第38話 各種コンプレックス
そして、4発の銃声と、5つの爆発と、1本の火柱で、決闘は再び決着がついたんだ。ボクの拳銃からは4発の弾丸しか出なかった、1発は不発だったんだよ。最近は精度が上がって、不発弾は減っていたからちょっとだけ油断しちゃったけど、残りの1人のミスタ・フェリーは、ミス・ツェルプストーの魔法で焼かれる事になったんだ。
ボクの拳銃を太腿辺りに受けた4人は痛みでうずくまって動けないし、ルイズの”爆発”をくらった5人は脚がありえない方向に曲がっているので、同じく動けない。そして、一番被害が酷いのは、左半身に酷い火傷を負ったミスタ・フェリーだったけど、ミス・モンモランシが手早く治療を始めているから多分大丈夫だと思う。(モンモランシーが何処からか魔法薬を取り出してミスタ・フェリーにぶっかけて治療魔法をかけているので問題無いよ? 魔法薬が身体に悪そうな”赤黒い”色だったり、匂いが”痛い”とかだけど、効果は凄かった)
「ミス・ツェルプストー、助ける積りが助けられちゃったね」
「いいえ、ミス・マーニュ。私の為に戦ってくれたんだもの、これ位当然でしょう?」
そう言って、ミス・ツェルプストーはボクに一礼したんだけど、美人って得だね、頭を下げるだけで様になるんだもの。それに正面から見ると、胸の谷間が! 嗚呼、どうしてこんな不公平が世の中にあるんだろう!
「ルイズ、ミス・ヴァリエールもありがとう」
「ふ、ふん、別にツェルプストーを助ける積りは無かったわ、ただ、同じ貴族として許せなかっただけ!」
「それでも、ありがとうと言わせてもらうわ。それに、ごめんなさいも言わなくてはね」
「貴女に謝られる覚えは無いけど? ご先祖様の悪行を悔いる気になったの?」
「お見舞いに来てくれたのでしょう?」
「ななななに、いって、行ってないわよ!」
うーん、良く分からないけど、真っ赤になって逃げる様に玄関の方へ走って行ってしまった。あのルイズにも可愛いところがあるんだね。
「ミス・ツェルプストー、もしかして、あの治療の時の?」
「ご存知なんですか、ミス・ガイヤール?」
「ええ、大まかにですけど、”あの方”とは子供の頃からの知り合いなのですよ」
「まあ、それならば私の事は、キュルケと呼んでください」
「それならば、私はテッサで構いません」
「ボクは、タバサでいいよ!」
「分かりましたわ、テッサ、タバサ」
「改めてよろしくね、キュルケ」
良い感じで終わりそうになったんだけど、世の中はそんなに綺麗には出来ていないらしかった。
「キャッ」
「ゲルマニアの女なんか、この国から居なくなればいいんだ!」
こんな無茶な事を言い出したのは治療を続けていたモンモランシーを突き飛ばしたミスタ・フェリーだった。だけど、彼は立ち上がる事が出来なかった。ゴーレム(青銅製かな?)にがっちりと肩を抑えられていたからなんだよ?
「もう止したまえ!」
「離せ! これは、君の仕業だな、ミスタ・グラモン?」
「ミス・ツェルプストーを責めるのは筋違いだと自分でも分かっているんだろ?」
「何を!」
「このトリステインを去るべきだったのは、君の叔父上だけで良かったと思わないか?」
「・・・」
「君のお母様だって」
「言うな!」
ミスタ・フェリーは強引にゴーレムの束縛を振り切って、ルイズと同じ様に何処かへ駆け出して行ってしまったんだ。皮がつっぱるのか、まだ、脚を庇いながらだったけどね。
「君達も分かっているんだろう?」
「・・・」
「クラスメイトの女性に酷い事をするなんて、貴族以前に男として相応しくないって事くらい」
残された9人は、黙ったままだったけど、反論する気力は無い様だったね。一応、同級生達が治療をしているんだけど、それにお礼も言えないらしいよ?
「やれやれ、それでは僕が替わりに謝罪する事にしよう。ミス・ツェルプストー、この通りだ、友人達を代表して謝る」
「ミスタ・グラモン!」
グラモン伯爵家と言えば、トリステインでは名門らしいし、父親の伯爵は陸軍の元帥だと言っていたから、その彼がゲルマニア人に頭を下げるのがどう言う事を意味するか考えなかった人間はその場には居なかっただろうね。だけど、本人はそれを無視して深々と頭を下げたんだ。(ちょっと嫌味なくらいかっこいいよね? モンモランシーなんか、目がとろんとしてるよ)
「ミス・ツェルプストー、これからも僕たちの友人で居てくれるかな?」
「ええ、喜んで、ミスタ・グラモン」
その時、始めてボク達は魔法学院の生徒として1つになれたんだと思うんだ。でもね、何故か美味しい所を全部ルイズとミスタ・グラモンに持って行かれた気がしない? みょ???に納得行かないよ!
