第20話 模擬戦
そんな事があってから、しばらく時間が流れたんだけど、順調な僕の出世街道に邪魔が入った。またしてもあの男の差し金らしいのだが、本当に嫌味な男だ。もしかして、僕の才能に嫉妬していたりするんだろうか?
「元帥閣下、副王殿下の紹介状を持った男性が、面会を求めていますが?」
「こんな所にかね?」
「はい、軍の演習場の周りを警備している兵が見つけて、事情が事情だけに私の所まで情報が上がって来ました」
「そうか・・・、今なら構わないだろう、追い返すわけにはいかないから連れて来てくれ」
「はい」
僕の先輩に当たる副官と秘書役を務める女性マリテ女史(有能なのだが、怒らせると怖い女性なのだ)の報告から話は始まった。父の気まぐれに驚きながら、あの男の関係者と言うのに興味が湧いたんだけど、後で考えれば父に諫言すべきだったんだろうね? やってきた男は、ただの平民に見えた、どちらかと言うと不真面目そうな雰囲気をもっている気がしたけど、ここに相応しい人間には見えないね?
「グラモン元帥閣下、急な願いを聞き入れていただいて感謝いたします」
「副王殿下の紹介状を持っていたそうだが?」
「はっ、私は副王殿下の下で軍事に携わっております」
一応、丁寧な口調なんだけど、何故か真面目さに欠けると感じるのはどう言う事だろうか?
「ほう、ではもしかして、殿下がゲルマニアに侵攻した際に、ゲルマニアに対して損害を減らす様に命令されたのは、君なのかな?」
「はい、殿下、当時はラスティン様とお呼びしていましたが、あの方も無茶な命令をと困らされた物です」
何だか、怪しい雲行きだよな、”あの男”の配下にしては、”あの男”に対する敬意の様な物を感じさせないというのは、どうなっているんだ?
「だが、君はそれを実行して見せた訳だな?」
「その通りではありますが、”レーネンベルク魔法兵団”の力があってこそ出来た事だと言う事は、閣下にもお分かりでしょう?」
言っている事は、穏当なのだが、その口調と態度が、この男の自信を覗わせている。”あの男”の関係者だと言う事を除いても、気に入らない男だな、僕は常々この世から僕以外の男性は居なくなるべきだと思っているけど、こいつも真っ先に居なくなって欲しいタイプの様だね。
「失礼だが、君の名前を教えてくれるかな?」
「これは、こちらこそ失礼しました。家名を持たない平民ですので、レーネンベルクのアンセルムと名乗っております」
「そうか、では、アンセルム君。ここが何処か知っているかね?」
「はい、王軍の演習場で、今は年に一度の大規模な演習が行われているのも存じております。是非一度、陸軍の”実力”を見てみたいと思いまして、ご迷惑になる事を承知でやって来てしまいました」
「ほう、”実力”かね・・・」
ああ、こいつは父を怒らせてしまったぞ。どうなっても知らないからな。
「アンセルム君、良かったら、演習に参加してみないかね? 今から若手の士官達の指揮能力を見るための、模擬戦なんだが」
「そう言われましても、私は兵士には向いていませんので」
「無論、仕官として振舞ってもらって構わないよ?」
「父上! あ、いや、閣下、平民を仕官などと」
「構わんさ、殿下の軍師殿の実力は是非拝見したいからな」
「それならば、僕が初戦の相手を!」
そう言う話なら、一口乗らせてもらおうか、その鼻っ柱を叩き折ってやるぞ!
「アンセルム君、構わんかね?」
「勿論です、閣下」
「デニス、負けは許さんぞ!」
父が、そう言ってきたが、まあ、慣れない初戦では僕の勝ちは動かないだろうね。
僕が、演習場内を案内しながら、模擬戦の会場まで案内する事になった。まあ、アンセルムと言う奴の性格を知るのに役に立つからと思い、引き受けたんだが、良く分からない奴だった。
仕官の模擬戦と言うのは、簡単に言えば一種のゲームの様な物なんだけど、チェスなどとは違い実際に人を動かすんだよ、戦場となる場所も平坦では無いから、結構面白い物なんだ。自慢では無いが、同期の中では私が一番成績優秀なのだよ、ふふん!(まあ、未だに、マリテ女史には一勝も出来ていないんだが、まあ、直ぐに勝ち越してみせるさ!)
