ノリス 本編37話読後にお読みください
第8話 ノリス君がんばる:前編
皆さん、こんにちは。
僕は、ノリス・ド・レーネンベルク、レーネンベルク公爵家の次男坊です。容姿は、母上似の銀髪碧眼で、少し女性的ですが、周りの皆からは、将来が楽しみと言われています。歳は11歳で身長は155サントです。ちなみに兄上が11歳の頃よりも、10サント近く僕の方が身長が高いです。あまり兄上に勝てる所の少ない僕ですが、身長だけは負けない気がします。
今日は僕のこれまでの人生(といってもそれ程長いものではないですけど)について、お話したいと思います。
僕が覚えている最初の記憶は、多分屋敷の庭と思われる場所で母上にだっこされながら、兄上が魔法の練習をしているのを眺めている風景です。小さな僕の手には兄上を真似て、その辺りから拾ってきた、木の枝が握られていました。その木の枝を、兄上と一緒になって意味も分からす、振り回していました。
そして、そんな幼い日もあっという間に過ぎて、いつの間にか、僕も自分の杖を与えられる日がきました。それは僕の5歳の誕生日でした。僕に与えられた杖の材料は父上のよると、樹齢250年のアリエの木で一級品だそうです。
後で知ったのですが、この頃から、父上は僕と兄上をほとんど同等に扱ってくれていました。この杖の材料の木材も兄上の杖を作る際に取り寄せた木の半分を使った物でした。そんな事を気付きもしなかった僕は、杖を手に庭へと駆け出しました。
杖契約がどんなものか知らなかった僕は、杖を手に、庭でうんうんと唸っているだけで、その日を終えてしまいました。さすがにこれではまずいと思ったので、父上に杖契約について聞くと、何故かひとしきり笑った後、
「ノリスは、自立心が旺盛だな。だが、分からない事は恥ずかしがらずに聞いた方が、よい事の方が多いぞ」
と言いながら、詳しく教えてくれました。そして付け加える様に、
「お前も、リリアの子だからな、もしかすると精霊の声が聞けるかもしれないな」
といいました。精霊というと御伽噺に出てくる、不思議な存在の事でしょうか?
「精霊ですか?」
「ラスティンは杖の精霊と会話が出来るらしいんだよ。詳しくはラスティンに聞くんだな、私には分からない感覚だからな」
「はい、そうします」
僕は兄上の部屋に向かいました。この頃、兄上は元素周期表というものに基づいた、錬金に夢中で、暇があれば部屋に篭っていました。
「あーにーうーえー」
ノックもそこそこに飛び込んだ兄上の部屋では、やっぱり何かの錬金がされている様でした。兄上はその手を休めると、僕に向かって、
「どうしたんだい、ノリス?」
と尋ねてくれました。この頃から兄上は、子供らしくなかったと感じていたことを思い出します。僕は兄上の作業の邪魔をした自覚もなく、
「兄上、僕も今日から杖との契約を始めたんですけど、うまく行かないんです。父上に聞いたら、精霊の声が聞けるかもだから、兄上に話を聞きたいです」
と尋ねました。自分の事ながら、何を言っているか分からないことを言っていましたが、兄上にはちゃんと伝わった様でした。
「杖の精霊?ニルヴァーナの事だね。そうだね、ノリスにも聞こえるかも知れないね。僕も最初の1日は無駄にしてしまったけど、ノリスなら明日にも精霊の声が聞けるかもしれないよ?」
「本当ですか?」
「うん、そうだな。うまく行くコツは、杖の精霊の声を聞こうとすることかな?あ!後、杖に名前を付けてあげると良いよ」
「名前ですか?どんな名前がいいのかな?」
僕が悩んでいると、兄上が杖に話しかけています。その時は変だなと思いました。
「ノリス、良かったら、僕が名前を考えてあげようか?」
「はい、思いつかないから、教えてください」
「”ニルヴァーナ”の妹になるんだから、”シルヴァーナ”なんてどうだい?」
「”シルヴァーナ”ですか?」
「そうだよ、きっと杖の精霊も気に入ってくれると思うよ」
「はい、”シルヴァーナ”にします」
「話しかけてから、返事を聞く感じだよ、忘れない事。今日はもう遅いから早く寝るんだよ」
「はーい」
言われた様に、部屋に戻った僕でしたが、杖の事が気になって仕方がありませんでした。でも、ベッドに横になると疲れていたのか直ぐに眠ってしまいました。
翌日、朝から杖との契約を再開すると、昨日の空回り具合がおかしく感じる程、簡単に杖との契約は済んでしまいました。兄上からの助言通りにしただけなので、少し拍子抜けでした。僕の”シルヴァーナ”は、僕の付けた名前を気に入ってくれました。”シルヴァーナ”は兄上の杖と違って話しかけてくることはありませんでしたが、”シルヴァーナ”の意思はきちんと僕に伝わるので問題はありません。
色んなことを、”シルヴァーナ”に話しかけていたら、父上がやってきて、
「ノリス、ラスティンにも言ったのだが、人前で杖に話しかける様なことはするんじゃないぞ。傍から見ると変な人に見えるからな」
と言われました。そうですね、昨晩、兄上が杖に話しかけているのを見ておかしいと思ったのは僕自身でした。
「はい、気をつけます、父上」
「そうしなさい。それより杖契約は済んだようだな。コモンマジックの家庭教師は連絡すれば明日から来てくれるがどうする?」
「え?明日からもう魔法を習えるんですか?」
「ラスティンの時は失敗したからな、今日以降なら何時でも来てもらえるように手配してあるぞ」
明日から魔法を習えるんですね、でも呪文1つ知らないんだけど大丈夫かな?
