第7話 シルビーさんの優雅?な1日(3)



 そして、私が警備隊第11班に配属されてから、1年が経過しました。


「はぁ〜」


 最近私はため息をつく事が多くなったと、先輩方に指摘されることが多くなりました。自分では充実した日々を送っていると思っていただけに、その指摘は私の心を不安にさせました。人々に害をもたらす亜人達を滅ぼすことは、私が望んだ事のはずだし、人々からも感謝されているのも事実のはずです。


「ふぅ〜」


 いくら自分に言い聞かせても、ため息の数は減りませんでした。


「シルビー、ちょっといいか?」


「はぁ〜」


「おい、シルビー」


「ふぅ〜」


「こいつは重症だな、ほりゃ!」


「あう、何するんですか〜、マルコさん〜」


 乙女の脇腹を突っつくなんて失礼ですよね? この間も同じ事をされて怒ったら、”シルビーが隙だらけなのが良くない!”と言われて言い返せませんでした!


「少し話しがあるんだ、今良いか?」


 マルコさんが真剣な顔で尋ねてきました。


「はい、構いませんよ〜」


「端的に聞くぞ、シルビー、お前一度警備隊から外れてみるか?」


「え!」


 私はマルコさんの言葉に絶句してしまいました。私は自分が警備隊に十分な貢献をしてきたと思っていたからです。エース級とはいいませんが、班には居なくてはならない存在だと自負していただけにマルコさんの言葉は私の心を激しく傷つけます。


「マルコさん、私はこの班に不必要なメイジなんですか!私の力じゃ、警備隊としての仕事を続けていくのは無理なんですか!」


「おお!そんな口調のシルビー見るのは始めてだな」


「ふざけないで下さい!」


「まあ、落ち着けよ。何もお前が班に必要じゃないとか、お前の能力に不安があるとか言う訳じゃないから」


「じゃあ、何で警備隊を外れるなんて話が出てくるんですか!」


「だから、落ち着けって言うんだ。シルビー、お前、最近良くため息をついているよな?」


 良く分からない質問ですが、それで一応気持ちは落ち着きました。


「そうかも知れませんね〜、先輩達にも指摘されていますし〜」


「そうだな、班員のみんなも心配しているよ。ため息の原因は分かっているのか?」


「いいえ、思い当たる事は無いです〜」


「そうか、自覚は無しか。じゃあ質問だ、お前は亜人退治が好きか?」


「それは好き嫌いの問題じゃないですよ〜、人に害を及ぼす亜人は退治されるべきです〜」


「うーん、それじゃあ、人に害をなしていない亜人を、退治することは正しい事だと思うか?」


「・・・」


 私はその質問にすぐに答える事が出来ませんでした。警備隊のメイジとしては、人に害をなす可能性のあるものは排除すべきだと思うのですが、実際に被害が出ていないとなると、退治することは躊躇われます。今までも何件か実際に被害が出ていないにも関わらず、危険だと言う事で亜人たちを退治したことがありますが、あまり気分の良いものではありませんでした。


「警備隊のメイジなら、要請があれば、躊躇わずに退治すると答えるところだぞ」


「そうですね〜」


「お前は、危険に立ち向かう勇気を持った娘だ。人の役に立ちたいという気持ちも持っている。しかしな、それと同じ位心の優しい娘だと言う事を、俺も他の班員も分かっている。お前の優しい心が、今の状況を良しとしないから、ため息が止まらないんじゃないか?」


「・・・」


「別に警備隊に戻って来れない訳じゃない、1度、警備隊を離れて、自分の心と向かい会ってみた方がいいんじゃないか?今のお前を見ていると、俺達まで辛くなってくるんだ。考えておいてくれ」


 私はただ頷く事しか出来ませんでした。私が優しい心の持ち主と言ってくれたのは2人目ですね、自覚は無いですがそうなのかもしれません。このまま警備隊の仕事を続けていて、自分の優しさが他の班員の迷惑になる可能性に考えが及ぶと何だか怖くなってしまいました。


