第41話 新しい道
そして、ミコトは実際にボクへの信頼を態度で示してくれたんだ。何があったかは分からないけど、あの女性の香りがする石鹸と、新しい”力”を手に入れてね。この時だったんだ、ボクがルイズを嫌っていた理由が分かったのは。
認めるのは癪だけど、ボクはルイズが羨ましかったんだと思う。言い方を変えると、ボクにとってはルイズは眩しい存在だったんだ。理由はちょっとあれだけど、ルイズは自分で強くなる事を選択して、そして選択し続けている。一方のボクは、うん、自分では選んでいる積りだったけど、未だに色々な人に支えられているんだった。
メイジ殺しになると言う事だって、スティン兄が示してくれた道でしかないし、心の何処かでそれが自分に向いているとは思っていなかったんだ。そんな中途半端なボクの前に、ミコトが現れたんだ、”弱いのに、何処かとても強い”ボクの使い魔がね。
ミコトは自分の”忌むべき力”をいとも簡単に捨てて見せてくれたんだよね。そして、それを後悔もせず、その上”新しい力”まで手に入れてしまったんだ。ミコトもボクにとっては眩しい存在だけど、その明るさはボクが”道”を探す為に必要な明るさなんだと思う。
ルイズにはあのアキトいう男性が必要だった様に、ボクにはミコトという女性が必要だったんだ。でも、そんなに都合良く”新しい道”なんて見付かる筈も無かった。ボクは道を探しながら、今まで通りに動かされるしかなかったんだよね。
だけど、意外な所から”新しい道”が見付かる事になったんだ。また、あの女性に助けられる事になちゃったんだけどね。
「ジョゼット、久しぶりね」
こう声をかけた来たのは、セレナ師匠だったんだけど、ボクには最初それが誰か分からなかったんだ。その場所がもう直ぐ始まるゲルマニアとの戦争で重要な役目を果たす”特殊部隊”との顔合わせの場所で、”空軍”の飛行場という施設だったからと言うのも理由なんだけど、もう1つ決定的な違いがあったんだ。
「本当に、師匠なんですか?」
「あら? そんなに変わったかしら、それともう、貴女の師匠では無いと言った筈よ」
「済みません、でも師匠は師匠です。それと、本当に見違えました」
「そうかしら、自分では分からないんだけどね」
「いいえ、すっごく綺麗になりましたよ」
特に根拠は無いんだけど、あんな別れ方をしたんだから、少しだけ苦労するんじゃないかと思っていたんだけど、こんな予感は外れて良かったよね。
「貴女もお世辞を言う様になったのね、成長したわ・・・ね?」
「なんで、疑問形なんですか?」
そりゃあ、色々女性としても大人としても足りないけど、中身はちゃんと成長してるんだよ!
「言って欲しい?」
「いいです・・・」
「あの人に紹介しようと思ったんだけど、何処に行ったのかしらね」
「あの人ですか?」
「そう、空軍特殊部隊の隊長で、私の唯一の上司で、その、私の愛する旦那様」
「わぁ、セレナ師匠、結婚したんですね、おめでとうございます!」
そうか、それでこんなに綺麗に、おまけに戦闘技術も上がっている様に感じられたんだよね。これは、セレナ師匠の腕が上がった事と、ボクの腕も上がったから実感できたんだろうね。
セレナ師匠の旦那様(マルコ隊長だよ?)は、セレナ師匠よりかなり年上で、一見あまり優秀だとか、強そうとかは見えなかったんだ。ただ、年長者らしい気配りと、長い間実戦を切り抜けてきた自信、そして作戦を成功させようとする意志は、中々の物だったと思う。
でも、1人の犠牲者も出さないとか言っちゃう辺り、苦労が多いんだろうね。この辺りはスティン兄にも通じる所があるのかも知れないね。逆に部隊員からの信頼は絶大と言えるのかも知れないけどね。
