第43話 ピンホールショット

 特殊部隊の動きは、本当に迅速だったんだ。念の為に、盾を構えて何とかと言うゲルマニアの宮殿に急降下したんだけど、普通にレビテーションでゆっくり降下しても問題なかったみたいだったよ?


 このシャルなんとか宮殿は結構広いんだけど、200人弱の特殊部隊のメンバーで制圧するのに大した時間がかからなかったと言うのはちょっと信じられない話だよね? トリスタニアの王城には、何回か行った事があるけど、警備兵だけで200人以下と言うのは考えられないと思うんだ。


「うーん、ちょっと手際が良すぎないかな?」


「そうね、何かあって人手が足りないのかも」


「クリシャルナさん、どう思います?」


「これ位が普通じゃないかしら? 警備の兵は宮殿の外部からの侵入を警戒するのが仕事だしね。宮殿内を警備兵が頻繁に行ったり来たりじゃ、落ち着かないでしょ」


「でも、こんなに上空から簡単に侵入出来て良いのかな?」


「まあ、トリステインの王城ならそう簡単では無いでしょうけどね?」


「どういうことですか?」


「テッサちゃんも知っていると思うけど、あそこは上空からの侵入には神経質だからね」


「そうでした、この子で近付いたというか、近付こうとしただけで魔法衛士隊に詰問を受けましたね、そういえば」


「ふーん」


「多分ゲルマニアの警戒網に引っかからなくって、この宮殿の見張りさえ潰してしまえば、やりたい放題でしょうね。まあ、特殊部隊の手際が良いのは事実だけどね」


 エルフのクリシャルナさんも認めるその宮殿制圧の方法なんだけど、すっごく地味なんだよね。1チーム5人のメイジが侵入した部屋を中心に周囲の部屋を順番に制圧して行くんだけど、使うのはコモンマジックと身体だけなんだよね。

 手順としては、対象の部屋の気配を探って、5人以下の人間しか居なければ同時に魔法で眠らせる、5人以上ならば扉を魔法で開かなくしておいて隣のチームと協力して制圧するんだ。基本的に手荒な場面では魔法で防音してしまうから、物音が外に漏れる事が無いし、宮殿内は密やかにそして確実に制圧されていったんだよね。


「なんであんなに簡単に眠らされるんだろう?」


「えっ?」


「油断しているとスリープにはかかり易いし、魔法自体の精度が高いのは分かるんだけど」


「あのね、ジョゼット、普通の人間は壁越しに気配を察したり、何時もマジックディテクトを唱えていたりしないのよ?」


「そうだったね、ボクには普通だったから気付かなかったよ」


 気配の探り方とかは最近覚えたんだけど、マジックディテクトの方はボクにとってこれが普通の状態だからね?


===


「さて、そろそろ行きましょうか?」


「はい!」


「おい、クリシャルナ!」


 コルネリウスさんが慌てて扉を開けようとしているクリシャルナさんに注意したけど、そんな大きな声を出したら逆に侵入者が居る事を知らせる様な物だとおもうんだけど?(まあ、部屋の中からは明確な”殺気”が感じられるからそんな心配は無意味なんだけけどね)


 クリシャルナさんが開けた両開きの大きな扉の向こうに見たのは、銃口、それも4丁! 反射的に飛び出して銃を構えた兵士4人と指揮官らしい人物にリボルバーで銃弾を打ち込んだんだけど、死ぬかと思ったよ!


「ジョゼット、無茶をしては駄目よ?」


「あ、ありがとう、クリシャルナさん」


 うん、自分の目が信じられないけど、ボクのリボルバーから放たれた銃弾は、銃を撃とうとしていた4人の兵士の肩を捉え、もう1発は”ボクの額”に命中する直前でクリシャルナさんの左手に弾かれたんだ。(訳が分からないよね?)