・兵士1人を10人と扱う
(小隊規模と言う訳だね、まあ、時間短縮の目的もある訳なんだけどね)
・兵士100人が10人で1班を構成して全部で10班を作る
(行動は中隊単位で行う事になるんだ。擬似的に1大隊を指揮する事になる訳だよ)
・10班にそれぞれ、1人の伝令が付き、1人の指揮官10人の伝令を通じて指揮をとる
(伝令にどんな指示を与えるかで、戦況は全く変わってくるのは、分かるよね?)
・鐘の合図に両軍が同時に動き出し、接触した時に戦闘開始となり、接触の仕方で双方の被害が決定される
(この辺りが模擬戦の醍醐味だね、背後から襲う事が出来れば、相手の半分に被害を与えられるんだけど、そう上手く行くものではないんだ)
・次に鐘が鳴った時に兵士は行動を止め、再度伝令からの指示が出せる
(この時は指揮官はかなり忙しいんだよね、時には指示が行き届かない事もあるんだ)
・これを30回繰り返して、被害の少ない方がその1戦の勝者となる
(相手を全滅させる事は殆ど無いらしいよ)
・上記の模擬戦を兵士はそのままで、戦場を変えて3回繰り返し、2勝した指揮官が勝ちとなる
(この戦場の設定で大きく勝率が変わってくるのは、事実なんだよね)
模擬戦の概要はこんな感じなんだけど、指揮してみるとかなり難しいんだよね。全滅する事があるのは初心者だけなんだけど、よほど無茶をしなければ、全滅はしない物なのだよ。指揮官に求められるのは、地形を見て、相手の指揮官の動きを予想しながら、自軍の兵を上手く相手の兵にぶつけるかという手腕なんだな。
実際指揮してみると分かるんだけど、伝令や兵士にも錬度があって中々思った通りに動いてくれない事もあるんだよね。それでも僕がこの模擬戦に強いは、発想力の勝利だと思うんだけど、対戦相手は大抵”君の指揮は良く分からない!”なんて言う物だから、笑ってしまうね。(負け惜しみに、常識的な用兵をしろ何て言い出す者までいる始末さ)
アンセルムと言う奴は、一応真剣に僕の話を聞いていたんだけど、
「良く分かりましたよ、副官殿」
とだけ言って、決められた場所に歩いて行ってしまった。今は、敵になるのだが、本当に言っただけで理解出来たのかな?
===
最初の戦場に設定された場所を見て僕は自分の勝利を確信したね。僕の勝利の為に用意されたような地形だと思う。戦場自体の広さは300メイル×500メイルの広さで縄で範囲が示されているんだけど、小さな山や川や沼が作られていて意外に戦術を駆使する余地があったりするんだ。(作られた地形に適当に縄を張って戦場と決めると言った方が分かり易いかな?)
今回の戦場は、敵陣地側に山と川があり敵軍の進軍の妨げになり、迎え撃つのにも十分な広さが無いから、こちらは敵軍の進軍を待ち受けて、袋叩きにするというのが一般的な戦術だね。だけど、僕の場合は、敢えて自軍を敵陣に突っ込ませるんだよ。敵が山を回りこむ形で遊兵を作れば、数で押し勝つ事が出来るし、迎え撃つには広さが足りない、僕と同様な戦術をとれば、普通に引き分け辺りが関の山なんだ。何より、簡潔な指示の方が兵も動きやすいんだよね。(単純と簡潔の違いだよ!)
最初の指示を出し終わり、最初の鐘が鳴った僕の兵士達が一斉に敵陣へ向かって駆け出したが、敵陣では目立った動きは無かった様だね。停止の鐘がなり全軍の動きが止まったけど、こちらはかなりの距離を稼いだ、これで負けはまずなくなったね。アンセルムという奴が、戦いに慣れた指揮官なら、最初に押し込まれる危険を回避する為に、自軍を広い場所まで進めるはずなんだけど、その動きも無かったから、拍子抜けだったね。
鐘が鳴る度に戦況は変化して行ったけど、先手を取った僕の勝ちは動かなかったんだよ! はっはっはっ! ちなみに、残った兵士数は、60対30さ、ふっ!
