第21話 誰が誰に捕まったのか?



 デニスも随分進歩したものね、まだ私の変化に気付かないと思っていたんだけど。でも、気付いてくれて本当に嬉しいという面もあるのよね。


===


 数ヶ月前から、自分が何だか変な気分になる事が多いって言う事は気付いていたんだ。それに、少し前までは、本当に体調も良くなかったのよね。つい、エレオノールの手紙にそんな話を書いてしまったら、この娘は1週間ほどしか経っていないのに、私の所を訪ねて来てくれたのよね。


「エレオノール、良く来てくれたわね」


「ええ、親友が病気かもと聞いたら、居ても立ってもいられないもの」


「ああ、その件なんだけど、その何ていうか・・・」


 女同士でもやっぱり言い難いので、少し口篭っていると、逆にこの娘に心配させてしまったらしい。


「まさか、酷い病気なの? 良かったら、良い水メイジを紹介するわよ?」


「ありがとう、でもね、その・・・」


 えーい、女は度胸よ、別に恥ずかしい事でもないし!


「赤ちゃんが出来ちゃったみたいなの・・・」


「えっ?」


「出来ちゃったのよ」


 うん、お義母様に言われるまで気付かなかったのが不思議な位だったのよね。


「本当なのね、おめでとう、クリオ」


「エレオノール、何でお腹を撫でるの? 見ての通り、まだ目立たないわよ」


「ごめんなさい、つい癖で・・・」


 妙な癖があるのね、でもそう言ったっきり考え込んでしまった、エレオノールの様子が気になったのよね。でも、それより気になったのは、この娘の手が何故か、お腹辺りから段々と上に上がって来る事なんだよね。なすがままにされていると、エレオノールが私の胸をムニムニと揉みだしたの!


「あの、エレオノール、何してるの?」


「ねえ、クリオ? 私って女性として魅力無いかな?」


「はぁ? 貴女に魅力が無いんだったら、私なんかどうするのよ!」


 確かにエレオノールの胸は控えめだけど、それ以外で私がエレオノールに女性として勝てる所ってないよね?


「正直、貴女の方が魅力的だと思うわ。そうじゃな無ければ、デニスに私を襲わせるのにあんな苦労はしなかったわよ」


「ぜ、是非! その襲わせるって言う所を詳しく教えて!」


 この娘らしくない、熱心さで妙な事を聞いてきたわね。”貴女には必要ないんじゃない?”って聞こうと思ったけど、その前にその可能性に気付いてしまった。まさか、でも、うーん、これはやっぱり本人に聞いてみるしかないよね?


「立ち入った事を聞くけど、貴女達ってまだなの?」


 優しく聞いた積りだったけど、エレオノールの表情は明らかに暗くなっちゃったんだ。詳しく話を聞くと、どうやら本当らしいのよね、しかし、どういうことだろう? もし、デニスが”スティン兄様”の立場だったら、速攻で襲ってもう子供の10人くらいって、これは言い過ぎね。

 良い所まで行くと言う話を信じるならば、”スティン兄様”が、この娘の身体に興味が無いとは考えられないのよね?


「もしかして、彼は不能なのかな?」


「ふのー?」


 ああ、この娘には理解出来なかったみたいね、学院でも女の子達の間では、結構際どい話が出ていたけど”不能”なんて話題はさすがに出なかったからね。(私が知っているのは、勿論、躊躇うデニスを挑発する為に覚えたんだけど、使わないで済んだよ?)

