第52話 兄妹衝突!

「ソローニュのノリスと申したか、見事な戦いであった」


「いいえ、大公殿下、自分の不甲斐無さを思い知らされるばかりでございます」


「いやいや、随分と謙虚な事だな。家臣は主に似ると言った所かな」


「恐れ入ります」


「通常ならば、主に報奨金を出す事で話は終わるのだが、大公たる者がそれでは示しがつかぬ故、そなたに褒美を取らすことにしようと思う。無論侯爵を始め、参加者の後援者には話が通してある遠慮無く希望を申すが良い。大抵の望みは叶えてやろう」


 出たよ、お父様の”大抵の”が! でもボクにはそれより、ノリス兄がお父様の言葉を聞いた瞬間ボクの方に視線を向けたのがすっごく気になったよ、それに心臓がドキドキするし!


「それでは、私の希望を申し上げます」


「うむ」


「お嬢様、ジョゼット様に」


 に? ”を”とか”と”とかじゃ無いんだ、ジョゼット様にプロポーズする事をお許し下さい? 変な所で言葉を切るから気になって仕方が無いよ! あっ、お父様から妙な気迫を感じる、呪文も唱えていないのに魔力が動いているのが見えるんだけど?


「ジョゼット様に決闘を申し込みたいと思いますが、お許しいただけますか?」


「「はぁ?」」


 ノリス兄の願いと言うのは、その場に居る大抵の人間の予想を裏切る物だったんだよ! どう考えても大会の主催者の娘に決闘を申し込むなんて正気とは思えないよね? ただ、じっと見ていた訳じゃないけどソローニュ候の周りに動揺の気配は無いし、何故か”変態”も驚いた様に見えない。(お姉様は、”まあ!”とか言ったっきり動かなくなっちゃったけどね)


 不思議な事にお母様も、ノリス兄の願いに驚きを隠せなかったみたいだよ? 裏で動いているんだと思ったんだけど、ここまでは知られていなかったのかな? お父様は、固まっているよ、この”精神的な固定化”が解ける前にボクは動かなきゃ駄目だね!


「良いでしょう、その挑戦お受けいたしますよ、ノリス様!」


 まあ、深く考える前に身体が勝手に動いちゃったんだけどね。ボクは少し高くなっている観覧席から苦も無く飛び降りたんだ。(ボクの勘がこう言う事態を何となく予想していたのかも知れないね)


 うん、苦も無くは嘘だね、一応公式の場と言う事で実用性ゼロの上等なドレスと着ていた物だから、裾が少し気になった。でも着替えて来ますとは言えない状況だよ! 着替えて帰って来たら、きっとノリス兄とは2度と会えなくなっちゃうだろうしね。


「借りるよ!」


「姫様!」


 会場を警備していた兵士から強引に剣を奪い取って、そのままノリス兄の下へ駆け寄って行ったんだけど、久々に見るノリス兄は少しだけ逞しく見えたね。


「そんな格好で、決闘をする積りか?」


「うん、どんな時に戦いが始めるか分からないからね」


「そんな事をセレナが言っていたな、拳銃は持っているんだろう?」


「うん、だけどそんな無駄な事はしないよ」


 お互いにだけに聞こえる声で、こっそり会話をしたけど、ノリス兄は以前とかなり変わったなって感じたよ? 拳銃程度じゃ防御を固めたノリス兄には効かないだろうし、既に発動している魔法に干渉するのは相殺するしか手が無いんだ。こうなったら、魔力比べかな? そう考えて、杖に意識を集中して、呟く様に呪文を唱え始めたんだ。(始めの合図の前に呪文を唱えるのはルール違反だけど、ノリス兄の方はもう魔法が発動した状態なんだから見逃して欲しいよ)


「行くぞ!」


「良いよ!」


 ノリス兄が、ボクの呪文の完成を待って声を掛けて来たのでそれに応えたけど、決闘と言うより練習試合という感じだよね?(さっきまで試合を仕切っていた、審判の小父さんも無視だしね!)


 ボクは、左手の剣に這わせたブレードの魔法の効果を確認したんだ。杖剣とかと違って普通の剣だとイマイチ効果が上がらないみたいだ。これで、ノリス兄の防御を破れるかな? 魔力の相殺を一点集中すれば、ってその手はボクと同じ様に”見える”ノリス兄には効かないかも知れないけど。


 そんな無駄な思考に時間を使ったのが1つ目の失敗だったんだ、そして、もう1つの失敗は思ったより身体が鈍っていた事なんだ。


「くっ!」


 逃げ回ってノリス兄の魔力と体力の消耗を狙うのも駄目みたいだよ! 直ぐそこまで迫ってきたノリス兄に対応するには、ノリス兄の目的を完全に見切って、かわした上で逆襲するしか無いよ!逃げ回る事を諦めて、ノリス兄の目標を見切る事に集中したんだけど、え???っ!


 慌てて、剣を振ったけど当然簡単に弾かれちゃったんだ、そして、ボクは、ボクは・・・。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る