第49話 女性陣男性陣

 こんな感じで、実家?の女性陣とは概ね良好な関係を築く事が出来たと思うんだ。大公家とは言っても、王位継承権争いに敗れたお父様が始祖になる訳で、そんなに歴史がある訳じゃない。


 一方、オルレアンと言う土地は、ラグドリアン湖を挟んでトリステインの対岸になるんだ。対岸はモンモランシーの実家のモンモランシ領なんだよ。落ち着いたら、湖を渡って遊びに行きたいな。ちょっと意外なのが、トリステインだとラグドリアン湖は神聖な場所と言う感じなんだけど、ガリアではごく普通の湖という扱いなんだ。(水の精霊が何とかと習った記憶はあるけど、うん、内容はさっぱりだよ?)


 話は戻るけど、オルレアンは水利に恵まれたまあまあ豊かな土地なんだ。一時期お父様が領地の整備に力を入れたので、領民からも結構評判が良いらしいんだ。ただし、レーネンベルクとは違って、ちゃんと領主と領民の関係が成り立っているよ、この辺りは、ルイズのラ・ヴァリエールと同じ印象かな?


 そう、オルレアン大公家は歴史と伝統を重んじる由緒はこれから育てて行く予定のガリアの大貴族なんだ。ここがボクにとっての最初の誤算だったんだよ!

 王女であるイザベラさんが、結構、親しみ易い女性だったし、お母様も2人っきりの時は普通?に振舞っていたから、てっきりガリアやオルレアンもトリステインやレーネンベルクと同じだと思っていたんだけど、全然そんなことは無かったんだ。別に上品に振舞う事が出来ないと言う訳じゃないんだよ? 単に肩がこるというか、落ち着かないだけなんだ。


 そして、もう1つの誤算は、お父様、オルレアン大公シャルル様だったんだ。大国ガリアの宰相と言う事で、きっとしっかりした男性なんだろうなと思っていたし、毎年聞いていたお母様の話もそれを裏付けていたんだ。(ただ、あの歳になっても熱々な夫婦の贔屓目という要素を見落としていただけなんだよね)


「君が私の娘のジョゼットなのだな?」


「はい、お父様、いいえ、大公殿下」


「お父様でも、シャルルでも良いぞ、お前にはこれまで色々迷惑をかけた様だし、これからも多少不自由な事になるだろうからな」


「それではお父様、不自由になるとはどう言った意味でしょうか?」


「ああ、お前はトリステインに人質に出されていた事になったからな」


「そう言う話になったのですか?」


 こう言った政治的な話は、聞いても良く分からないんだけどね。人質と言うと、あんまり良い印象じゃないのは事実だけど。


「そうだ、ガリアとトリステインの友好の証としてな、すまない」


「いいえ、私はそれでも構いませんが、お世話になった人達が悪く言われるのは」


「それは、情報操作の腕次第だろうな、ガリアは陛下の英断と言う形で話が進んでいる。あちらには、切れ者が居るからな、別に心配する様な事も無いだろう」


 キアラさんの事かな? まあ、他国の話なんだから気にしても何も出来ないんだろうけどね。


「その絡みもあって、ジョゼットには暫く面倒な事が多いだろうが、我慢してくれ。替わりに大抵の我侭は許すから、何でも言いなさい」


 ここまでは、お父様の言葉は大国の宰相らしい立派な物だったんだよ、問題はここからなんだ。


「それでは、時々で構いませんから、城下も見て回ることを許可していただきたいのです」


「駄目だ・・・」


「変装は得意なので、私と気付かないと思います」


「絶対に駄目だ!」


 うん、”大抵の我侭”ってすっごく難しいと感じたよ!


「それでは、そうですね。王都リュティスを一度見てみたいのですが?」


「それも、駄目だ・・・」


「えっと、ソローニュ侯爵の所へに、挨拶しておきたいのですが?」


「それは、絶対に許さん!」


「あの・・・?」


「ジョゼット、帰ってきたばかりのお前まで、何処かへ行ってしまうのか?」


「あれ?」


「私の大切なシャルを、あいつの息子などに!」


「ジョゼット、ここからは長いから、部屋に戻っていなさい」


「はい、お母様」


 それまでお父様の後ろで黙っていたお母様が助け舟を出してくれたんだけど、非常に嫌な予感しかしなかったんだよね。感覚的に言えば、蜘蛛の巣に捕まった蝶々かな? (この例えなら、蜘蛛(ノリス兄)から逃げ出した蝶々(ボク)が、逃げ出した先で別の蜘蛛(お父様)に捕まったという事だろうか?)


===


 お母様が話してくれたのは、お父様の中々難しい立場とその心情だったんだ。お父様と現国王陛下は王位を争った仲だけど、現状は仲直りしていて概ね友好な関係なんだよ。

 但し、バルドー子爵を始めとするガリアの新興貴族とは、関係改善までは言っていないらしいんだ。お父様はどちらかと言えば旧勢力を取り纏める立場だから仕方が無いらしいけど、バルドー子爵とはやっぱり犬猿の仲らしいんだ。


 それなのに、シャルロットお姉様とバルドー子爵の息子さんがどう言う経緯(お母様も知らないらしいし、お姉様はこの話になるとフニャフニャになって要領をえないんだよね?)か恋仲になってしまい。仲が更に悪くなりかけた所で国王陛下の仲裁が入り、”婚約”まで一気に話が進んでしまって、お父様が壊れちゃったという流れらしいんだ。

 お母様は、その内気にしなくなるわと言っていたけど、それが何年先になるか多少不安だったりする。恋愛と言う物を知っているけど、分かっていないボクには丁度良い機会だと思い込む事にしたよ?


 ボクが帰ってくるタイミングとしてはおかしくは無かった筈だけど、ちょっとだけ間が悪かったみたいだね。如何にも良家のお嬢様と言ったお姉様だけど、こんな事情があったからボクをすんなり受け入れてくれたのかと、邪推したくなるよ。


 こんな訳でオルレアンの男性陣とボクはあまり相性が良くないみたいだ。ああ、男性陣には、変態!じゃなくって、クリストフ・バルドーも含まれるんだ。


 この変態との出会いは最悪だったよ、日も暮れた頃に、魔法で窓から侵入してきた男に気付いたから、ごく普通の対応をしただけなんだけどね。


「誰だ?」


「あれ、シャルロット、もしかして髪を切ってしまったのかい? あんなに綺麗だったのに」


 お姉様の知り合いかなと思ったんだけど、貴族の格好じゃなくて、普通の平民の格好だったから、警戒を解く訳には行かなかったんだ。


「誰かと聞いているんだ!」


「あれ、もしかして背が縮んだ?」


「なっ!」


 そう言ってその失礼な男はボクの頭に手を乗せ様としてきたので、反射的に投げ飛ばしちゃったんだよ。ボクとした事が簡単に接近を許すなんて、気が緩んでる証拠だね!


「ぐぇ」


 カエルっぽい呻き声を上げたその男を取り押さえたんだけど、魔法で動けなくした方が良かったかなと思ったよ? でも別に警戒する様な相手とも思えなかったからね。でもでも、その男が発した言葉は決して許されない言葉だったんだ!


「あ、あれ、シャルロット、君、胸が小さくなった?」


「・・・、死ね!」


 この男は、完全にボクをお姉様を勘違いしていたらしい、テッサやライルやノリス兄なら同じ格好をしていても絶対間違えないと思うんだけどね! 勿論、殺しはしなかったけど、軽くおとして、腰紐で縛り上げると人を呼んだんだけど、そこでやっとこの男の素性が分かったんだ。

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