デニス&クリオ 本編115話読後にお読みください
第16話 ぼっくはデニス!
ぼっくの名は(ここのアクセントが重要なのさ)、デニス、デニス・ド・グラモン! そう、トリステインでも知らぬ者がいない、土のグラモン家の嫡子にして、父である陸軍の元帥グラモン伯爵の後を継ぐべく、現在は父の副官として軍に務めているのだよ。
「うん、少し固いかな?」
「デニス、貴方さっきから何やっているの?」
「勿論、”あの方”との思い出を綴ろうと思って、少し文章を考えているのさ!」
「デニスが? ぷっ!」
「クリオ! 君も大概、失礼な女性だね?」
さっきから会話をしているのは、何と言うか、僕の婚約者であるクリオ・ド・コーヌなんだけど、どうも僕は彼女から舐められている気がする事が良くある。僕が少し、他の綺麗な”薔薇”と会話しただけで、いきなり怒り出したり、時には耳を捻られたりするのは理不尽じゃないだろうか?
僕の様な美しい男性は、様々な女性を賛美する事で、その美しさに磨きがかかると何度説明しても納得してくれないんだ。どうして僕は、クリオと婚約なんてしているんだろう?
「デニス、言っておくけど、婚約者の前で他の女性の事を褒めるなんて、失礼以前に、普通なら婚約破棄になって当然よ!」
「君は何を言っているんだい? 美しい物を美しいと思わない人間は居ないし、出来る事ならそれを言葉にして多くの人と共感したいというのが普通だろう?」
「はぁ、まあいいわよ。どうせ、あの娘(エレオノール)の事でしょう?」
「そっのっ通りさ!」
「最近その話し方に凝っているみたいだけど、止めた方が良いわよ? 馬鹿っぽく聞こえるから」
「ばっ!」
クリオは時々こんな事を言うけど、実際この話し方をすると、初対面の人は必ず僕の事を覚えてくれるっていう立派な利点があるんだけど、女性には分からないものなのかな?
「いいから! どんな事を書こうとしていたの?」
クリオの言い分に同意する訳じゃないのだけど、まあ、今晩位はあの方(エレオノール)の事を考えても怒らないで欲しいな。
「そうだな、先ずは2人の劇的な出会いの辺りから始める予定なんだ」
「劇的ね・・・」
「そう、あれは僕が13歳の頃だったかな? そろそろ社交界に”でっびゅー”する準備として、とある貴族の誕生パーティーに参加した時の事だったよ」
「”でっびゅー”も止めなさい、本当に馬鹿みたいよ?」
「そのパーティーは、ほとんど内輪の物だったから、僕みたいな子供が行っても問題なかったんだよ。その場にあの方も参加していたのはやはり運命だったんだろうね?」
「聞いてないし・・・」
===
「これはグラモン伯爵、お久しぶりですな」
「ラ・ヴァリエール公爵、貴方の様な方がこんな内輪のパーティーに?」
「はははっ、目的は伯爵と同じらしいがね。これが、長女のエレオノールだ。伯爵は知っていたかな?」
「勿論ですよ、結構な噂になりましたからな」
「エレオノール・アルベルティーヌ・ド・ラ・ヴァリエールと申します。どうぞお見知りおきを、グラモン伯爵様」
「おお、これは、可愛らしい上に、よく出来たご令嬢ですな。デニス、お前も公爵に挨拶を」
「デニス、デニス・ド・グラモンです」
当時の僕はそれだけ言うのが精一杯だったのさ、別に知らない大人に囲まれて緊張したとかではないよ。そう、エレオノール様の姿を一目見た瞬間から、その容姿や、声、振る舞いといった物に釘付けだっただけなのさ。
「なんだ、それだけか?」
「伯爵、ご子息も緊張しているのでしょう」
「そういう子では無いのですが・・・」
「まあ、こちらは気にしませんからな。エレオノール、少し何か食べておくかい?」
「いいえ、皆様への挨拶を済ませてからで構いませんわ」
「そうか、ではグラモン伯爵、また何処かで」
「はい、公爵」
大人達はそんな会話をしていたけど、僕はほとんど聞いていなかった。だた、あの方の姿を目に焼き付けるのに必死だったんだ。僕の周りには、あまり女の子は多くなかったけど、多少は女の子の事を知っていた筈だった。だけど、あの方は別格だったんだ。
「父上、今の女の子は?」
「お前は何を聞いていたんだ? あの、ラ・ヴァリエール公爵家の長女だぞ。覚えを良くして置かなければならないのに、お前は!」
「綺麗な子でしたね・・・」
「何で、お前は人の話を聞かないんだ? 全く誰に似たのやら・・・。どうでも良いが、あの子はダメだぞ。絶対にだ!」
「はぁ? 公爵家と伯爵家なら、それ程おかしな話ではないんじゃないかな?」
「勝手にそこまで想像を進めるな! エレオノール嬢には、ちゃんとした婚約者がいるんだからな」
「僕より彼女に相応しい男なんていない筈だよ!」
「何処からその自信が来るんだろうな? レーネンベルク家の名前はお前も知っているだろう?」
「噂じゃ、田舎の公爵様だそうじゃないですか?」
土系統に関しては、我が家が最も伝統があるの筈だとあの頃は胸を張って言ったものだったんだな?。王家の血を引くと言っても、平民達を雇って何かやらせている程度では高が知れているなんて考えていたんだけど、今思えばちょっとだけ甘かったかな?
「はぁ、お前はもう少し現実と向き合うことを覚えるべきだな。なにせ、エレオノール嬢はそのレーネンベルク家の長男ほれ込んでいるそうだからな」
「何を言っているんですか、あの方は、きっと僕の魅力に気付いた筈ですよ!」
===
「こんな感じで、運命的な出会いをした訳なんだよ!」
「ふーん」
「ど・う・し・て! そんなに反応が薄いんだ君は、婚約者の初恋の話だぞ。少しは気にならないかな、クリオ?」
「だって、つまらないんだもの。どうせ、エレオノールはデニスの事なんて覚えていなかったんでしょう?」
「ぐっ! まさかあの方から直接聞いたのか?」
クリオは、僕の同級生で、あの方の友人でもあるから油断は出来ないんだ。
「それ位、想像がつくわよ。それで、あの娘に次に会ったのは?」
「それだ、聞いてくれ。始祖ブリミルは僕に祝福を与えてくれたんだ」
「・・・」
「僕とは年が1つ離れているから、トリステイン魔法学院では後輩になると思っていたあの方が、何と僕と同級生だったんだ」
「・・・」
「これこそ、運命だと僕はその時、確信したんだよ?」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
あれ? 反応が無い様な気がするんだけど?
「あの、クリオ、聞いている?」
「聞いてるわよ、まったく。人の話は聞かないくせに、自分の話を人が聞かないのは許せないなんて言うんじゃないでしょうね?」
「いや、今、凄く良い所だったんだよ」
「あの娘が、14歳で魔法学院に入学したのは、”彼”を追いかけてだって、本人から聞いたわよ?」
「・・・」
「あ、固まっちゃった、本当に面倒な男ね(なんでこんな男を好きになっちゃったんだろう?)」
「・・・」
「嘘よ、嘘! きっとあの娘とデニスは、ブリミル様の意思で再会できたんだと思うわよ(でも、つい構っちゃいたくなるのよね)」
「そうだよね、君もそう思うんだね!」
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