===


 マルコさんに隊を離れるかと聞かれて悩みましたが、結局警備隊を1度離れてみる事にしました。悩みを抱えたまま出来るほど、警備隊の仕事は甘くないと分かっていたからです。


 その後は、錬金の腕を買われて、錬金隊に転属になりました。ですがマリロットでは、毎日の様にジュラルミン盾とチタン剣を錬金しているだけで、充実感と言うものが感じられませんでした。

 ですが、自分を見詰め直すということには向いていたかもしれません。人の役に立ちたいと言う気持ちはありました、でも罪もない亜人を退治してしまうことに罪悪感があるのも確かの様でした。この話をシモーヌちゃんにしたら、


「そうね、シルビーはそういう娘よね」


の一言でした。もしかしたら、私は自分を見る目がないのかも知れません。


 そんな、ある日、シモーヌちゃんが面白い話を教えてくれました。


「ウチの班長がこっそり教えてくれたんだけど、今度錬金隊から多くの人員をワーンベルに移動させる計画があるそうよ」


「ワーンベルですか〜、確か鉄鋼の町でしたよね〜」


「そう、いまそのワーンベルが大変な事になっているそうなの、何でも鉄鉱石が採れなくなって、町全体の景気が悪くなっているんだって」


「ああ、そういえば最近鉄鋼製品が値上がりして困っているっていう話を聞いたことがありますね〜」


「噂なんだけど、あのラスティン様が!、兵団の錬金を使って町を建て直す考えらしいわよ」


「へぇ〜、ラスティン様がそんなことを〜」


「シルビー、その話に乗ってみない?こんな所で、剣や盾だけ錬金しているより、やりがいがありそうだし、人の役にも立てるんじゃない?」


「そうです〜!それですよ〜!シモーヌちゃん」


「急に大きな声出さないでよ、でも気に入ってくれたみたいね」


「もう移動する人員は決まっているんですかね〜?」


「さあ、班長の話では、近々行きたい団員の募集を始めるかもという話だったけど」


「はいはい〜、行きたいです〜」


「私に言ってどうすのよ、正式に募集がかかるまで我慢しなさい」


「はい〜、楽しみですね〜、シモーヌちゃん!」


それから3日後に、私の班でもワーンベル行きの募集が開始されました。もちろん速攻で応募しました。募集人員が多かった為、その場でワーンベル行きが決定したんですが、班長に、


「シルビー、君は警備隊から移動してきて時間も経っていないから、荷物も少ないだろう?直ぐにでもワーンベルに向かう準備を始めてくれないか?」


と言われたのには困りました。


 女の子はそんなに簡単に引越しは出来ないんですよね。それでも、錬金の仕事を休んでもいいという条件で2日で準備を済ませることが出来ました。やっぱり荷物が少ないというのは事実でした。

 私は、兵団の第一陣としてワーンベルに入りました。ワーンベルに到着して、宿屋だったと思われる建物に落ち着くと、翌日から早速兵団の活動が開始されました。

 私は運悪く施設班になってしまいました。ゴーレム使いとしての実績があったので仕方が無かったです。

 錬金班に入って、さっそくワーンベルの人達の役に立ちたかったですが、自分たちが使う施設を自分たちで作るというのも面白そうだったので、一応は納得していました。


 工場街に始まり、住宅街の建築も順調に進んでいきました。ラスティン様が開発したという錬金を使った建築方法は、建物の建築期間を信じられないほど短縮しました。たった1日で、建物が出来ていく様は実際に作業している私達にとっても、まさしく魔法の様でした。

 施設班の最後の仕事は、レーネンベルク魔法学園の分校の建設でした。魔法学園の卒業生としてこの仕事に関われる事は、とても誇らしかったです。


 分校建設の為に、予定地の高台で予備調査をしていると、ラスティン様に呼び集められて、意見を求められました。始めてラスティン様を間近で拝見しましたが、噂に違わぬ美少年でした。私はどちらかと言うと年上好みなので、単に綺麗な男の子だな〜で済みましたが、美少年好きのシモーヌちゃんが聞いたら悔しがる状況でした。