2戦目は、全く逆の立場になり、僕の善戦も空しく敗北を喫してしまったんだが、これは仕方が無いんだよ。まあ、次で勝てば問題無いしね。
そして3戦目は、何も障害物がない広場が戦場になったんだけど、僕が何とか勝利を拾う事が出来た感じだった。46対43は結構僅差だから、下手をしていれば負けていたかも知れない。どう言う訳か、奴の兵士達は、1戦目より明らかに動きが良かったから、勝てたのは僕の才能のお陰なんだろうね。
「結構やるじゃないか、アンセルム君」
「副官殿も中々でしたよ、良い指揮官になって下さい」
ふん、僕の才能を思い知ったらしいな! しかし、負けたくせに嫌味なくらい飄々としているな? さすがは”あの男”の関係者だね。
「まだ、続ける気かな?」
「はい、ご迷惑でなければ、他の仕官の方とも戦ってみたいですね」
「分かった、手配しよう」
僕はそれっきり、アンセルムという男に興味を失って、自分の次の模擬戦に集中する事にしたのさ。まあ、僕ほどの軍人なら、集中なんか必要ないんだけどね。
===
予定した4人との模擬戦を終えて、父の所に戻ると、戦績を報告する事にした。当然だけど、4戦全勝だったのだよ!
「そうか、良くやったな、明日は若手だけではなく、全ての仕官との対戦だからそこで実力を示せよ」
「はい、お任せ下さい。それで、あのアンセルムという男はどうでした?」
「2-1、1-2、2-1、1-2で、2勝2敗だな」
「口ほどにも無いですね?」
「・・・、明日は荒れるかもしれないな」
「はい?」
「いいや、何でもない」
===
そして翌日になったけど、僕の快進撃は止まらなかったね! 何と!何とだよ! あの、マリテ女史にも最終戦で対戦して、2-1で勝つ事が出来たんだよ! まあ、女史も今日は精彩を欠いていたから次回は苦戦しそうなんだけどね。結局全勝した僕は、意気込んで父の所へ報告に行ったんだけど。父は僕の事に気付かないまま、マリテ女史から模擬戦の状況を聞いていたんだ。
途中からしか聞けなかったから、良く分からなかったんだけど、マリテ女史が完全に押され気味だったようだ。そのまま戦況は進み最後には、本当に信じられない事だけど、マリテ女史の軍が全滅してしまったんだ。聞いた限りでは、女史の戦術にこれといった失策は無かったから、多分最初に何か間違えたんだろうね。
「今日は調子が悪そうだったから、仕方が無いですよ」
「いいえ、そう言う訳では無かったんですよ」
「え? 僕に負けてしまう位なんだから、体調でも悪かったんじゃないんですか?」
「それはそうでしょう、模擬戦と言っても自軍が全滅させられれば動揺もします」
ああ、”あの日”とかじゃ無かったんだな。クリオと一緒に住むようになって、そう言う日が女性にある事を始めて知ったから、良く分からないが違うようだね。
「面白いじゃないか、あの男!」
「あ! 父上、何処に?」
父は僕なんかに見向きもせずに何処かに行ってしまった。何なんだ、この状況は?
「先輩、それで相手は誰だったんですか?」
「嫌な事を聞くのね、婚約者の方の苦労が忍ばれるわ」
「クリオの事は、どうでも良いんです!」
「副王殿下の軍師様よ」
「はあ?」
「結果は2-1で勝ち越したんだけど、その1敗が全滅じゃね・・・」
1敗が全滅では確かに、喜べないだろうね。あの男がこの時だけそんなに強かったのは何か仕掛けがあるんじゃないんだろうか?
「それであの男の今日の戦績はどうなんです?」
「2-1、1-2、2-1、1-2、だったそうよ」
2勝1敗、1勝2敗の繰り返しか、星としては五分だよな?
