第32話 メイジ殺しへの道
翌日から始まったセレナ師匠の修行は、ライルに言わせると運動能力測定という内容だったんだ。走ったり、跳んだり、木剣を振ったり、小石を投げたりと、基礎体力を測る事ばかりだった。分かってはいたんだけど、散々な結果だったんだ。瞬発力は兎も角、体力的にも体格的にも非力な子供そのものだったから。(テッサや、最近大きくなってきたライルが羨ましいく思えたね)
それでも、セレナ師匠は不出来な弟子の情けない様子を見ても失望を顕にしたりはしなかったんだ。今思うと、何だか懐かしそうな表情を浮かべて居たかも知れない。
「師匠、あの、ごめんなさい」
「どうしたの、謝られる様な事されたかしら?」
「いいえ、でも、多分これからきっと色々迷惑かけちゃいますよね」
「ああ、そう言う事? 別に迷惑なんて思わないわよ、立派なお屋敷に住んで、美味しい食事をして、少しだけ働いて、給料をもらえるんだから、これ程良い職場は無いと言っても良いんじゃないかしら?」
「そうなんですか?」
「ええ。そうそう、私の事は義姉だと思ってくれても良いわよ?」
「ぶっ!?」
何故か修行を監視していたノリス兄が何故かいきなり咽たけど、未だに意味が分からないんだよね? (普通にスティン兄の友人なんだから、姉の様に慕って欲しいとしか聞こえなかったよ?)
「うん、師匠、これからもお願いね」
「ええ、大体分かったから明日からは厳しく行くわよ」
そう言ったセレナ師匠の言葉は嘘じゃなかったんだよね。翌日からの修行は本当に厳しかったんだ。ただ、ボクの限界は超えなかったと思う。
最初の頃は、ボクの弱点とも言える持久力の強化の為に屋敷の周りをグルグルと走らされたんだ。(庭師のお爺さんが、”らんにんぐだな、がんばれよ”とか言ってたけど、らんにんぐって何?)
後は、身体を動かす事を目的とした運動を色々したんだ。以前は絶対に許してもらえなかった木登りもこの頃覚えたかな? 障害物だらけの荒地を全力で走らされた事もあったし、縄梯子を使って屋敷の屋根に登ったりもした。泳ぐのを覚えたのもこの頃だったな?。
そう言えば、この頃からノリス兄とセレナ師匠は結構対立する事が多かった気がする。セレナ師匠が何か新しい修行方法を思い付く度に、色々と注文を付けていたんだ。それでも、セレナ師匠は自分の考えを殆ど変えなかったし、ノリス兄は文句を言いながらもボクが怪我をすると直ぐに治療してくれたんだ。
ノリス兄は昔から過保護だったけど、実はテッサもボクに対して過保護だったよ。セレナ師匠がこっそり教えてくれたんだけど、テッサもノリス兄と同じ位の頻度でセレナ師匠の”修行”に文句を言っていたらしい。ただ、テッサの文句はボクと一緒に自分でも実行している物だから、セレナ師匠も受け入れるべきは受け入れたんだよ?
この頃の修行は、大変だったけど、遊びの延長という感じだったからそれなりに面白かった。ボクも自分の身体が思う通りに動くのがとても嬉しかったんだよね。
一方の、ボクの魔法の方なんだけど、こちらはあまり進展しなかったんだ。あまり嬉しくは無かったんだけど、ボクの魔力量は普通じゃ無かった。でもただそれだけだったんだ、大きな魔力を持っていてもそれが他のメイジの魔法を打ち消す事にしか使えないんじゃ、役に立つとは言えないよね?
その自慢の魔力量にしたって、ノリス兄の様なスクエアメイジの魔法を完全には相殺出来ないし、ドットスペルでも相殺し続ければ、魔力切れになるのはボクの方が早かったんだ。ノリス兄が言うには、ノリス兄の魔力量が普通よりかなり多いのと、ボクの魔法が効率的に発動していないのがこの結果を招いているんだって。
数年して、”魔法”の方は殆ど進歩しなかったけど、武術の方は何とか身を守れる程度にはなったんだ。基本は木剣だけど、ナイフや短剣、そして飛び道具としてスリングや短弓を何とか扱える様にまでなった。
例によってセレナ師匠の発案でボク達は亜人退治のに参加したのは、確かスティン兄の結婚式の1月前だったかな? あの時は戦場の雰囲気にのまれて殆ど役に立たなかったんだよね。魔法がまともに使えないから、後方で覚えたばかりの短弓で援護していたんだけど、ドットスペルだったとしても普通に魔法を使った方が明らかに威力があるんだよね。
ボクの矢はコボルドなら刺さって痛がるんだけど、オーク鬼になると刺さるだけで痛がりもしないし、オグル鬼位になると刺さりもしないんだよね。
本当に自分の非力さが嫌になった結果だったんだけど、せめて身体強化の呪文だけでもと思うのは仕方が無いと思う。守られるだけの自分を卒業出来る日は本当に来るのか、まるで暗闇の中を彷徨っている感じだったんだ。
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スティン兄の結婚式には一応参加したけど、出来るだけ目立たない様にする様に言われたのには少し傷付いたけど、ボク達の様な子供の参列者は殆ど居なかったから、”大人しくしていろ”と言われたと思う事にしたんだ。折角の外出の機会だし楽しみたかったしね。新しく義姉になったラ・ヴァリエール公爵家の2人の花嫁姿は、ボクには眩しすぎたんだ。
ボクは自分が多くの人に祝福されて愛する男性と結婚式を挙げるという自分がどうしても想像出来ないんだ。というか、まともに結婚出来るかさえ疑問なんだよね。メイジの出来損ないを喜んで嫁にする貴族の家も無いだろうし、何より、あの”2人”が納得する相手なんて存在するとは思えないんだよね? (テッサは兎も角、ノリス兄はどんな立派な人間を連れて来ても、絶対何か理由をつけて反対すると思うよ)
「綺麗だったね」
「うん・・・」
テッサが珍しくボクの反応を見逃したんだけど、この時きっとテッサは自分の花嫁姿を想像していたんだろうね。テッサの横にどんな男性が立っているかは、大体想像出来るんだけど、ちょっとね?
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久々の王都はそれなりに楽しめたけど、お祭りはやっぱり直ぐに終わってしまう物なんだよね。結局、以前と変わらない修行の日々が再開されたんだ。修行の最中は兎も角、夜1人で眠ろうとするとどうしても、本当にこのままで良いのかなんてどうしようも無い事を考えたりもしちゃった。
そんな中、どういう風の吹き回しなのかスティン兄がひょっこり屋敷に帰ってきたんだ。スティン兄は、何とかと言うマジックアイテムを使って良く父様と話をしているんだけど、直接会う機会はそれ程多くなかったから、先日の結婚式から立て続けというのはちょっとおかしな気がした。
「スティン兄、今回は何をしに来たの?」
「そうだね、勿論仕事だよ。この国の将来の為のね」
「やっぱり、副王様のお仕事って忙しい?」
「うーん、どうかな。忙しいと言えば忙しいけど、何をやっているかと聞かれると困るんだよね」
「ふーん」
「ジョゼットの方こそ修行の調子はどうだい?」
「うーん、自分では良く分からないの、セレナさんに聞いた方が良いかも」
「そうか・・・」
自分の武術の腕がどの程度か全然分からなかったし、魔法の方はね・・・。翌日スティン兄もボクの修行を見ていたけど、渋い表情だったんだ。
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