「カウンター」


「これが?」


 後ろから、コルネリウスさんとテッサの声が聞こえた。そうか、これがエルフの先住魔法なんだ、警告されていたんだけど、実際に目に見てその怖さが分かる。あの指揮官を狙ったボクの銃弾が跳ね返されて、ボクに当たりそうになったのを、クリシャルナさんが庇ってくれたんだ。

 クリシャルナさんが弾き返した銃弾は、前の壁に当たったみたいだ、一応身体強化も効いているし、テッサがシールドを張ってくれているのは分かっていたけど、当たり所が悪ければどうなっていたか、考えたくないね・・・。


「お陰で、誰がエルフなのか分かったけどね」


「くっ!」


 クリシャルナさんが軽く何かを投げつけると、指揮官の男性の姿が変わっていたんだ。さっきまでは普通のゲルマニア人に見えたのに、今はエルフの男性にしか見えない。ボクが驚いたのは、エルフの男性にしろクリシャルナさんにしろ全く魔力を感じなかった事なんだ。

 ボクはメイジの中なら結構強いと思っていたんだけど、どうも勘違いしていたみたいだ。にこやかにエルフの男性に笑いかけるクリシャルナさんの何時もの笑顔が少しだけ怖くなっちゃったんだ。


「へぇ、貴方だったの、ゼジル坊や?」


「やっぱり、あんたが来たんだな・・・」


「貴方のお父様も大変ね、私がこの事を、”テフネス”に知らせたらどうなるかしら?」


「・・・」


「コルネリウス、先に行きなさい!」


「しかし!」


「私がこの坊やに負けるとでも?」


 クリシャルナさんがこんな風に言った時に、銃声と爆発音がほぼ同時に部屋というか、広間?謁見室?に響いたんだ。ボクに肩を撃たれたゲルマニア兵がこっそりクリシャルナを銃で撃って、多分その弾丸が撃った銃口にそのまま跳ね返されたんだと思うよ?


 右肩を撃たれ、左腕を血だらけにしたゲルマニア兵を一瞥して、クリシャルナはもう一度言ったんだ。


「分かったでしょう、貴方達のすべき事をしなさい」


「分かった!」


 その言葉にはボクより少しだけ年上にしか見えない(様に見える)少女の言葉とは思えない威厳みたいな物が感じられたんだ。確かに、エルフとして(精霊使いって言うんだったかな?)の格はゼジルというエルフとは比べ物にならないみたいだ。(それと、ボクよりかなり年上に見えるエルフの男性を”坊や”と呼んでしまうクリシャルナさんも別の意味で怖いよね?)


「コルネリウスさん、行きましょう」


「あ、ああ」


「その右の扉だっけ、テッサ?」


「ええ、そこに”宰相”が居る可能性が高いって」


「開けるよ、コルネリウスさんは少し下がって」


 コルネリウスさんが少し下がったのを確認して、ボクはゆっくりと扉を開けたんだ。予想通り、奇襲は無かったけどそれ以外の反応も無かったのは拍子抜けだったかな? 注意しながら部屋の中を覗くと、ランプとライトの魔法の光を頼りに、1人の老人が、何か書類の整理をしているのが見て取れた。


「あれ?」


「どうしたの?」


「ちょっと変な感じなんだ」


 ボクの上から、テッサが室内を覗き込んだんだけど、下から見ても奇妙な表情をしたのが分かったよ。テッサとここまで近くで触れ合うのも久しぶりだなとか考えていたら、感じた違和感の正体が分かっちゃたんだ。


「テッサ、父様の執務室を思い出さない?」


「あ、うん、そうかも」


 この部屋の印象は、父様の執務室に似ているんだよね。よく夕食の時間になっても仕事を続けていて、ボクとテッサが2人で呼びに行ったんだ。さすがにウチの執務室よりかなり大きいけど、書類が一杯で、機能性重視というか地味と言うかその辺りも似ているかも?


「もう良いな?」


「あっ!」


 そう言って、コルネリウスさんが私達を押し抜けるように、中に入っていってしまったんだ。

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