第46話 恐怖の大蛸
戦争自体は、ルイズ達がナポレオン1世を”討ち取った”事で、あっさりと決着が付いたんだけど、ボクは普通の学生生活に戻る事になったんだ。(トリステインという国にとっては色々あったけど、概ね問題は無かったと思うよ?)
色々考える事が多かった冬も終わって、そろそろ春を迎えてボク達も進級する事になったんだけど、それはライル達が卒業する事を意味していたんだよね。ライル達が卒業しても、直ぐに新しい後輩が出来るのは分かっていたんだけど、それでも寂しく感じる事は仕方が無かったんだ。
ライル自身は卒業後、直轄地マース領の領主代行をする事になるのが決まっていたんだけど、本人はちょっとだけ納得して居ない感じだったね。だけど、あんな事になるなんて本当に想像もしていなかったんだ。
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「ライル、本当なの?」
「ジョゼット、聞いちゃったんだね?」
「本当に本当なの?」
「うん、本当だよ」
学年末の休みに入って、先に卒業してマース領に向かった筈のライル達を激励に行く積りで、早めに戻って来たんだけどノリス兄が教えてくれたのは思っても居なかった、この話だったんだよ!
「ゴメン、子供みたいだね。でも、どうして?」
「それは・・・」
「もしかして、イザベラさんの為?」
ライルの行動が納得出来なくって、少し意地悪な質問をしてみたんだけど、ライルの答えは予想外だったんだ。だって、本人の目の前でそうだとは言えないと思ったからね・・・。
「うん、そうだね、イザベラの為でもあるのかな?」
「えっ?」
慌てて、ライルのすぐ横に寄り添って座っているイザベラさん(もう髪を染めるのを止めているし、ガリアの王女という本当の素性も教えてくれたんだ)の反応を覗ったんだけど、ライルの言葉に全く驚いた様子も無かったんだ。ボク以上にお嬢様だったと思ったんだけど、本当に強くなったな、アナベラ先輩は。
「正直に言うとね、今回の事は、僕がイザベラに迷惑をかけているんだけどね」
「どう言う事?」
「ジョゼットなら分かるかな? 僕はこれから、本当の自分と向き合う事に決めたんだよ」
「・・・」
それは、ボクには分かりすぎる話だったけど、それがライルと全く結び付かないんだ。ボクが思い付くのは、精々ライルが実は”あの”モーランドの実子という可能性位だけど、それなら別の道がある筈なのに。
「スティン兄は、ライルのお父さんは何て言ってるの!」
「父様、うん、陛下はまだ知らないよ。これから僕は自分の決意を告げに王都に行くんだ!」
「あっ!」
ライルはそう言って、そのまま居間を出て行っちゃったんだ。この展開が信じられないボクを落ち着かせてくれたのは、イザベラさんだった。
「タバサちゃん、いいえ、ジョゼット。落ち着いたら、ソローニュに来なさい、歓迎するからね?」
「イザベラさん」
優しくボクの髪を撫でてくれたイザベラさんも部屋を出て行ってしまった。ボクは自分が、自分だけが取り残されてしまったと感じて、その場から動けなくなっちゃったんだ。
「酷いよ、そんな事言われたら、ボクはどうすれば良いのか分からなくなっちゃうよ!」
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魔法学院の方は新学期が始まったんだけど、ボクはあまり学院の方には顔を出さなくなったんだ。元々、学院には色々なメイジが使う様々な魔法の構成を覚えると言うのが目的で通っていたんだから、目的は大体達成したと思ったからだよ。それでも、同級生達の顔を見るためだけに月に一度は顔だけは出したんだけどね。
それで、ボクが何をやっていたかと言えば、勿論、セレナ師匠達と一緒に国内を転々としていたんだ。住所不定とかいう意味じゃなく、謎の召喚現象の研究に同行していたんだ。そして、同じく同行者には何故かルイズとルイズの使い魔のアキトも含まれるんだ。(勿論、ボクの使い魔ミコトも一緒だけどね)
