとは、科学特捜隊かがくとくそうたいの飛行機の名前は? ・・えーと、怪獣王と呼ばれるのは? やばい……ゴモラは何でしょう? 違う、何とか星人の……」


「何ですかそれは?」


「……駄目だ! 出てこない……」


 顔が赤くなったり、青ざめたりしている。


 脳細胞のカラータイマーが点滅している店長マンである。


 大野君が、お面を切っていたハサミを両手に持ち替えて何やらつぶやき始めた。


「店長マン……それでは、クイズは三分しか持たないぜ……フォフォフォ!」


 バルタン星人が、性格の悪い宇宙人であることを知っている人――この指にとまれ。

 ハサミで手を切る覚悟があればだけど――。

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