第37話 潰す!

 そんな訳で、暫くミス・ツェルプストーの周辺を探る事にしたんだ。また、えーっと、何とか男爵の息子とかに邪魔されるのは面倒だから、搦め手で行く事にしただけだよ?

 意外でもなかったけど、ミス・ツェルプストーは陰湿なイジメに遭っていたのは直ぐに分かったんだ。ボクとテッサでさりげなくフォローしておいたので、ミス・ツェルプストーの周辺はかなり落ち着いたんだと思う。ただ、ミス・ツェルプストーは何時も1人だと言う状況はなかなか改善しなかったんだけどね。


「ミスタ・フェリーを潰しましょう!」


「テッサってそんなに好戦的だったかな?」


「ライル! テッサが悪いんじゃなくて、そのミスタ・フェリーが悪いんだよ!」


「2人とも、少し落ち着いて、でも、証拠は無いんだろうね」


 陰湿と言うか、女々しい嫌がらせばかりなんだよね、ミス・ツェルプストーの私物を隠したり、妙な噂を流したり(男性と同棲していたとか、ある意味事実だからたちが悪いんだ!)、授業中も平気で嫌がらせをするんだよ!


 協力者も居るから、犯人が分かっていても上手く現場が押さえられないんだよね。特にあの授業中の嫌がらせが、気に入らないんだ。別に”彼ら”が、ミス・ツェルプストーに直接何かやる訳じゃないんだよ、ただ、呪文の練習で杖を振る時とかに故意にミス・ツェルプストーの方に杖を向けるだけなんだ。


 ミス・ツェルプストーは、メイジとしてはおかしな事だけど、杖を怖がるんだよね。授業中に、ちょっとした偶然で杖が目の前に差し出された時に悲鳴をあげてしまったことで、同級生は皆それを知っているんだけど、彼らは分かっていて態とミス・ツェルプストーの視界に杖が入るように振舞ったりするんだ。

 ちなみにミス・ツェルプストーは殆ど自分の杖にも触らないけど、その魔法の腕はテッサと互角以上だよ。そして、ボクにはミス・ツェルプストーが使う魔法の”効率”の良さに驚いちゃったかな? ボクが”見た”感じだと、同じ位の威力のトライアングルスペルを使える回数を比較したら、テッサの倍以上は使えるんじゃないかな。


「ライルが反対しても、もう我慢する積りは無いの。ミスタ・フェリーの境遇には同情出来るけど、一度潰してしまった方が良いと思うわ」


「そうか、事情を知っているテッサがそこまで言うんだね? 分かった、やってみなよ。後の面倒は”守護者”の方で見るから」


「うん、ありがとう。でも何時にしようか?」


「別に何時でも構わないよ、授業中でもね」


「ライル、それって、ボクの同級生にも”守護者”のメンバーが居るって事だよね?」


「ああ、そうだよ。ただ、彼はそう言う事に向かないから、ミス・ツェルプストーを助ける事は出来なかったんだ」


「ふぅ?ん」


「それが誰かと言う話なら、僕からは言えないよ? その事はメンバー以外は知らないんだ、アナベラも知らない」


「そう言う事なら、本人に聞いちゃ駄目なんだね?」


「そうしてくれると、嬉しいかな? 誰なのかは、分かると思うけどね」


 うーん、誰なんだろうね、守護者のメンバーって?


===


 その気になっちゃえば、切欠を作るのは簡単だったんだ。そう、ミスタ・フェリーが、不自然に振る杖にボクの杖を軽く当てるだけなんだからね。授業中には普通にある事なんだけど、メイジ同士が杖を当てると言う行為は、とある意味があるんだから。


「おっと、失礼!」


「ミスタ・フェリーが、ボクと決闘をお望みとは知らなかったよ?」


「何を言っているんだ、ミス・マーニュ?」


「君達授業中だぞ!」


「申し訳ありません、ミスタ。ですが決闘を挑まれて、引き下がっては貴族の誇りが保てませんから!」


 ミス・ツェルプストーに対する嫌がらせでニヤニヤしていたミスタ・フェリーの顔が一瞬強張ったけど、ボクの次の台詞を聞いて、また嫌な感じで歪んだんだ。


「勿論、一対一だよ。どうかな、ミスタ・フェリー?」


「君が、僕の相手だって、本気かい?」


「テッサ、いや、ミス・ガイヤールは手を出さないよ」


「半人前(ハーフ)などが僕の相手になるものか!」


 半人前と呼ばれる事自体は覚悟もしていたし、何とも思わないけど、折角騒ぎを大きくしたのに逃げられるのは避けたかった。(どちらかと言えば、ルイズと一組に扱われて”ダブルハーフ”と呼ばれる方が嫌だったかな?)


