第39話 躾

 とりあえず、ライルに相談して、守護者の何人かでミコトを捜索してくれる事になったんだけど、ボク自身も当然探し回る事にしたんだ。ライルは自分の部屋で待っている様にって言っていたけど、ミコトは”ボクの使い魔”なんだ、他人任せには出来ないよ。

 でも何処を探したら良いかなんて思いつかなかったんだよね。こんな時テッサが居てくれたらと思ったんだけど、こんなんじゃ駄目だよね? テッサは本当に必要な時はボクの所へ戻ってい来るって言っていたんだから、信じなきゃ。


「すみません、ミコトを見かけませんでしたか?」


「どなたですか?」


 とりあえず通りかかったメイドさんに聞いてみたんだけど、直ぐには名前が通じなかったんだ。あまり外へ出ないから当然だと思ったんだけど、ボクの使い魔の女の子(女性とか言ったら上手く伝わらない気がしたんだ)と聞いたら意外と簡単に答えが返って来たんだよ。


「ああ、あの方ですか」


「何処で見かけたんですか?」


「あ、いえ、午前中にお洗濯をご一緒したんですよ」


「洗濯?」


「はい、目が不自由な割には、良く働く方ですね?」


「はぁ?」


「昨日は昼食を届けに行った者が、学院内を案内させられたと言っていましたし」


 当然の様にそんな事をメイドさんが言ったんだけど、ボクはどうも釈然としなかったんだ。だって、目の見えない人間が全く知らない場所に連れて来られて、翌日から出歩くなんて思わないよね? それに、ミコトにはまた目が見える様になるかも知れないという話もしたんだ、今無理をする理由なんて無い筈なのに。


 ボクは納得が行かないままに、自分の部屋に戻る事にしたんだ。多分ボクの勘が、そう告げていたんだと思うんだけど、思ったとおりミコトは何も無かったかの様に、部屋に戻っていたんだ。


「ミコト! 何処に行ってたの!」


「え? 何処って?」


「えっと、見れば分かるけど、どうしてそんな無茶をするの?」


 ミコトは、ベッドに上で洗濯物を畳んでいるんだから、聞くまでも無い話だったけど、聞かずには居られなかったんだ。だけど、ミコトの返事はボクの予想を裏切る物だったんだ。


「タバサ、いいえ、ジョゼット、ちょっとそこに座りなさい!」


「へぇ?」


「違うの、こう言う時は正座する物なの!」


「せいざ?」


 正座という座り方が、どう言う物かは直ぐに分かったけど、どうしてボクが普通にベッドに腰を降ろしたのが、ミコトに分かったんだろう? そんな疑問を口にする暇も無く、ボクはミコトに説教される事になっちゃったんだ。


「ジョゼット、貴女も女の子でしょう」


「勿論そうだよ!」


「だったら、自分の着替えくらいきちんとしなさい!」


「ふぇ?」


 うん、言われて見れば、確かに昨夜は服を脱いだまま椅子に掛けたままだったかも知れない。


「昨日は疲れているのかと思って大目に見たけど、今日は言わせてもらいます!」


「あれ?」


 その前の晩となると、全然記憶に無いよ。こう言った事は、屋敷なら使用人の誰かが、学院に来てからはテッサがやってくれていたからね。ミコトに、貴族という存在がどう言う物か聞かせたくなったけど、ボクがそれを言うのはおかしいんだよね。

 だって、同じ様に育ったテッサやライルだって自分の事は自分でこなすし、ノリス兄だってその気になれば一通りの事は出来るらしいんだ。もっと言えば、国王になっちゃったスティン兄だって結構器用に何でもこなすらしい。そして、ボクはと言えば、色々悩むことが多くって、そう言った面では全然役に立ちません!(特に最近では、常時身体強化しているせいか、洗濯なんかしたらきっと原型を留めないんじゃないかな?)


「ジョゼットの事情も聞いたから、自分を僕って呼んだり、男の子の格好も責めないけど、女性としての慎みまで失っちゃ駄目!」


「あの?」


「分かるわね?」


「はい・・・」


 どうしてボクは、使い魔に説教されているんだろう? 知らない人が見れば、僕の方が使われている(躾けられている?)みたいだよね?


「でも、でもね、勝手に居なくなるのは止めて欲しいんだ」


「勝手にって、この学院の中から出る積りはなかったけど?」


「そうじゃなくて!」


「ねえ、ジョゼット?」


「・・・何?」


「もしかして、ここって物凄く平和なの?」


「えっ?」


「自分が何処に居て、どうやって逃げれば良いかを気にしなくて良い位、安全なのかっていう意味よ?」


「ミコト?」


「私、目が見えないでしょう? だからね、出来るだけ他の人に迷惑をかけたくないの」


 ミコトの言葉はボクにとって二重の意味で衝撃だったんだ。ボクが頼りにならないと言われたとも取れるけどそれは仕方が無いと思う、それ以上に衝撃的だったのはミコトが生きる事に貪欲だと言う事だったんだ。ミコトの目はきっと見えるようになると思うんだ、母様も絶賛するエルネストさんならなんとかしてくれると確信しているよ。

 それなのに、ミコトは今生き残る事に妥協をしていないんだ、そう、一週間後に目が見えるようになるとしても、明日、いいや、今日死んだら何にもならないとミコトは言っているんだと思うんだ。


「ねえ、ミコトはどうしてそんなに強いの?」


「私が強い?」


「ミコト?」


「私は、自分の事を最も弱い人間だと思っているの、ジョゼットならこの気持ちが分かるんじゃないかしら?」


「・・・」


「私はね、自分が次の”生贄”に決まって、目を潰された時からその日1日を精一杯生きる事にしたの、それが”逃げ”だと分かっていても、そうするしかなかった」


 ミコトが自分の事を自嘲するのを始めて見るけど、どうしてかボクにとってはまるで自分の事の様に感じたんだよね。多分、魔法が”使えなかった”頃の自分を見ている様に感じたからかも知れない。

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