「別にそんなに強くは・・・?」
「貴方にも分かった?」
「昨日も同じ戦績でしたよね?」
「そう、私達も随分なめられた物ね!」
「まさか、勝敗を調整していたのか!」
「あの軍師殿が、模擬戦が終わって何と言ったと思う?」
女史の表情を見れば、随分失礼な事を言ったんだろうな、怖い物知らずだね。ここは僕としても賢く沈黙で応じようかな。
「”あんたの指揮が良かったから、つい本気でやっちまった、済まないね、おばさん”よ!」
「ぶっ!」
「デニス君、何か?」
「い、いえ、何でもありません、先生、それにしても失礼な男ですね!」
「・・・、まあ良いわ。私を女だと思って手を抜く様な男よりはマシでしょうからね」
ふう、何とか切り抜けたみたいだね。はて、何だか納得行かない気がするんだけどなんだ?
「貴方だって、手を抜かれた可能性があるのに気付いている?」
「まさか!?」
「そんな風には見えなかった? 私の場合、彼は初戦は捨てていたわね、自分が指揮する兵の錬度を見ていたのかも知れないわ」
「え?」
「2戦目は、どう考えても私が有利な地形だったから、自然な形で私が勝ったわね、そのままなら疑いもしなかったでしょうね」
「3戦目はどうでした?」
「そして3戦目も、私に有利な地形だったのよね。これはくじで決めているんだから偶然だったんでしょうね。そして彼は私に牙をむいたという訳ね」
何故か口を挟む事が出来ず、マリテ女史の話を聞くだけになってしまった。確かに思い当たる節があるんだ。
「私の勝ちは決まっていたから、基本的に守備に重きを置いたんだけど、それは完全に読まれていたのよね。と言うより、私の指揮自体が読まれていた気がする、だって彼は2回に1度か、3回に1度しか伝令を出さなかったんだからね」
「普通、毎回伝令は出しますよ!」
「そうね、だけど、”鐘”の間隔は必ずしも一定では無いでしょう? ゆっくりな時は大丈夫だけど、早い時は最初の方針にしたがって兵士が動くのは分かっているわよね? 特に君はね?」
「まあ、そう言う所は僕にもあります。敵陣に近付けば、それだけ伝令が間に合わない可能性がありますからね。実戦ならもっと状況は悪いでしょう?」
「そうね、前の2戦で私の癖とかを掴まれてしまったのかしら、面白い様に彼の部隊の攻撃は私の部隊を削っていったわね、その辺りからは知っているんじゃない?」
「はい・・・」
「でも、意外と彼も貴方には苦労したのかも知れないわね?」
女史が妙な事を言い出したぞ?
「はぁ?」
「だって、貴方の用兵は無茶苦茶だし」
ふっ! 女史のような優秀な仕官でも私の華麗な戦術は、理解できないらしいな。だけど、逆にこんな言い方をさせると、奴が本気だったのか知りたくなるものなんだな??
「もう一度模擬戦を申し込みたいですね」
「それは無意味じゃないかしら? 本気でやる積りなら、最初から本気でやっているでしょうからね」
「どういう意味ですか?」
「彼は、本当に我が軍の”実力”を見に来たんでしょうね。紹介状の件から考えれば、副王殿下に命じられたと考えるのが自然でしょう。まあ、本気を出すなとか、面倒を起すなって命令されているんでしょうね」
「くっ!」
「ちょっと、デニス君! 何処に行くの?」
そんなの決まっているさ、あの男の所だ!
===
「ふーん、それで、アンセルムという人と戦う事は出来たの?」
「それが、”あの男”も奴の行き先を知らないなんて言うんだよ」
「そう、副王様も大変なのね」
クリオの反応はイマイチだったけど、それが逆に僕を熱くさせたんだな。
「まあ、2人とも僕の敵には違いないから、何時かぎゃふんと言わせてみせるさ!」
「デニス、副王殿下を敵なんて言っちゃだめよ?」
「何故だい、僕が奴に何度」
「デニス! ふぅ、あのねデニス、彼を敵に回すって事は、”あの娘”も敵にするって言う事よ?」
「むっ! それは、確かに不本意じゃないね。今回は、諦める事にするよ。でも何時かは、絶対に」
くっ! あの方の後ろに隠れるとはなんて卑怯な! でも、最近何だか、クリオの元気が無い気がするのが気になるね。今晩の食事もあまり食べなかったみたいだしね。
「クリオ、1つ聞いてもいいかな?」
「デニスらしくもないわね、勿論よ」
「君もしかして、体調が悪いんじゃないかな?」
「・・・」
クリオが、不自然に俯いてしまった。何か身体や精神に負担がかかっていたんだろうか?