「何を言うんだ、フェリーも同じ男爵家だろうに!」


「何だと! 良いだろう、受けて立つ!」


 何故か特に挑発する積りじゃない言葉に反応して、ミスタ・フェリーが決闘を受けてくれたんだ。何やら事情がありそうだけど、今はその時じゃないね。

 ボク達は、そのまま授業を無視して、何とかという広場に移動したんだ。別に名前を覚えるのが面倒だった訳じゃなくて、普通に”決闘広場”で通じるんだ。(学院の憩いの場所の名前としてはどうかと思うけど、最近こう呼ばれるようになったらしいんだ、先輩のライルも理由は知らないらしい)


「本気で決闘をやるのかい? 半人前(ハーフ)じゃ、相手にならないと思うけどね」


「ミスタ・フェリー! 無駄口は止した方が良いよ、自信が無いのが分かるからね?」


「くっ!」


 本気で相手の事を心配している口調じゃないし、それくらい目を見えば分かる。ちなみに1年で習う(ボクにとっては復習かな)コモンマジックだけの成績なら、ボクとルイズがダントツなんだよ。コモンマジックに対する取り組みは他の生徒と比較にならないだろうからね。え?普通の勉強?、そんな事別にいいじゃないか、座学の成績でもルイズは一番だよ?(本当に嫌な娘だよね?)


 ”ミスタ・フェリーとの決闘”自体は、別に大した事は無かったよ。まあ、何と言うか、至近距離の相手に暢気に”ラインスペル”を唱え始めるメイジが居るとは信じられなかったけどね。ボクは杖も腰に戻して、6分程度のスピードでミスタ・フェリーに近付いて、彼の顎に一発入れただけだったよ。(あれだけ無防備に殴られてくれる相手は始めてかも知れない)


「卑怯だぞ、メイジなら魔法を使えよ!」


「えっ?」


 意味不明な文句を言ったのは、ミスタ・フェリーの協力者の生徒だったんだけど、ちゃんと魔法を使っているのにそんな事を言われても困るんだよね。ボクより20サントは大きい男の子が簡単に殴り倒される方が問題だよね?(最近、ちょっと自分の常識が疑わしい時があるんだ)

 ボクが杖をしまった事も彼らには不愉快だったのかも知れないとその後思いついたんだけど、それは、ミスタ・フェリーの魔法の構成が不安定だったのが理由の1つだったんだ。あれに干渉するのはちょっと怖いからね、もしかしたらあの”エア・ハンマー”は失敗したかも知れないと思った位だからね。


 ボクが、消去(イレース)を使わなかったもう1つの理由(どちらかといえばこっちが本命かもね)がどう言う訳かボクの味方になった。うん、意味不明だね? 昏倒している、ミスタ・フェリーの敵討ちの積りか、10人程の同級生達がボクを取り囲んだんだ、この辺りは予想通りだけど、ちょっと人数が多いかな? 拳銃の弾丸は装填済みが5発しかないし、ナイフの方が出血は多いからな?。

 取り囲まれた状態じゃ、さすがに弾込めをしている余裕も無いし、”彼ら”をどう制圧するか悩んでいる所で、理由の方が出しゃばって来ちゃったんだよね。


「止めなさい、貴族が1人を取り囲んで、何をやる積りなの!」


「おお、勇ましいな、もう1人の半人前(ハーフ)が仲間を守る積りの様だぜ」


「2人合わせても、一人前(ドット)にもならないくせに!」


 どうも、頭に血が上っちゃってるらしく、相手がラ・ヴァリエール公爵家の娘で、国王の義妹だという事を忘れているみたいだ。ボクは国王陛下の”実妹”だったりするけど、普通にそんな事は意識しないよ、よく言って”王妃様の旦那さんの妹”かな?(ノリス兄も次期公爵に見えないけど、スティン兄は絶対に王様に見えないしね。こう言ってもスティン兄は泣かないと思うけど)

 ルイズがボクの助太刀に名乗りを上げるとは思わなかったんだ、まさかルイズが守護者とも思えないしね。ルイズが守護者なら、ボクの魔法をディテクトマジックで”見よう”とは思わないだろうし、何故かな?


「ハーフね、何と言って貰っても構わないけど、私に勝ってからにしなさい!」


「おい、ルイズは拙いって!」


「何だよ、学院内の出来事なら、王家だって口出しは出来ないって!」


「おまっ! 止めとけ、俺は知らないからな!」


 えーっと、いきなり1人脱落したよ? 誰だか知らないけど、少しは常識があるみたいだ。どちらかと言えば、学院に影響力を持っているのは、”王家”より”マーニュ男爵家”と言う事になっているんだけどね。この辺りは、認めたくないのかも知れないけど。


「どうする、止めておく?」


「今更、止められるか!」


 ボクの折角の提案を、速攻で蹴ってくれたのは、復活したミスタ・フェリーだった。テッサは一応、ミス・ツェルプストーの護衛に回ってもらっているから、結局2対10は変わらなかったね、弾丸の数と同じ5人仕留めて、ルイズの腕を見せてもらおうかな?

 ルイズの身のこなしを見る限り、体術では互角、武器の使い方ではボクの勝ち、魔法の威力では・・・認めたくは無いけど完敗だろうね。ルイズの爆発の本気の威力はどんな感じかな?

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