 もう1つ考えられるのは、”スティン兄様”が、本当にこの娘を大事にしていて、正式に結婚が成立するまで我慢しているとかかしらね。


「不能の件は忘れなさい。もしかしたら、貴女が大切だから、その日まで我慢しているのかも知れないわよ?」


「その日?」


「そう、その日。もう直ぐなんでしょう、貴女達の結婚式は?」


「う、うん」


「あっ!」


「な、何?」


「ちょっと思ったんだけど、その日まで”彼”が、我慢しているとしたら、その日の夜は大変かもね」


「???」


「カマトトぶっちゃって、この娘は。その日の夜はきっと激しい事になるって言ってるのよ」


「!!!!!!!!!!!!」


 あ!真っ赤になったまでは良いんだけど、何だか目が潤んでいるわよこの娘、もしかしてそう言うのが好きだったりするんだろうか?(デニスはその時も紳士的だったわよ?)


===


 まあ、友人の意外な一面を知ってしまったんだけど、少し話題を変えることにしてみた。


「貴女の結婚式は、豪華な物になるんでしょうね?」


「私は、どちらでもいいわよ。綺麗なドレスを着て兄様と一緒に居られれば。あ、この間、兄様の友人の結婚式があって、出席したんだけど、とっても良かったわ」


 話を聞くと、結構地味な式だったみたいだけど、少しだけ羨ましいと感じてしまったのよね。


「クリオ、貴女達は何時式を挙げるの?」


「えっ?」


「やっぱり赤ちゃんが生まれてからなのかしら?」


 うん、とりあえず外堀を埋める事に夢中でそれを考えていなかったわね。出来れば、式の話はデニスの方から話を出して欲しいんだけど、絶対にありえないわね!

 結局、王立魔法研究所の方で用事があるというエレオノールは一泊だけして、王都へ帰っていってしまったけど、その頃には私の中で戦略が決まっていたわ。”つわり”が酷い(話を聞くと母もそうだったらしい)のを利用して、”不治の病に罹ってしまった婚約者”作戦で行くとしましょうか?

 この作戦は”つわり”が治まってしまえば、使えなくて時間制限付きだけど、義理の両親にも話を通して、ギーシュ君も上手く使わせてもらおうかな?


===


「君って、なんだか元気になっていないかい? それに、その、なんだか太った?」


 何とか予定通り、結婚式を挙げる事に成功したんだけど、つわりは治まってしまったので、わざと食事量を減らすのは大変だったんだよね。お腹の子供にも良くないし、式が終わったら、いつも以上に食べる事にしたんだけど、そこでこの台詞だったりするのよね。


「デニス、女性に太ったなんて聞いちゃダメ! そうね、”ふくよか”になったって聞くのが正しいかしらね」


 全く、正式に結婚してもデニスはデニスよね?


「ブリミル様が、私達に奇跡を起こしてくれたのよ」


「クリオ、僕達は正式に夫婦になったんだよ?」


 だから、隠し事は止めてくれって言いたいのは分かるんだけど。デニスの場合は隠し事をするのは不可能なんだから、これは私に一方的に不利な話よね? でも、そろそろ潮時でしょうね。


「貴方、手を出して」


「誤魔化されないぞ!」


「良いから手を出して!」


 私が強く言うと、デニスが折れてくれた、この辺りはデニスらしいし、これから話す事を聞いても、デニスは怒らないのもわかっているんだ。ただ、心から喜んでくれるかは、少し自信がないんだけどね。

 デニスがちょっとむくれて手を差し出してきたけど、その手をがっしっと掴んで、自分のお腹に持って行った。結局、それはデニスの鈍さを証明しただけだった。(はぁ、ここまでしたら普通気付くよね?)


「本当に分からないの、ア・ナ・タ」


「何がやりたいのかはっきり言ってくれよ!」


「もう、全く困ったものね、貴方のパパは」


 そう言って、デニスの反応を覗ってみると、完全に呆然自失と言う感じだ。握ったままの手を更に引き寄せて、デニスの頭を掴まえて強引の彼の耳を私のお腹に押し当ててみた。私より力が強いデニスがなされるがままだったのは、ちょっとショックだったんだけどね。

 そうしていると、デニスの身体が小刻みに震えだしたの。まさか怒ったんじゃないよね?


