第19話 四月末日~ ゴールデンウィーク

 ゴールデンウィークに、わざわざこんな中途半端ちゅうとはんぱな大きさのスーパーに足を運んでくれる客がそんなに多いわけがない。

 まったく伸びない売上を、パソコンの画面で確かめながら大あくびをしている店長である。


「大野君。暇だねぇ……みんなどこに行っちゃんたんだろうな」


 同じように、店長の横で鼻毛を抜いていた大野君にたずねた。


「何処って? やはり何でもそろっている大きな店に家族連れで行くでしょう。仮面ライダーのヒーローショーもやっているし」


「だよなぁ……やっぱりイベントすればよかったな。考えてはいたんだけどなぁ」


 店長の瞳は相変わらずよどんでいる。

 こういった時は、ロクなアイデアなんか浮かんでいないことに大野君は気づいている。だが、いかにも聞いてくれと言わんばかりの態度を見ていると実に聞きたくなくなるのだ。


「聞いてくれないのか?」我慢できない大人である。


「……どんなの考えていたのですか?」


「子供達とジャンケンして負けたら『あやまり専門のヒーロー』ショーさ」


「なんですかそれ? 誰がその役を……」


「くたびれ星からやってきた、謝罪しゃざい専門ヒーロー『ごめんライダー』ってな」


「また、くだらないダジャレですか。で! 店長が変身するんでしょうね」


「大野君以外に適任者がいるのか?」


「じゃ、聞きますけど。そのライダーのどこに、子供が喜ぶ要素があるんですか?」

 やはりこの程度か――といった心の声が顔ににじみ出ている大野君である。


きょを突いて『金魚の――つかみどり大会』なんてどうだ? ちょっとヌルヌルして気持ち悪いけど」


 虚を突く意味をはき違えている。


「金魚がなにより迷惑ですよ」


「……『生たまご詰め放題』てのは?」


「無理して詰めたら袋の中で割れてグチャグチャになるんですよ……想像してみますか?」


「いや……したくない。それじゃ『触れて・触って、これ、なーんだ?』ってのは」


「何を触るんですか?」


 大方の予想がついている大野君である。


「大野君を箱に入れて触りまくるんだ。うちの客は高齢者が多いから、君のゴツゴツした頬骨はツボマッサージになるだろう」


「……とにかく仕事しましょう。暇なら道路に出て呼び込みでもしたらどうですか?」


 これ以上聞いていても、何の得もないと判断した大野君。

 店長の背中を押して事務所から追い出しながら言った。


「なんならそのまま、車に飛び込んでも構いませんからね」


渋滞じゅうたいでノロノロ運転しているといっても……飛び出したら危ないだろう」


「店長はヒーローだから大丈夫ですよ」


「それでも、車にはねられたら怪我してしまうだろう」


「血みどろの戦い。デカ頭戦士『がんめんライダー』なんて……どうです?」


 カンラ、カンラと笑う大野君の背中から――コウモリの羽が生えてきた。


 仮面ライダーンの宿敵、ショッカーの怪人だったのかもしれない。

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