第31話 師匠!
「テッサ、気付いていた?」
「うん、ライルも?」
「2人とも何の話?」
「ジョゼットは、分からなかった?」
「えっ? 同じ魔法が使われた場合には”打ち消しあう”事があるって本当なんだね」
2つの魔法を同じ場所に使うと、爆発するとか、制御が出来なくなるとか怖い話を聞かされたけど、意外と怖くない物だった。確かに2人分の魔力が無駄になるんだから勿体無いよね?
「うーん、テッサは?」
「どうだろう、打ち消しあうと言うより、かき消された感じかな?」
「そうだね、僕は魔法が食べられたと思う」
「ねえ、2人とも何の話をしてるの!」
「そう言われても、感覚的な物だから、説明し辛いんだ」
「ねえ、ジョゼットはジョゼットが魔法を使う時に、ノリス様がずっとディテクト・マジックを使っていたのを知ってた?」
「え゛?」
「ジョゼットの事だから、じーっと見られて落ち着かないな、とか思ってたんでしょう?」
「うん、ちょっと気持ち悪いなって思ってた」
「そんな事言ったら、ノリス様」
「泣いちゃうね」
「泣いちゃうよ」
「泣いちゃうだろうね」
うん、ボク達がノリス兄に持っているイメージは一致していたみたいだね。その頃のボクにさえ、強くもないお酒を飲んで父様に管を巻いている状況が想像出来ちゃったんだよね。でも、ボクが魔法の練習をしている最中ずっとディテクト・マジックを使いっぱなしにしているのがどれだけ大変な事か当時のボクには理解出来なかったんだ。
「もしかしたら、ジョゼットが魔法を使うと、他のメイジの魔法を妨害出来るのかも知れないね」
「妨害?」
「うん、だけど・・・」
ライルが言い難そうに言葉を濁したんだけど、ボクにはそれが何を意味しているか分からなかった。他のメイジが魔法を使うのを妨害出来ても、それが何にもならないとしか感じられなかったんだよね。
結局その日の魔法の練習はそれで終わってしまったんだけど、夕食の時間になってもノリス兄は部屋に篭ったままだったんだ。翌日も、展開は昨日と同じだったんだ、テッサが色々なコモンマジックをかけて、それをボクが壊すという感じだった。
そして、その翌朝、ボクが起きた頃にはノリス兄はスティン兄に会いに行くと言って屋敷を出て行ってしまっていた。執事のラザールが言うにはあの日から一睡もしていなかったらしいよ?
===
一週間程で、ノリス兄は屋敷に帰って来たんだけど、その後にボクにとっての始めての”師匠”がやって来た。
「ジョゼットちゃん、久しぶりね?」
「えーっと?」
「あらら、やっぱり覚えていないのね、それなら改めて自己紹介するわ。といっても身分としては、ブランブル男爵家の3女でしかないし、ああ、魔法兵団の警備隊の隊員と思ってくれれば良いわよ?」
「魔法兵団の話は知っています、でも、えっと」
「セレナ、セレナ・ド・ブランブルというのが私の名前なの」
「そのセレナさんがどうして私に武術を教えてくれるんですか?」
「弟さん、いいえ、貴女にとってはお兄様から話は聞いていないのかしら?」
ノリス兄が王都から戻ってきて暫く経つけど、何も話してくれないんだよね。
「いいえ、ノリスお兄様からは、あのもしかしてセレナさんはラスティンお兄様のお知り合いですか?」
「ええ、スティンの魔法学院の同級生だったの。一応この屋敷にも招待された事はあるのよ、ジョゼットちゃんには直接会わなかったと思うけど、ちらっと見かけて事はあったの」
「そうでしたか、スティン兄の」
「それで、副王殿下から直接、貴女を鍛えて欲しいと頼まれた訳なのよ。貴女を、”メイジ殺し”にしたいらしいわよ?」
「メイジ殺し?」
「ミス・ブランブルちょっと待ってくれ!」