「出来した! これで我が家も安泰だ!」


 急に顔を上げたと思ったら、私を抱きかかえる様にして持ち上げると大声でこう言ってくれた、私の旦那様だった。うん、やっぱりデニスはこうじゃなきゃね!


「あのね、男の子か女の子か分からないのよ?」


 エレオノールによると、予め分かる方法があるらしいんだけど、生まれる時まで分からない方が良い事もあると思う。


「どっちだって良いさ。僕に似た男だって、君に似た女の子だって、きっと立派にこの家を盛り立ててくれるよ!」


「あ、うん、そうね?」


 私としては、少し心配になったんだけど、デニスは全く気にしていなかった。盛んにまだ生まれていない、私達の赤ちゃんに話しかけている。意外に子煩悩なパパになりそうかな?

 それにしても、デニスに似た男の子か・・・、ダメね。色んな所に迷惑がかかりそうなのが、今からでも予想できてしまう。私が、きちんと教育してあげなくちゃ! でも、当然だけど、私は子育てをした事が無いのよね。ああ、良い手があるわ、末弟のギーシュ君を利用させてもらおう、あの子はいかにも大きくなったら、デニスみたいになりそうだから、今からでも練習いえ、再教育してあげよう。


===


 それから、数ヶ月が経過して、私のお腹も大きくなり、予定よりかなり早く出産する事になってしまった。陣痛が始まってからは、意外と早かったんだけど、しばらくは出産したくないと思ったのは事実なのよね。

 生まれたのは、小さめだけど元気な女の子で”エリーヌ”と名付けられた。旦那様の希望ですから、そのまま採用する事にしたんだけど、あの娘の様に育ってくれれば良いなって思うんだ。


「デニス、本当にあの娘の結婚式に行かなくて良いの?」


「行かない!」


 1週間程先に、”あの娘”と”副王殿下”の結婚式が盛大に行われる事は、以前から分かっていたんだけど、私は体調が回復しなくて、出席出来そうもないのよね。義父様も、王軍の指揮を放り出す訳にいかず、デニスに代理で参加しろと命じて来た見たいなんだけど、当のデニスは私の傍を決して離れようとはしなかったの。


「エレオノールの花嫁姿は綺麗でしょうね?」


「ぐっ!」


 あ、動揺した。全く、やせ我慢しなくても良いのにね? 別に今更デニスが”あの娘”の事を幾ら賞賛しても気にはしないけど、親友の結婚式に参加出来ないのは、心苦しいのよね。


「エレオノールが、貴方の事を許しているって話はしたでしょう?」


「それは、まあ、嬉しい事だけど、そういう事じゃあないんだ」


「じゃあ、どう言う事なの?」


「あの方が、あの男の横で微笑む場面なんか見たくないんだよ!」


「はあ、男のプライドっていうやつ?」


「やっぱり、女性には理解が出来ないかな」


 そんな事を言いながら、実は私の体調が心配なんじゃないかと思うのは自惚れだろうか。まあ、自惚れでも何でも、ここに私の愛する旦那様が居てくれるのを素直に喜ぶ事にしよう。


===


 結婚式を挙げたあの娘に、式に参加できない旨の手紙を出すと、意外なことに直ぐに返信が来たのよね。(何かと忙しいでしょうに)


「新婚旅行に行くって言ってたのに、律儀ね」


「どうしたんだい、クリオ?」


「ああ、エレオノールから手紙がね」


「何て書かれているんだい?」


 内容を確認して問題が無ければ、デニスにも見せてあげる積りで、手紙の内容を確認したんだけど、そこには”とっても激しかった”と一行だけ書かれていたのよね? あの娘も何を書いているんだか、全く。


「で、何が書かれていたんだい?」


「えっ! えーっと、女同士の秘密よ!」


 ダメ、いろんな意味でこれはデニスには見せられないわ。でも、激しいってどんな感じなんだろう? やっぱりダメ、私の旦那様には紳士でいて欲しいんだから!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る