遅れてやってきたルイズとアキトも、意外とすんなりとこの特殊部隊に溶け込むことが出来たと思う。どう言う訳か、仲が悪かった2人の間に変化が生まれたみたいだった。何時に無く機嫌の良いルイズは笑顔でいれば、確か可愛かったと思う。ボクはテッサもミコトも居ないから1人で居たんだけど、そこにセレナ師匠がやってきたんだ。
「どうだった、あの人は?」
「えーっと、ちょっと年上過ぎませんか?」
「まあ、そうかもね」
「師匠と、ノリス兄の方がお似合いだと思っていたんですよ」
思ったままを言ったんだけど、その時のセレナ師匠の表情は、何故か絶望しているみたいに見えたんだ。だけどセレナ師匠は頭を一度振るだけで感情をコントロールしちゃったんだ。ああ、ノリス兄は今ボクがここに居る事は勿論知らないよ、知ったらどんな事になるか考えてくないしね。父様もいい歳だから、本気で次期公爵としての教育に忙しいらしいよ。
「ジョゼット、貴女にちょっと頼みたいことがあるんだけど、聞いてくれるかしら?」
「何でしょう、師匠の頼みなら、大抵の事はききますよ? 何だったら、父様にお願いしますし」
「そう言う話なら、スティンに話を通した方が早いと思わない?」
「それじゃあ、ボク個人への頼みなんですか、師匠が?」
「ええ、スティンに話を通したんだけど、あまり良い感触じゃなかったからね」
「そうですか、どんな頼みなんですか?」
「貴女は亜人、じゃなかった、鬼をどう思う?」
随分と抽象的な聞き方だよね? ”亜人”という呼び方は差別に当たると言う事であまり使われなくなっているんだよ、逆に”鬼”という呼び方は人間に仇なす危険な存在という感じで使われる事が多いね。セレナ師匠が”鬼”をどう思うかなんて聞いているんだから、勿論、鬼を退治する事をボクがどう感じているのか聞いているんだよね?
「退治されるべき存在だと思います。でも・・・」
「そう、やっぱりね」
「あの?」
メイジ殺しとして修行を続けてきて、人を殺めた事もあるボクがこれを言うのはおかしいと思うんだけど、多分、この答えがセレナ師匠の望んだ物だし、ボクの実感でもあるんだよね。
「”鬼”がどうして絶滅しないか知っている?」
「?」
「聞いていないみたいね、鬼達はね何処からか”召喚”されて来るの」
セレナ師匠の言った事は最初はピンと来なかったんだ、でも考えてみればオグル鬼なんかが兵団に見付からず繁殖を続けているなんて有り得ないんだろうね。この国も昔と違って、狭くなったって聞く事も多くなった位だから。でも、召喚、召喚ね??
「誰かが、何かの目的でサモン・サーヴァントを?」
「違うわね、現場を”視て”いたけどメイジも居なければ、召喚された鬼も2体だった事もあったもの」
「どういう事ですか?」
「さあ、難しい事を考えるのは得意じゃないしね」
セレナ師匠の意見には同感だね、そういう面倒な事は向いている人に任せるにかぎるんだ。料理とか洗濯とかね!
「ただし、あの現象はサモン・サーヴァントに似ているの、時間をかけて魔力を溜めて召喚のゲートを開くと言った感じかしら?」
「はい?」
「分からない? あの勝手に開くゲートに干渉出来たらどうなると思う?」
「!!」
「下手に干渉すると、逆に何かを呼び出しちゃうかもしれないのよね?」
「・・・」
あー、ここは突っ込んじゃ駄目みたいだ、もしかしたら・・・?
「分かるわよね?」
「はい、ボクの魔法なら!」
「そう、やってみない?」
「やります、やらせてください!」
「貴女ならそう言ってくれると思ったわ。公爵様には、後でスティンから話をするって言ってたけど?」
「いいえ、この話はボクが進めます、師匠!」
この新しい道は、ボク自身が切り開くんだ。スティン兄なら、戦争が終わった後で話を進めるとか考えているんだろうね。目の前の事に集中させたいんだろうけど、本当にボクの家族達って過保護だね。でも、ここからはボクが決める事だよ!
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