「ま、まさか、何かの病気なのか!!」
「・・・」
「医者には診せたのかい?」
「・・・」
「クリオ、何とか言ってくれ!」
「・・・、お義父様の伝で、有名な水メイジに診てもらったわ」
「それで?」
思わず息を飲んでしまったけど、仕方が無い事じゃないか? 婚約者が不治の病に罹っているなんてなったら、僕はどうしたら良いんだ!
「治療の方法は無いって・・・」
「そっ・・・、そんな馬鹿な! 何故、君がそんな目に遭わないといけないんだ!」
「デニス、私からお願いがあるんだけど?」
「なんだい? 僕に出来る事なら、何でもしてあげるよ!」
何てことだ、僕が早く彼女の異常に気付いていれば!
「短い間だったけど、デニスの婚約者になれて良かった。でも、一度で良いから、結婚式をやってみたかったの」
「なんだ、そんな事か、明日にでも手配をするよ」
「そんな、悪いわ」
「何を言ってるんだ、僕達は婚約者同士なんだよ、結婚して何が悪いんだ!」
「本当? 本当に私と結婚してくれるの?」
「勿論さ! なるべく早い方が良いね、直ぐに式の準備を始めるよ」
「うっ!」
クリオが吐き気をおぼえたのか、近くの容器にあげてしまった。苦しそうにするクリオの背中をさすってあげる事しか僕には出来なかったんだ。何故こんな事になってしまったんだろう、僕の大切なクリオが、この世を去ってしまう事になるなんて!
===
僕は父を脅して、母に頼み込んで、何とか式の準備を進めて行った。クリオと一緒にいる僕はあれから何回か、クリオの調子が悪くなる場面に遭遇してしまった。治療系の魔法は得意では無い僕だけど、懸命に呪文を唱えると、縋るように僕の手を掴むクリオの行動が、哀れさを感じさせた。クリオには、僕しかいないんだという事が、本当に僕の心を冷たくしてしまう。
グラモン家の力を最大限に利用して、結婚式を挙げるのに要したのは3週間ほどだったんだけど、式の前日一緒のベッドに横たわりながら、僕はクリオにこう語りかかけたんだ。
「クリオ、今の幸せが何時まで続くか分からないけど、その日まで、決して君に僕を選んだことを後悔させないよ」
「ホント? ホントに?」
「勿論さ!」
「私、貴方を選んで良かった・・・」
「泣かないでおくれ、君は僕の太陽なんだから」
「デニス、そこまで言ってくれて本当に嬉しい! でも、1つだけ心残りがあるの?」
クリオが言う事は予想できたけど、自分の本心を話す積りだった。
「デニスは、もし、私とエレオノールにのどちらかしか選べないとしたら、どっちを選ぶ」
「そうだね、多分1ヵ月前までなら、あの方を選んだかも知れない。だけど、今は君だけだよ!」
クリオが僕の答えを聞いて、嬉しさのあまり、僕の肩辺りに顔を埋める様にして、ひっそり泣き出してしまったんだ。僕は、ただ優しく彼女の肩を抱く事しか出来なかった。僕は何て無力なんだ!
そして、翌日伯爵領を挙げての結婚式が行われたんだ。クリオの花嫁姿は、想像以上に可憐で、僕は彼女を妻に出来る事の喜びと、そして直ぐに失ってしまう事に悲しみに耐える事しか出来なかった。
===
そして、式から1月ほどが経ったんだけど、何故かクリオは日に日に元気になって行った。これはもしかして、2人の愛の力が奇跡を起したのではと思ったんだけど・・・?
「クリオ、女性にこれを聞くのは失礼にあたるかも知れないんだけど?」
「貴方が、そんな事を気にするなんて随分と進歩したものね。私の教育が良かったのかしら?」
こんな調子なんだ、何かおかしいのは分かるんだけど、それが何か分からないんだよね?
「君って、なんだか元気になっていないかい? それに、その、なんだか太った?」
「デニス、女性に太ったなんて聞いちゃダメ! そうね、”ふくよか”になったって聞くのが正しいかしらね」
はっきり言って、太ったのとふくよかになったの区別は僕には一生無理の様な気がするよ。
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