どうして、この2人が同行しているかと言えば、2人が”皇帝殺し”として最強のコンビと目されているのと同時に、ルイズもボクと同じ様な力が使えるからなんだ。ルイズ本人は解呪(ディスペル)と呼んでいるけど、魔法の効果を相殺する事が出来る事には変わりが無いね。
ルイズの解呪(ディスペル)はどちらかと言えば力技で、ガサツなルイズにはぴったりだと思うよ。ルイズは学院では猫を被っていたみたいなんだけど、野外での生活に慣れているんだ。野外活動の多い兵団の警備隊の人達と交じっていても違和感が無いくらいにね。(この方面だと、ボクやアキトの方が足手まといだったりするんだ)
召喚現象の方に話を戻すけど、魔法探知の感度と言う面ではボクは飛び抜けたメイジらしいよ、実感は無いけどね。ノリス兄辺りならボクと同じものが見えるかも知れないけど、普通に歩いていて召喚現象を察知出来るのはボクだけかも知れない。
===
「副隊長、あの森辺りに、魔力が感じられます」
「そう、こんな町の近くでね?。召喚されているのは小物かしら?」
「いいや、かなり昔の記憶だが、大蛸が現れた事があるらしぞ」
ボクが魔力を探知すると、隊長が調べてあった過去の記録からそれらしい物を探り出すという感じで話が始まるんだ。大蛸と言われて思い付くのは、屋敷で出される蛸のマリネ辺りなんだよね? 独特の歯ごたえがあって、意外といけるんだよ、スティン兄はタコヤキと言うのが好きらしけど、専用の道具が必要なのでボクは食べた事がないよ?
「こんな内陸で蛸ね?」
「ああ、お陰で特に害は無かったらしい、というか、丁度飢饉があって、良い食料になったらしいぞ?」
「あれ? 隊長は蛸が駄目なんですか?」
「俺が小さい頃は蛸なんて食べなかったからな」
「何言ってるんだか、好き嫌いが激しいくせに」
セレナ師匠の言う事は本当で、マルコ隊長は結構好き嫌いが激しいと言うのが隊員の概ねの見解だよ。ボクなんか大抵の物を食べるけどね?
「まあ良いけど、ここのゲートは放置かしら?」
「そうだな、時々食料が湧いて出ると思えば」
「駄目です!」
「どういう事、ルイズ?」
「その大蛸って、クラーケンですよね?」
「ああ、分類的にはそうらいいな」
「クラーケンは大きな個体になると、数百メイルにもなると言われています。確かにこの場所じゃ直ぐに死んでしまうでしょうけど、”近く”に人が居れば惨事になりかねません!」
ルイズは、ガサツなのにこう言った知識は豊富なんだよね、アキトに言わせるとこの辺りのアンバランスさがルイズの魅力なんだってさ!(こう言う時は、”ご馳走様”って言うらしいけど)
そのアキトは、”クラーケンって大王イカじゃ無いんだな、水中で戦うのは論外だとしても、そうだな、感電させるとか良さそうだな”とか、妙な事を言っているけど、アキトも何処か変だと思う。
「そうか・・・、別に食料に困っている訳でもないから、余計なリスクは避けた方が良いな」
「それなら、私が!」
「「ルイズ・・・」」
その場の隊員の声がルイズに非難の声を集中させたんだ。それは仕方が無いと思うよ、1月前に同じ様にはじめてみるゲートをルイズが沈静化させようとして、”ちょっと間違って”召喚を制御する”部分”だけど消してしまって”ノッカー”という妖精さん?達を大量に呼び込んでしまった事があったんだよ!
別に害を及ぼすような存在じゃ無かったけど(そうじゃなかったら、隊長はルイズに任せたりはしないよ)、放置出来ないから全員集めるのに苦労したんだよね。そんな訳でルイズがゲートを沈静化するのは、ボクが解析を終えたゲートか、ボクでも対応が難しい様な大物だけに決まっているんだ。(本人が懲りていないのが、一番問題だと思うけどね)
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