第17話 四月某日 入学式

 開店前の朝礼に中々集まらないどころか、やっと姿を現しても、まったく急ごうとしない従業員をイライラしながら待っている店長である。

 隣には時間厳守がモットーの大野君が腕を組んで偉そうに立っている。


「大野君。今年も我が店には、新入社員が一人も入ってこなかったなぁ」


「本社では何人か採用しているみたいですけど、うちには全然まわしてくれませんね。何故でしょうね?」


「新人いびり三人衆と呼ばれる古狸ふるだぬきオバチャンパート連合が、我が物顔で蔓延まんえんっているからかな?」


「……あの三人のイジメは傍で見ているだけでも、袋がキュンとすくみあがってしまいますからね」


 ペチャクチャしゃべりながら、ダラダラと歩いてきている三人組を横目で見ながら大野君が小声で言った。


「それともあれか。自称『若者アレルギー』の菓子と惣菜のチーフがいるからかな?」


「……あの二人の、若者に対するシゴキは想像を絶しますからね。背中にムチを隠し持っているのを見た時には、耳の産毛うぶげが逆立ちましたよ」


 若い従業員の尻をりながら笑っている二人を見つけると「早く集まるように」と、手招きしている店長である。

 今日も「パワハラ」ついて朝礼で話す必要性を感じているようだ。

 ただ、今月だけで、もう四回目の話しだけに、店長自身がパワハラをやらかしそうである。


「それとも『若者を悪の道に誘うんだ同好会』が活動しているからかな?」


「ギャンブルと夜遊び、更には火遊びまで教えて、給料も貯金も、親からの仕送りも根こそぎ持っていっちゃいますからね……奴らは」


「それとも……」


 もういいですと、右手の手の平で店長の口を封じた大野君。


「店長……新入社員は一生待ってもウチには来ないと思いますよ」


「だろうなぁ……」


 やっと、朝礼が始められる人数が集まった。

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