??? 本編58話読後にお読みください

第11話 ???の思い出語り(1)



 私があの方に始めて会った頃の事は、今ではほとんど思い出す事が出来ません。だけど、最初に見たあの方の顔だけは多分一生忘れる事が出来ないんだと思います。いいえ、一生忘れないと決心していると言う事さえ出来ると思います。


 私があの方に会ったのは、多分私が4,5歳の頃だったと思います。その頃、丁度、私達子供の間で、性質の悪い病気が流行していたそうです。母の話では、私の実家のあるマリロットの傍の村では、沢山の子供がこの病気で苦しんだそうです。

 実際の所、レーネンベルクの外では、薬が足りず多くの子供が命を落としたと聞いています。


 この様に話している私も、例外ではありませんでした。ただ、ただ、苦しかった事だけは、今でも身に染みて思い出すことが出来ます。この歳になっても、風邪等を引くと、必ず夢に見てしまうほどです。でもその夢は、私にとって決して不快なものだけという訳ではありません。

 風邪で苦しんだ後、必ず鮮明に思い出す事が出来るあの方の顔をみれば、弱った身体も自然に元気になると言うものです。友人によると、”貴方は風邪を引くと必ず酷くなるけど、治ると途端に元気よね?”だそうです。


 あの方が、あの時私にどんな治療を行ってくれたのかは、意識が朦朧としていたので、全く思い出すことが出来ません。でも逆にそれが私の想像力をかきたてます。


????妄想開始????


 あの時、あの方は苦しむ私に薬を与えようとしますが、私は苦しみのあまり、直ぐに薬を吐き出してしまいます。それを見たあの方は、自分で薬を口に含み、口移しで私に薬を飲ませてくれたのです。そして、意識を取り戻した私に、微笑みながら、


「もう大丈夫だよ、君の病気は僕が治したからね」


と言ってくれるのでした。でもすこし口篭りながら、


「あれは、単なる治療行為だから忘れてくれると嬉しいな」


「いいえ、一生忘れません!」


「本当かい、良かった。君の名前を教えてくれるかな?」


「はい、私は・・・」


????妄想終了????


 はっ!いけません、いつもの癖が。分かってはいるのです、あの方にとって私などは、路傍の石同然なのは。あの方には、小さい頃からの婚約者がいらっしゃいます。その女性は、容姿も優れ、家柄もこの国で知らない者はいない程ですし、風の噂では魔法学院でも優秀な成績を修めたという完璧な方なのです。

 頭脳だけなら、私も負けるつもりはないのですが、それ以外は完敗です。(良く見積もっても)容姿は十人並みだし、家柄などはお話になりません。あの方の隣に立つその女性を想像すると悔しいですが、正直お似合いだと思ってしまいます。逆にあの方の隣に自分が立つ姿は全く想像が出来ません。これは、自分があの女性に勝てないと認めている様で、悲しい気持ちになります。

 ですが、あの方の一番役に立つ存在という地位を得るのは、私だと信じています。その為にはどんな苦労も厭わないつもりですから。


 あ!でも、さっきの頭脳では負けるつもりは無いと言うのは、本当の事です。私はメイジではないので、魔法は使えませんが、本当の頭脳戦なら一部の例外を除いて負けるつもりはありません。その一部の例外と言うのが、レーネンベルク公立高等学校での友人達だと事は、あまり嬉しくないかも知れません。


 折角なので、”レーネンベルク公立学校”での事を書いておきましょう。私が、この”学校”に入ったのは、10歳の時でした。その頃の私は、あの方の役に立つ方法がないかと、子供なりの方法を模索していました。具体的には、レーネンベルクのお屋敷の使用人の皆さんと仲良くなったり、あの方のマリロットの町への行き帰りこっそり観察したりして、何とかあの方の役に立つ方法が無いものかと、情報を集めていました。

 その結果得られたのは、あの方が必要としているのは、”メイジ”だと言う事です。この時、私は両親に、”何故メイジとして産んでくれなかったのかと”泣いて尋ねたものです。(両親も返事に困っていました)そんな状態の時に、私は”レーネンベルク公立学校”設立の話を聞きました。大人たちは領主様も、変わった事を始めた物だと、呆れ顔でしたが、私にはあの方が困っている私に手を差し伸べてくれたのだと感じました。


 私は、入学試験を無事通過して、首尾良く学校に入る事が出来ました。試験を受けた直後は、受かるはずが無いと諦めかけていたのですが、不思議な事に合格出来ました。当時の私は、字は何とか読めたのですが、書くことは出来ず、簡単な計算も間違えてばかりだったからです。

 今なら事情が分かっているので、何故自分が”合格”出来たかは分かるのですが、当時はあの方が、私の為になんて事も、本気で想像していました。(そんなはずが無い事は、嫌でも分かっているのですけど)それから3年間私は、寝食を忘れて勉強に打ち込みました。魔法も使えず、身体も丈夫ではない、私には頭が残された1つの道だったのです。その最後の砦を守る為に、誰にも負けないという決心で、勉学に励みました。


 学校では基本的に、


国語

算数

理科

社会

道徳

体育


という授業が行われます。尤も、どの生徒に聞いても一番の楽しみは給食なんですけどね。


 問題は体育です、なんで学校には”体育”なんて忌まわしい授業があるのでしょうね?あれさえなければ、私の全科目制覇が実現していたのに!

 あ!いや、その、そういう訳で、非常に優秀な成績で3年間を終えたのですが、決してこれで満足した訳ではありません。3年間の勉強で大分世間と言うものが分かって来ましたが、今のレベルではあの方の役に立つことが出来ないと確信していました。もっと学んで、少しでも多くあの方の役に立ちたいと思う私の前に、またも道が示されました。


 そう、”高等学校”が設立されたのです。”高等学校”では、”学校”に比べて、より高度で専門的な教育が受けられるという話でした。こちらは”学校”とは違い望んだから入れるという甘いものではありませんでした。試験があるという訳でもないのですが、”学校”3年間の成績だけが評価対象になります。

 専攻する分野でも、多少の融通がされるという噂が流れていましたが、私は全く心配していませんでしたし、結果もすんなり”高等学校”への入学が認められました。


 まあ、専攻の所で、少しもめる事になったのはご愛嬌なのでしょう。結局、”高等学校”に進む事が出来たのは、同級生の中の2割弱でした。ですが、私にはここは通過点でしかありません。もっともっと上を目指したいと思います。

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