 その後、私の意見を気に入ってくれたラスティン様を手伝って、井戸を掘る事になりました。水脈の見つけ方も井戸の掘り方も、私が知っている方法とは全く異なっていました。ただの14歳の少年と侮っていたつもりは無かったですがその発想力には驚かされました。


 全ての作業を終えると夕方になっていましたが、有意義な時間でした。帰り道にガストン先生の話で盛り上がれたので疲れも吹き飛びました。いただいた、”シフの涙”は大事に使おうと思います。


 ちなみに、この話をシモーヌちゃんにしたら、何故かすごく恨まれました。3日も口をきいてくれないほど羨ましかったんですね。


===


 そして話は、現在に戻ります。今私達は、住宅街にある寮に住んでいます。建物自体は、何十棟と建っている寮の建物と代わり映えはしませんが、寮母さんの作る料理の美味しさは、住宅街の寮のなかでも一番だと思います。え?何故自分で料理しないかですって、それは魔法を長時間使う私達は仕事以外では出来る限り神経を使わないように手配されているのです。

 すみません嘘を言いました。仲間の中にはちゃんと自分で料理している娘もいます。私もシモーヌちゃんも料理は得意ではないのです。


 朝起きて、顔を洗い、その後、寮母さんの美味しい朝御飯をいただいた後、私達は寮母さんに見送られて、工場街へと出勤します。そこで簡単に今日の作業の打ち合わせを行った後、10人程の班に分かれてそれぞれの錬金の作業に入ります。ちなみに今日は大量に注文が入ったアルミ製の鍋を錬金します。


 作業の工程は大体、


1.倉庫から材料になる石材をゴーレムにして、工場まで運搬

2.ゴーレムを解体して出来た石材を抽出(イクストラクト)してケイ酸塩石の純度を上げる

3.ケイ酸塩石を元素変換(コンバージョン)してアルミを生成

4.アルミを抽出(イクストラクト)で純度を高める

5.アルミを成形(フォーム)で鍋の形にする

6.出来たアルミ鍋を完成品倉庫に運ぶ


の順番になっています。


 慣れてくれば、4.の工程は無くても良くなるそうです。また6.の完成品を運ぶにはレビテーションを使います。


 ところで私達の中でひっそり流行っている事があります。それは自分が錬金したものにこっそり小さなパーソナルマークを入れる事です。私のパーソナルマークは、デフォルメした子犬です。町の金物やでもしデフォルメした子犬のマークが入った鍋なんかを見つけたら是非買って下さいね、品質は保証しますから。

 作業が終わった後は、休憩所でシャワーを浴びて1日の疲れを洗い流します。このシャワーというのはラスティン様の発案らしいのですが、大半の女性メイジには大好評です。専任の火メイジがいる為、多少待つ事はあっても朝から夜まで何時でも使えるのが嬉しい所です。


 シャワーを浴びた後は、寮に戻って、寮母さんの美味しい夕食を食べます。そして、少しシモーヌちゃんと今日あった事などを話し合った後、就寝します。これが最近の私の一日の生活です。


===


 ワーンベルで仕事を始めてから数ヶ月が経過しました。最初の頃は色々な鉄鋼製品やアルミ製品を作らされる事に戸惑いを覚えましたが、1月もするとそれには慣れてしまいました。

 毎日の様に色々な錬金を繰り返した為か先日、目出度くトライアングルメイジに昇格しました。といっても、シモーヌちゃんをはじめ周りには異常と思える位トライアングルメイジが多いのでそれ程自慢になりません。中にはスクエアクラスもいるほどです。


 ワーンベルの人達は、ほとんどが我々魔法兵団によくしてくれます。私たちもワーンベル復興の為これからも頑張って行こうと思います。もし私が大好きなこのワーンベルが亜人等に襲われる様なことがあったら、昔の経験を生かして真っ先に退治を買って出ようと思います。

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