そこまで聞いた時に、扉からノリス兄が入ってきて、セレナ師匠を部屋から連れ出していってしまったんだ。そして、何故かボクの隣にはテッサがいつの間にか座っていたんだよね。セレナ師匠とは2人っきりで話をするって言ったはずなんだけどね。
「テッサ、メイジ殺しって何だろう?」
「えっとね、確か、平民の戦士とかが、戦でメイジを殺すとそう名乗る事があるって聞いた事があるけど・・・」
「そうなんだ・・・、スティン兄は私がそれに向いていると思ったのかな?」
「・・・、多分違うんじゃないかな? ノリス様もそう思ったから、ジョゼットに話さなかったんだと思うよ」
「うん、そうだね・・・」
そんな感じで、話が暫く途切れたんだけど、出て行ったばかりのノリス兄とセレナ師匠が戻ってきて中庭に連れ出されたんだ。そして始まったのは、”決闘”だった、えーっと結果だけ言えばセレナ師匠の圧勝だったよ?(メイジとしての腕というなら兎も角、近距離での戦闘に関しては技術も経験もセレナ師匠の方が数段上だったんだ)
===
「セレナさん、いえ、師匠と呼ばせて下さい!」
「あの、うん、いいわよ」
まさに師匠と呼びたくなる様なセレナ師匠の体術だったんだ、小柄(ノリス兄と比べてだよ?)な女性がスクエアメイジのノリス兄を手玉に取るのを見たんだから、こんな事を言ったのは仕方が無いよね?
「ジョゼットちゃん、いいえ、ジョゼット。私は貴女を強くする為に来たの」
「強くですか?」
「ええ、当面は護身術が中心になるけどね」
「あの、師匠、どうして私は強くならなくちゃいけないんでしょうか?」
ボクがさっきから疑問に思っていた事を尋ねてみたんだけど、セレナ師匠は笑顔のまま固まっちゃったんだ。それから色々考えていたみたいなんだけど、結局こんな話を聞かせてくれたよ。
「ジョゼット、このレーネンベルクが儲かっているのは分かっているわね?」
「はい、お父様は忙しそうにしていますし」
「うーん、忙しいから順調とは限らないんだけどね、まあいいわ。貴族の娘と言うのはね、普通外に出たりしないのは知っている?」
比較対象が無かったその頃は、あの”ルイズ”が母親に連れられて色々な所を旅したと聞いていたので、ちょっと納得出来なかったかな?
「そうなんですか?」
「そうよ、貴族の娘って”売り物”になるからね? 特にジョゼットみたいに可愛い娘はね」
「?」
意味は分からなかったけど、テッサがしきりに頷いていたから事実だと思っておく事にしたんだ。
「分からないなら、それで良いけど、貴女が誘拐されて身代金が要求されたらとんでもない金額になるわよ?」
「???」
「全く、完全にお嬢様よね? いいわ、とりあえず自分自身を守れる様になりなさい」
「はい! あの、もしかして師匠も”ゆうかい”されちゃったんですか?」
「・・・、ええ、何時か機会があったら、ジョゼットには話してあげるわね」
結局、セレナ師匠からその誘拐の顛末を聞くことは出来なかったけど、セレナ師匠はメイジとしては異常で、魔法を殆ど使わないし、メイジを(そして魔法を)知る為に色々苦労をして来た事は分かった。それは、今のボクの戦い方の基本になっていると思っているんだ。
「話は終わったか? ミス・ブランブル、ちょっと顔を貸してくれ!」
「良いけど?」
そう言って、今まで一言も口を出さなかったノリス兄に連れられてセレナ師匠が屋敷を出て行ってしまった。暫くして、付近で大きな地響きがしたけど、ノリス兄は時々近くの広場で”腕が鈍らない”様に魔法の練習をするから別に珍しい事じゃなかった。
テッサと事情を聞いたライルは大人気無いねとか言っていたよ? ただ、その後、何故かセレナ師匠がノリス兄に懐いた?のだけは良く分かったんだよね。
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