第5話 一月十某日 成人の日
店舗入口のゴミをホウキでかき集める店長。地元指定のごみ袋を大きく開いて待っている大野君の手元にかかるように、ワザと雑に流し込んだ。どうして、店長である自分が掃除をさせられているのか? 気づいたようだ。
「大野君――成人式帰りの新成人達が、
こんな田舎町に
「式は正装だから、先ずは家で着替えるか、貸衣装屋にいくでしょう。スーパーに来るとは思えませんけどね……まして大挙してなんて」
手にかけられたゴミを、仕返しとばかりに店長のスニーカーの
「じゃあ……駐車場でドンチャカ、ドンチャカ騒いでいる、あの連中は何者なのだ?」
店長が指さす先に、派手な着物の
「着物を着ていますね。
近眼なのに〈メガネをかけると世の中の嫌な所が見えてしまう〉と、メガネをしない大野君が目を細めて見ている。実は、酔っ払って水洗トイレで流してしまった事を怒った奥さんが新しいメガネを買ってくれない事を店長は知っていた。それもトイレに流してしまったのが、これで四回目である。同情の余地は無い。
「クラリネット吹きながら、更に
「……店長! あれは、隣のパチンコ屋の新装オープンで
「なに? チン・ドンヤン……
「
似た者同士である。チンドン屋のルーツは大陸だったのかもしれない。
「……チンドン屋の後ろを着物で踊りながらついて行っているは、うちの『レジ担当の二人』じゃないのか。たしか彼女たちも新成人だったよな」
「確かに彼女たちですね。しかし……何やら楽しそうですね。アレじゃないですか?」
「アレ? もしかして
「そこから離れられませんか」
しつこいおっさんだなぁ。というのが顔に出ている大野君である。
「『新成人になったのなら、お客様を笑顔にする技術を一つくらい会得しなさい』といいましたよね。だから、お客を笑わせる『チンドン技術』を覚えようとしているんですよ」
大野君――彼女たちの普段の天然を思い出して確信したようだ。
「馬鹿だなぁ……俺の言いたかったのは、チンドン屋の技術でなくて……トランプを消したり、鳩を出したりする事を覚えなさいって事なんだぜ」
「……鳩を出す? もしかしてそれは『技術』じゃなくて――」
「『
黙って、店長の横をすり抜けて店内に入ると、入口の自動ドアの電源を切って、店長を外に締め出した。
「店長に『人を……育てる』事を期待した僕が馬鹿でした。店長を『人に……育てる』方が世の為だと確信しました」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます