第47話 意外でもない事実


 こんな感じで、1年かけて国中の召喚ゲートを大体網羅したんだ。この時は多分今までのボクの人生の中で最も充実した時期だったと思うんだ。でも、それもボクが学院を形だけとは言え卒業した事で終わりを迎える事になったんだね。


 召喚ゲートの方も一段落ついて、この国の貴族としては一人前と認められた訳だから、そろそろと思っていたらレーネンベルクの翌日の夕食後、父様から書斎に来る様に言われたんだ。テッサの替わりに新しい屋敷の住人になったミコトがボクの緊張を感じたのか、心配そうにボクの事を見ていたよ。


「ジョゼット、まあ、お前なら何の為にここに呼んだかは検討がつくだろうな?」


「はい、私の”本当の素性”の事ですね、お父様?」


「別に改まって言う事でも無いだろうし、ジョゼットには察しも付いているだろう?」


「はい・・・」


「そうだな、これはお前を娘として迎えた私が告げるべき事なのだろうな。ふぅ、この時が来るのを覚悟をしていたが、堪えるな。ジョゼット、お前の本当の名前は、”ジョゼット・トゥール・オルレアン”、ガリアのオルレアン大公の次女だ」


「はい、ありがとうございます」


「何故、貴女がこの国に来たかの事情はご存知かな?」


 そっか、この時からボクはこの家の娘じゃなくなったんだ。大体分かっていた自分の素性より、こっちの方がボクには悲しかったんだ。


「いいえ、それなりの事情があったのでしょう。オデット様、いいえ、母は私を極力娘として遇してくれたのは分かっておりました」


「貴女には、シャルロットと言う双子の姉が居る、少し前までかの国には双子を疎んじる風習があってな。それが王位継承権を持つ王子の子供だと、色々差し障りがあった」


「差し障りですか?」


「そうですな、王位を争う王子に双子の子供が生まれたとなれば、その王子には”傷”が付くでしょうな。無論父が娘をとは思いませぬが、彼を推す者達がどう考えるかは・・・」


「そうですか・・・」


 そうか、スティン兄はこういう背景があったから、ボクに”メイジ殺し”という目標を示したんだね。こう言った話は家庭教師の先生達も知らなかったのか、教えてくれなかったね。


「少し前までと仰っていましたね、公爵様?」


「うん?ああ、どの国にも急速な変化に付いていけない者が居ると言う事です」


「公爵様に比べれば大抵の者が頭が固いでしょうね」


 ボクの知っている限り、レーネンベルク公爵程度の年齢の人間なら、カッチンカッチンな人が多いね、例外も勿論居るけどね。


「貴女にはそう見えましたかな? 私は昔から頭が固い人間でしたよ、それで、前の妻も、父も苦労させましたな」


「そうなのですか?」


 そういえば、この人が父や前の奥さんについて話しているのを聞いた事が無かったね?


「ええ、貴女も自分の家で苦労する事でしょうね。ですが、私の知っている貴女なら、自分の生きる道を見つけ出せると思います」


「そうでしょうか?」


「ええ」


 この人にそう言ってもらえるのは嬉しいけれど、迷ってばかりのボクが本当の道なんて探し出せるんだろうか?


「私の方からお伝えしたい事は、ああ、もう1つありましたな。貴女の姉上の婚約が発表されましたよ」


「そうなのですか、お相手は?」


「バルドー子爵の末弟と聞いております。子爵は、現ガリア王陛下の即位に力を貸した人物ですよ?」


 公爵がちょっと人の悪そうな笑顔を浮かべたんだ。確かに政治的な話は、全然分からなかったけどね! しかし、政略結婚か、まだ見たことも無い姉上だけど、どう思っているんだろう? もしかして、この婚約が決まったからボクの素性を明らかにしてくれたのかな。


「しかし、オルレアン大公も度量が大きいのか、娘には甘いのか、どちらかな?」


「政略結婚ではないのですか?」


 自分だって、”娘”には大甘だったのにね?


「さあ、詳しい事情はご本人から聞いた方が良いでしょうな」


「そうですね、実の姉の事ですから・・・」


 他人の色恋沙汰と言うのはどうもボクの想像力の外にあるらしくって、時々理解を超えることがあるんだよね。


「私からお伝えする事は、これだけですが?」


「はい、それでは、”ジョゼット・ド・レーネンベルク”としての最後の言葉になります。お父様、お母様、今日までありがとうございました!」


 母様が奥の扉の向こう側に居る事位は、分かっていたんだ。


「うむ、娘を嫁にやる親の気分が分かった気がするな。いや、こちらこそ、面白い経験だったよ、ジョゼット」


「はい、父様」


「直ぐに発つのか?」


「その積りです、未練ですから・・・」


「そうか、そうだな、明日は屋敷の者だけで見送る事にする。構わないかな?」


「はい」


 こんな事を予想して、学院の荷物や、旅先に持っていった日用品は荷解きしてなかったんだ。公爵もその辺りはお見通しらしいね。


「そうだ、ソローニュ候によろしく伝えてくれ、あれも強情らしいからな」


 もしかして、あの話も、この時の為にだったのかな? 難しい話はやっぱり苦手だよ・・・。

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