第45話 ナポレオンちゃん?
「何これ?」
「うわ、目がチカチカするな」
その部屋を一言で表現すると、少女趣味なのかも知れないね。色んな所にピンクが使われていて、少女!?のボクでもちょっと引く位だよ? そして、ピンクの部屋のピンクのベッドにピンクのパジャマを着た女の子が眠っているのが見えたんだ。
「誰です!」
「すみませんが、ここはどなたの部屋ですか?」
「勝手に入って来てなんですか!」
「すみません、ボク、私はえっと、タバサ・ド・マーニュと言います」
「ガリアの者ですか?」
「いいえ、あの、トリステインのシガナイ男爵家の娘ですけど・・・」
「男爵家の者程度が、ゲルマニア皇帝ナポレオン様の・・・」
気の強そうな女官の女性は、そこまで喋っていきなりくたっと倒れてしまったんだよね。コルネリウスさんが後ろでスリープを唱えているのは気付いていたんだけど、もう少し情報を聞き出したかったかな?
「コルネリウスさん?」
「こう言う人間はな、自分の都合でしか話を進めないからな!」
「ボクも、こう言うタイプの人って苦手です。行儀作法を教えてくれた女性もそうでした」
妙な所で同意出来るものだよね。だけど、この女の子(11,2歳に見えるけど、暗めのブロンドの髪で、肌は驚く位白いね)がナポレオンなのかな?
「ナポレオン1世って女の子だったんですか?」
「いや、それは無いな。あまり人前には出ないらしいが、俺と同世代の男なのは確かだ・・・」
「どうしよう?」
「うむ?」
ボク達が悩んでいると、いきなりナポレオンちゃん?目を覚ましちゃったんだ。だけど、どうも様子が変なんだよね。それに、ナポレオンちゃんを見てコルネリウスさんが息を飲んだのが分かったんだよ。
「!?」
「コルネリウスさん、どうかしたんですか?」
「お嬢さん、名前を教えてくれるかな?」
「我が名は、ナポレオン、ナポレオン・ボナパルト、本当のゲルマニアの皇帝なり・・・」
「くっ、ここまで・・・」
感情がこもっていない、何と言うか平坦な声で答えた?ナポレオンちゃんだったけど、対するコルネリウスさんの反応は、悲しげだった。
「こんな所で、何やっているのかしら?」
「あ、クリシャルナさん。あっちはもう良いんですか?」
「ええ、逃げてくれたわよ。一応、精霊とシルフィードに追跡させているけど、まあ、問題は無いでしょうね」
知らない間に、クリシャルナさんも追いついてきたらしいけど、ボク達は何をしているんだろうね?
「クリシャルナ、この娘を診てくれ」
「あら、可愛いお嬢さんね、誰の娘さんなの?」
「・・・、精神に作用する毒があるだろう?」
「なっ、そう言う事ね。全く、情報の出所は想像が付くけど、困ったものね」
「非常事態だったからな、責めないでくれ」
「妹みたいな女の子の為だっけ、貴方も男なのね?」
「放っておけ、それより!」
「はいはい・・・」
軽い感じでクリシャルナさんが、ナポレオンちゃんの診察を始めたんだけど、その表情が段々厳しくなってきたから、事態は意外と深刻な事が分かったんだ。そうじゃなくても、されるがままになっているナポレオンちゃんはどう見ても普通じゃないんだよね。
「どうなんだ?」
「テフネスも何を考えているんだか・・・」
「治らないのか、この娘は?」
「うーん、正常な状態にする事は、多分可能だと思うわ」
「良かったね?」
「そうだな、何が問題なんだ?」
「この毒薬はね、私達エルフの罪人に使う物なの」
「罪人!」
そんな物をこんな小さい(身長はボクとそれほど変わらないから、か弱い?)子供に使うなんて!
「それで、どんな効果が出るんだ?」
「時を止めると言われているけど、実際には精神に作用して、思考力を低下させるそうよ?」
「そうか・・・」
「どう言う事?」
「”時を止める”と言って分からない? この毒を飲まされるとね、解毒剤を飲まされるまで、何年も考える事も出来ないの、そう、何十年、何百年もね・・・」
「そんな、人間なら寿命が来ちゃうよ!」
「そうね、でもエルフなら百年位すぐよ?」
「じゃあ、この女の子も?」
「さあ、二百歳位に見えるけど、もっと小さい頃に・・・」
そこはエルフの基準で考えちゃ駄目だと思うよ? でも、何故そんな事を!
「奴には自分の言う事を聞く人形の様な、”皇帝”が必要だったんだろうよ。息子と反りが合わなかったらしいからな」
「そんな!」
「他人を信用出来ない人間だったんだろうな、これは辺境伯の受け売りだがな」
「まあ、人間の事情は置いておくけど、この子どうするの?」
「何としても治療してくれ!」
「えっと、どうしたの?」
意外に激しい感情が篭った言葉に少しだけビックリしちゃったよ。
「敵側の子供でしょうに、コルネリウスにとっては遠い親戚かも知れないけど。刑罰に使う毒なんだから、解毒薬なんて簡単には手に入らないわよ?」
「いいや、見て分かったよ。この子は姉の小さい頃にそっくりだからな」
「そう・・・、人間も結構面倒なのね」
コルネリウスさんのお姉さんは、他家に嫁いで生きているって聞いたけど、生かされていたのはこれが理由だったのかも知れない。そしてこのナポレオンちゃんも、ボクと同じで陽の当たる場所では生きていけなかったのかな?
クリシャルナさんはとりあえず、スティン兄と連絡を取ることにしたみたいだった。ミコトが調整したマジックアイテムを取り出して交信を始めたクリシャルナさんを眺めながら、どうしても暗い気持ちになっちゃうボクだったんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます