第26話 七月二日頃 半夏生(はんげしょう)

 搬入はんにゅう口に着けたトラックの荷台から大量に仕入れた【湯ダコ】を、店長と大野君が連携を組んで降ろしているが、まったく息が合わずにもたついている。


「大野君。今日は半夏生はんげしょうだから鮮魚部門に頑張るように伝えてくれ」


「今日はタコが売れますからね」


「顔は悪いが、パワーだけは有る奴だから大丈夫だとは思うが――念のために」


「僕もそう思います……一応店長からの指示として伝えてきますね」


 パワーが無い二人は、数ケースを降ろすだけで息が切れている。


「ついでに惣菜部門に寄って『タコの天ぷら』や『タコヤキ』を販売するようにも言っといてくれ」


「じゃあ、早速」


「……おい! まだ荷物が残っているだろう……」


 まだ、降ろしきれていないタコを残して大野君は脱兎だっとのごとく姿を消した。

 惣菜に行けというと、何故か喜んで居なくなる大野君に「つまみ食い犯」を確信した店長である。


 しばらくすると、口をモグモグさせながら大野君が帰って来た。


「店長――まだ降ろしているんですか?」


「途中でトイレに行っていたんだ。仕方ないだろう」


 イライラしているトラックの運転手の顔を見ると「大の方だったのか」と察した大野君である。

 急いで作業に戻りながら店長に伝えた。


「……両部門ともチーフが怒ってしまって大変でしたよ」


 小声で店長に耳打ちした。


半夏生はんげしょうで『タコを売れ』と指示して、怒る理由が何処にあるんだ?」


 運転手の目を気にしながら小声で言い返した。


「タコ頭の鮮魚チーフは――誰が『ハゲでしょう』じゃあ。と怒ってしまって」


「……お前……何を」絶句する店長。


「おかまの惣菜チーフは――誰が『半ゲイでしょう』なのよ。と怒ってしまって」


「おまえ……そう聞こえるようにワザと言っただろ? 確信犯だろ?」


「いつも苛められている店長に僕から『はんげきしょう(反撃しよう)』てね」


 この手の悪ふざけを、悪気も無くやってしまう大野君に悪寒おかんが走る店長である。


「真面目に仕事してよ。次の配達が待っているのよ」


 トラックの荷台から運転手が怒鳴どなった。

 ツルツルのタコ頭から湯気を立てながら、オネェ言葉で――。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る