余談だけど、キュルケがルイズとのいきさつを教えてくれたんだ。キュルケ自身は覚えていないそうなんだけど、ラ・ヴァリエール領のエルネストさんの診療所の近くで治療を受けていたキュルケの所にルイズが”お見舞い”に行ったらしいんだけど、何か結構酷い事を言ってしまったらしい。
それが、ルイズとキュルケのわだかまりだったんだけど、それも今回の事で解消したんだ。とっても不本意なんだけど、昼食の時はボク、テッサ、キュルケ、ルイズで摂る事が多いね。時々、ライルとアナベラさんとロドルフさんやギーシュとモンモランシーとかも一緒に食事する事もあるよ。結構騒がしいけど、楽しい昼食も悪く無いよね?
===
それから数日して、キュルケは例の9人(ミスタ・ロレーヌとかだね)と和解したんだけど、肝心のミスタ・フェリーには”交際を申し込まれた”んだ。どう考えても変な話だよね?
事情は、フェリー男爵家(ちょっと前までは、まずまずの子爵家だったんだって)の前当主のゲルマニアへの内通から始まって、ミスタ・フェリーの母親が母国ゲルマニアに帰っていったという事なんだけど、分かる?
「ミスタ・フェリーは、きっと僕と同じで”マザコン”なんだよ」
「マザコンって?」
「うーん、父様から聞いたんだけど、お母さんの事が恋しい子供の事なんだって」
「ふーん」
「ちなみに、妹が恋しいのは”シスコン”で、小さい女の子が恋しいのが”ロリコン”、小さい男の子が・・・」
「どういしたの?」
「いいや、ノリス叔父さんも”シスコン”だなって」
「うーん、何故かな、微妙に違う気がするんだけど」
何となく、ライルのマザコンと、ミスタ・フェリーのマザコンは違う気がするよ! ノリス兄の場合は、病気だよね?
「ゲルマニア人の女性が気になるのは分かる気がするんだけど、気になる女の子に意地悪するのは分からないよ」
「そうだね、でも、僕には少しだけ分かる気がする」
どうやら、ボクには少年の心と言う物も理解出来ないみたいだね? ボクってもしかして、人間として何か変なのかな?
「ねえ、ライル、ボクってどこか変かな?」
「えーっと、ちょっとね」
ボクの姿を上から下まで眺めた後、視線を逸らしながら、こう答えてくれたんだ。ライルは嘘が付けないと言うのは長所だと思うけど、時には嘘を言って欲しい時もあるんだよ!
ああ、話を戻すけど、当然の様にミスタ・フェリーはキュルケに振られたよ? キュルケには相応しい男性が居るんだから当然と言えば当然なんだけどね。コルネリウスさんの方もキュルケを気にしているからね、コルネリウスさんももてそうだから、結構良いカップルになるんじゃないかな? (ちょっと歳が離れているけど、一回り位なら珍しくも無いんじゃないかな? 父様と母様だってそうだしね)
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ちょっと嫌味に聞こえるかも知れないけど、ボクはこれでも結構女性にもてるんだよ。大抵年上の女性なんだけど、”弟”したいって良く言われるし、うん、告白もされちゃったんだ。キュルケでさえ、時々ボクの頭を撫でながら、”タバサみたいな弟が欲しかった”とか言うんだよね。
彼女達から見れば、ボクは守ってあげたくなる存在らしいんだけど、ボクは守られたいんじゃないんだ! ただ、守りたいと言う気持ちだけは良く理解出来るんだよね、庇護欲とか母性本能とか言われるらしいけどね。
結局、目を付けたキュルケには、ボクも振られちゃった訳だけど何時かはボクが守るのに相応しい人間と何処かで出会えると信じる事にしたんだ。そうだね、女の子としては変な希望かも知れないけど、ずっと守られ続けて来た身としては、うん、誰かを守りたいと思うんだ。(こう見えても、この学院のメイジなら殆どの人間に勝てると思うから、別におかしな話じゃないよね?)
だけど、ボクは”彼女”に会って自分がどれだけ小さな人間か思い知らされる事になったんだ。”彼女”、そうミコトとの出会いは突然だったよ。何 せいきなり斬りつけられたんだからね、多分ボクの同級生が同じ立場だったら怪我じゃ済まなかっただろうね。(ミコトの切先には、明確な殺気が篭っ ていたし、普通の人間なら呼び出した使い魔に斬りつけられるとは思わないだろうからね)
ボクの使い魔のミコトの外見は、小さくて色白で、うん、凄く儚げに見えるよ、特に召喚した当時は目が全く見えなかったからそう見えたのは仕方が 無かったと思うよ。おかっぱの黒髪に何時も閉じられた目がどう言う訳かボクにとって”守るべき存在”に見えたんだ。
但し、ミコトという女性(小柄なボクより更に小柄なんだけど、もう20歳なんだよ、女の子なんて呼べないよね?)は、その見掛けに反してとって も強い女性なのは、数日一緒に暮らして見れば分かる事だったんだ。
あれは、ボクがミコトを召喚して2日後の事だったかな? ミコトは色々あって、かなり疲れた様子だったのでその日も部屋でゆっくり休むように告 げてボクは授業に出たんだ。そして授業から帰ってみると、部屋はもぬけの殻だったんだ。
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