第44話 ゲルマニア宰相の最期

「マテウス・フォン・クルーク!」


 あーあ、奇襲出来そうだったのにね? この老人がゲルマニア宰相なんだろうけど、すぐそこで銃撃戦があったり、扉がこっそり開けられたのに気付きもせず、書類整理をしている所を見ると、耳が不自由だったりするのかな?


「今日の仕事は先程ので終わりと言っていなかったか?」


「何を!」


 うーん、聞こえているけど、耳に入っていないのかな? あ、コルネリウスさんの背中が泣いているよ!


「ふざけるな!」


 そう叫んだ声と同時に、突風が老人の机に吹き付けたんだ。あんまり威力が無い魔法だったけど、とりあえず気付いてもらえたみたいだよ?


「ゲルマニア宰相、マテウス・フォン・クルーク! 貴様の命をもらいに来たぞ!」


「ディータでは無いな、誰だ?」


「俺の顔を見忘れたか? 父の仇、母の仇、一族の仇と言っても貴様には分からないだろうな?」


 かなり色々な所で恨みをかっているんだって、本当かどうかは知らないんだけど。


「ふむ、コルネリウス・フォン・ブラウンシュワイクか。色々動いていたのは知っていたが、まさかここまで来るとはな・・・」


「分かっているだろうが、この宮殿は制圧させてもらった!」


「ふん、役に立たない奴等だな。しかも裏切り者まで居るらしい、折角居城を移してもこうも筒抜けとはな」


 ゲルマニア宰相の顔がしかめられて、顔に深い皺がよったんだ。ただその目はコルネリウスさんを忌々しそうに見ているんだけどね。


「貴様に言わせれば、俺なんかは裏切り者の上に愚か者なのだろうな。だがな、俺は貴様にそう思われる事を誇りに思うよ」


「何だと!」


「貴様には理解出来ないだろうな、こんな陰気臭い場所に篭っていないで偶には外の空気でも吸っていればこんな事には成らなかっただろうな」


 ゲルマニア宰相の表情が怪訝そうな物から怒りへと変化したけど、プライド高そうだから仕方が無いかもね。でも、裏切り者と呼ばれる事を誇りに思うって妙な考えだと思うよ、この辺りはやっぱりスティン兄の友人だからなのかな?


「この国に他国の軍隊など招き入れて、どうなるか分からないのは恥ずべきだと思うがな?」


「そう思う辺りが貴様の限界なのだろうな」


「ガリアなどがこの国の民に何をするか想像出来ない訳でもあるまいに!」


「ガリアが攻め込んできたらか、確かに想像したくないな」


「貴様何を企んでいる!」


「さあ?、企んでいるのは俺じゃないがね」


 コルネリウスさん、それは胸を張って言う台詞じゃないと思うんだけど? 時間を稼ぐと言うのは計画通りだけど、逃げ道を塞ぐ為にこっそり移動しているテッサも呆れ気味だよ!


「そうか・・・、お前を皇帝にしておけば良かったな」


「貴様からそう言われるとは思わなかったが、昔の俺が皇帝になっていたら、ナポレオンより性質が悪かっただろうな。時間稼ぎは終わったぞ、逃げなくて良かったのか?」


「・・・」


 そう言われて、もう1つの扉の方へ視線を向けた宰相さんだったけど、そこにはもうテッサが居たんだ。そして、コルネリウスさんに視線を戻すと同時に杖を構え、コルネリウスさんも同時に呪文を唱え始めた。2人が選んだのはどう言う偶然か土のラインスペルの大地の鉾(アースグレイブ)だったんだ。

 呪文の構成や威力では、コルネリウスさんの方が上っぽいけど、同時に唱え始めれば完成するのもほぼ同時と言うのが、系統魔法の欠点なんだよね。他から妨害が入らなけば、相打ちだったんだろうけど、この時の為にボクはここに来たんだ!


「ぐふっ!」


 左下腹部から胸を岩の刃に貫かれて、苦痛のうめきをあげたのは宰相さんだけだったんだ。ボクの役目は、コルネリウスさんを守る事だったからね。一対一の戦いで、土以外の傷があると色々面倒だから、テッサも手を出さなかったんだ。(また、ボクは日陰の存在だと言う事を思い出しちゃったよ、落ち込むね)


「わ、私のナポレオン、私の夢・・・」


 宰相さんの最後の言葉はこれだったんだ。テッサの方に顔を向けて手を伸ばしたまま、息を引き取ったみたいだ。今のはどういう意味なんだろう? テッサの方に顔を向けると、当然だけどフルフルと首を振るだけなんだよね。


「タバサ、手間をかけたな」


「いいえ、私はこの為に来たのですから、でも何でタバサなのですか?」


「あ、いや、キュルケがタバサタバサ言うからそっちの方が分かりやすいんだ、すまんな」


「いえ、どちらもボクですから、それより、あの隠し扉って?」


「ああ、何だろうな? 隠し通路でナポレオンの所につながっているとか無さそうなんだが」


 そうなんだよね、隠し扉があって人が密かに出入りしているのは分かっていたんだけど、何の目的の扉かまでは分からなかったんだ。ゲルマニア皇帝の居室や謁見の間は離れた所にちゃんとあるし、なんの扉なんだろう?


「テッサ、この宰相さんを楽にしてあげて?」


「ええ、任せて」


「コルネリウスさん、ボクが先に行きます!」


 さっさと扉を開けようとするコルネリウスさんを止めて、ボクが先に隠し扉をくぐる事にしたんだ。そこに兵士が隠れているとかは無さそうだけど、一応ね? 細い通路を抜けるとまた扉があったんだ。中からは人の気配がするけど、殺気とかは無いね。


「開けるよ?」


「ああ」


”キィー”


 周りが静かな為か、耳障りな音を出しながら扉は開いたんだけど、扉の向こうは”ピンク”だったんだよね。

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