「父上、呪文も一緒に教えてもらえるんですか?」
「教えてくれるが、予め知っておいた方が話が早いだろうな」
「じゃあ、明日は呪文の勉強をしたいので、明後日から先生には来てもらいたいです」
「そうだな、そう伝えておこう」
===
そして、僕のコモンマジックの勉強が始まりました。教えてくれたのは、マリナという名前の女性でした。優しく、教え方も巧く、上手に魔法が使えた時は褒める事も忘れず、時には本気で叱ってくれる、本当に良い教師でした。そのマリナ先生が、
「ノリス様は本当に優秀ですね、この調子ならば2年と掛からず、私の知っている全てのコモンマジックを習得出来ますよ」
と言ってくれたのは、本当に嬉しかったです。この話を母上にしたら、
「まあ、私の息子達はみんな優秀なのね」
と喜んでくれました。
「母上はどれ位かかったんですか?」
「私はそうね、3年位だったかしら。テオドラは2年半だったと自慢していたわね」
「じゃあ、兄上はどれ位だったのですか?」
「あの子は1年だったかしら?」
「え!1年ですか?」
僕はそれを聞いて、軽く落ち込みました。表情に出ていたのか、母上が慌てて、
「あの子の場合は、才能もあるでしょうけど、教える先生が良かったのよ」
と付け加えてくれましたが、慰めになっていませんでした。
「どうして、僕は兄上と同じ先生に教わる事が出来ないの?」
悲しくて、こう言ってしまった僕を、母上は優しく抱きしめて、こう言ってくれました。
「ノリス、良く聞きなさい。私達は貴方とラスティン区別するつもりは無いわ。ラスティンがコモンマジックを習った先生はもう故人なの」
「・・・、故人?」
「貴方にはまだ難しかったかしら。もう亡くなって、そう死んでしまっているのよ。分かったかしら?でもね、貴方には、今、最高の教師役を付けたつもりよ。貴方はマリナ先生に不満があるのかしら?」
「ううん」
僕は、涙を堪えながらも首を振りました。
「分かってくれるわね?」
僕は、ゆっくりと頷きました。納得した訳ではないですが、母上の言う事に嘘は無い事が分かったからです。僕は母上に抱かれたまま眠ってしまいました。翌日は何か恥ずかしくて、母上の顔を見ることが出来ませんでした。でも、兄上の家庭教師には興味があったので、また兄上の部屋に行って、話を聞く事にしました。
「兄上?」
「どうしたんだい、ノリス?」
「あの、兄上のコモンマジックの先生はどんな方だったんですか?」
「コモンマジックの先生?師匠のことかい、そうだな」
兄上は嬉しそうに、マックスウェル・ド・ノワールという人の話をしてくれました。その様子を見ると、兄上がどれだけ、その先生を尊敬しているのか良く伝わってきました。
「では兄上、魔法はどんな感じで教わったんですか?」
「そうだね、教え方は普通だったと思うよ。その後が超実践主義だったけど」
「超実践主義?なんですかそれは?」
「言葉では説明しにくな、そうだ言葉通り実践してみよう。ロックとアンロックはもう習ったね?ノリスついておいで」
そう言って兄上は僕を、ある部屋に連れて行ってくれました。何故かそこに着く前にトイレに行かされましたが。
部屋に入ると、兄上は説明を始めました。
「今からこの部屋のドアにロックの呪文をかけるから、お前は自力でその呪文を解呪して、出て来るんだよ?ロックはオリジナルだけど、そんなに複雑にはしないから、心配しなくてもいいよ。それじゃあ始めるよ」
そう言って、兄上は部屋から出て行ってしまいました。外から兄上が呪文を唱えているのが聞こえました。そして魔法が完成すると、兄上は、
「じゃあ、ノリス、頑張るんだよ」
と扉越しに、僕に声をかけて何処かへ行ってしまいました。ようやく状況が掴めた僕は慌てて、アンロックの呪文を唱えます。しかし、手応えがありませんでした。そういえば、兄上がこのロックの魔法はオリジナルだと言っていたのを思い出しました。
ようやく解呪を終えて、部屋から出られた頃には、お腹が空いて倒れそうでした。急いで食堂に向かうと、僕の夕食だけが、ぽつんと残されていました。もう冷えてしまっている食事を、お腹に入れながら、もう2度と兄上に魔法は習わない事にしようと誓いました。
ちなみのこの話を父上にしたら、
「ははは、ノリスも超実践主義がどんなものか分かったかな?」
「はい、嫌と言うほど。父上もロックで閉じ込められたりしたんですか?」
何気なく聞いた一言でしたが、父上は何故か黙り込んでしまいました。どうやら聞いてはいけない事だったようです。僕はこの時、自分の教師がマリナ先生である事に、感謝しました。
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